第256話 杖

 地面に砦を描き、その周辺に石を置いてメビとアルズライズに現状を教えた。


「まだ本格的な狂乱化にはなってないが、それも時間の問題だろう。数は凡そ六百から七百匹。主に西側に集まっていて、残りは周辺に散っている。気配の感じからして弱いのが弾かれたんだろう。殺すには楽な存在だ。オレらはそれを駆除するぞ」


 西側には処理肉でも蒔いているんだろう。ラダリオンたちの気配がそちらに集まっているからな。


「メビは南から。アルズライズは北から攻めていってくれ。オレは突っ切って砦に入る。稼ぎたいだろうが、進みすぎてミリエルの眠りの魔法にかかるなよ。あれは下手したら永眠になるからな」


 食らってみたらわかる。あのエゲつなさ。まだ幼いメビなら本当に永眠になりそうだわ。


「わかった」


「了解だ」


 若干、メビの返事は心許ないが、弱っているゴブリンだけだしそう危険はないだろう。弾切れでもナイフで戦えるしな。


 もう一度、それぞれの動きを確かめ合ってからゴブリン駆除を開始する。


 正面のゴブリンを割るように連射で撃ち、左右に割れたらマガジンを交換。単発撃ちにして一匹一匹撃ち殺していった。


 P90装備のメビも単発撃ちでゴブリンを撃ち殺していき、アルズライズはデザートイーグルで撃ち殺していっている。


 メビはいいとしてアルズライズは弾が足りるのだろうか? デザートイーグルは六発。予備マガジンは五本だけだった。計三十六発しかないだろうに、戦術を間違えてないか? いや、練習しているからいいのか?


 まあ、アルズライズにはアルズライズの考えがあり、戦闘スタイルがある。オレがどうこう口を出すのはおこがましいってもんだ。


 撃ち殺しながら砦に向かうと、矢が飛んできてゴブリンに刺さった。


「こっちだ!」


 どうやら矢を放ったのは兵士のようだ。ちゃんと弓矢を持ってきてたんだな。


 死ぬ前に撃ち殺してから開けてくれた門へ飛び込んだ。


「援護、ありがとうございました。まだ二人外にいるんで注意しててください」


 そう言ってサイルスさんたちがいる壁に上がった。


「遅れました。状況は?」


「いい感じに温まってきた。そろそろミリエルを突入させようとしていたところだ」


 サイルスさんが下を見たので、オレも釣られて下を見た。


 盾を構えた兵士たちの後ろに杖を持ったミリエルがいた。杖?


「あの杖は?」


「魔法使いが持つ魔力補助の杖だ。城にあったからミリエルに渡した。今回の報酬だ」


 あーそうだったな。魔法使いは自らの魔力だけでは足りないから魔石の魔力を使うって。


「ミリエル! 開始だ!」


 盾を持つ兵士が左右に分かれ、ミリエルが歩き出した。


 狂乱化したゴブリンの中に無茶な! とかはならない。少しずつ眠りの魔法を展開しているようで、三メートル内に入ると、電池が切れたように倒れていく。


「本当にエゲつない魔法だ」


 これがゲームなら金返せってレベルのクソゲーだぞ。


 ミリエルに触れることなくゴブリンは眠らされていき、百メートルほど進むと、杖を掲げて広範囲に眠りを放った。


 波紋が広がるように倒れていくゴブリン。一種、感動すら覚える光景である。確実に三百匹は眠らされただろう。


「タカト。砦は頼む。マリエンズ! しばらくしたらゴブリンを拘束しろ! まだ眠りの魔法が漂っているから注意しろ」


 そう叫ぶと壁から飛び降り、眠らなかったゴブリンに向かって駆けていった。


「タカト、わしもいってくる」


「わたしもだ」


 カインゼルさんとミシニー、そして、ビシャまで降りていってしまった。なんだがな~。


 まあ、今回は捕獲が目的であり、支援に回る気でいたから構わないのだが、我先に突っ込んでいく皆を見てるとなんだがな~って思いは出てくるぜ。


「ん? ラダリオンがいないな?」


 気配がないところをみるとホームに入ったか。昼飯か?


 頼むと言われた以上、ここを離れるわけにもいかないので、缶コーヒーを取り寄せ、飲みながら皆を見守った。


 請負員は皆才能溢れる者ばかりだから眠りの魔法から逃れたゴブリンを次々と駆除していき、三時前には粗方駆除し終えた。


「タカト、終わった?」


 と、巨人なラダリオンがやってきた。なんか寝てたっぽいな。


「ああ。粗方な。あとは眠らせたゴブリンの拘束だな。暗くなる前に終わるかどうかだな」


 兵士は五十人くらい連れてきたみたいだが、三百匹を拘束するとなればかなりの時間を費やすだろう。てか、三百匹すべてを城に運ぶんだろうか? 片付けも大変だろうに。


「明日、領主代理の代理がくるって言ってた」


「代理の代理?」


 なんじゃそりゃ?


「まあ、それはサイルスさんに訊くよ。ラダリオン、悪いがラザニア村に戻ってくれるか? 暗くなったらホームに戻っていいから」


 もう駆除員がここにいても仕方がない。ラザニア村で待機しててもらったほうが万が一のときに備えられるってものだ。


「わかった」


 一旦小さくなり、砦を出ると巨人になって駆けていった。


 一仕事終えたサイルスさんたちと疲れ果てたミリエルが帰ってきた。


「ミリエル、ご苦労様な。ホームに戻って休んでこい。あとはオレが引き継ぐから」


「……はい。お願いします……」


 相当疲れているんだろう。オレの言葉に素直に従い、ホームへ入ってしまった。


「皆もご苦労様な。ゆっくり休んでくれ」


 ビニールプールに水を溜めていたようなので、まずは汗を流してもらい、酒飲みには冷えたビールを。甘党にはよく冷えたジュースを出してやった。

 


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