第390話 ネゴット(鬼ごっこ)

 イチゴの学習能力は高く、すぐに416Dやグロック19の扱いを覚えてしまった。


 光学照準器がついてないのに命中率が高い。五十メートル先のペットボトルのキャップを撃ち抜いちゃったよ。


「リンクスも教えておくか」


 ゴブリンより魔物を相手してもらうんだからリンクスを覚えてもらったほうがいいだろう。オレ、ゴブリン以外と遭遇するほうが多いんでな……。


 リンクスを取り寄せ、イチゴに撃たせた。


 学習能力が高いから二十発も撃つとオレより、いや、プロの狙撃手並みの腕になっていたよ。そりゃ、昔のエルフが滅びるわけだ。こんなのが何百体といたら勝てねーわ。


「タカト。イチゴは剣を使えるの?」


「学べば使えるようになるぞ」


 初期化して前のデータは消えてしまったが、打ち合いをすれば凄まじい勢いで覚えるだろうよ。


「まあ、いきなりは怖いから鬼ごっこからやってみるか」


「おにごっこ? なにそれ?」


「メビが逃げてイチゴが追いかけて捕まえる遊びだな。そんな遊びやったことないか?」


「ネゴットだね! やったことあるよ!」


 世界が違えど単純な遊びは自然と生まれるんだな。ふっしぎー。


「よし。メビ。装備を外して全力で逃げろよ。範囲はこの発着場内だからな」


「わかった。かけっこならねーちゃんにも負けないんだから」


 オレには二人の脚が異次元すぎて比べることもできんよ。


「イチゴ。416Dは置いて十数えたらメビを捕まえろ。怪我はさせるなよ」


「ラー」


 ってことでメビがダッシュで遠ざかり、十数えてイチゴが駆け出した。速っ!


 オレでは五秒もしないで捕まってしまいそうだが、ビシャにも負けないと言っただけはある。てか、追いかけっこが高次元すぎて目が追いつかないよ。


「……スゲーな……」


 とても十歳の子が出せるスピードじゃない。獣人じゃなく超人なのか? 大人になったとき、二人に突進されたら確実に死ぬな……。


「イチゴも凄いな」


 最初はメビに翻弄されていたが、少しずつ追いついていき、なんかメビの動きを予測しているような動きだ。あ、追いついた!


 メビのフェイントを予測してか、右に逃げるような動きをしたのに、なぜか左に動いてイチゴに捕まっていた。


 脇を抱えられてオレのところまでくるイチゴ。


「イチノセ。捕まえました」


「ご苦労様。マナックの減りはどうだ?」


「一割も減っておりません」


 約十分動いて一割切ってないか。なら、全力だと二時間は動けるってことか。よほどの敵を相手にするんじゃなければ充分な時間だな。


「メビもご苦労様。いいネゴットだったぞ」


「負けちゃった」


「また勝負するといいさ。メビはまだ子供なんだからな」


 子供でも驚異だけどな。もうチートだよ。


「……早く大人になりたいよ……」


「そう急ぐことはないよ。ゆっくり大人になればいい。子供のときにしかできないことはいっぱいあるんだからな」


 元の世界のように、とはいかないが、同年代の友達は作ってやりたいと思うよ。大人ばかりの中で育ったらひねくれた性格になるかもしれないからな。


「…………」


「あはは。そういう子供っぽいところがあれば大丈夫だな。さあ、オヤツにするぞ」


 メビの頭をわしわしと撫でた。


「マカロン食べたい」


 随分とお洒落なもん知ってんな。オレ、マカロンなんて食ったことないぞ。三色最中なら同僚のお土産でよく食ったことあるけど。

 

「アルズライズ! オヤツにしよう!」


 集中しているから聞こえないかな? と思ったらしっかり届いたようで、マンダリンを飛ばしてやってきた。都合のいい耳だな!


「マカロン買ってくるから飲み物は各自で買えな」


 そう言ってホームに入り、マカロンをたくさん買って戻ってきた。


「マカロンってこんな味したんだな」


 最中とばかり思ってたら違うのな。ってか、美味いってより甘いな。これならプチパイのほうがオレは好きだな。


「アルズライズ。請負員カードでプチパイを買ってみてくれ」


 ホームに戻るのが面倒なのでアルズライズに買ってもらうとしよう。こいつなら菓子だと理解して買うだろうからな。


「──これか。見た目で美味そうだとわかるな」


 と、箱で買うアルズライズ。うん。そこまでは見抜けなかったな~。


「アルのおじちゃん、ちょうだい!」


「あたしも!」


 二人に引っ張られながらも微動だにしないアルズライズの安定感よ。父親感がハンパないな。


 オレもプチパイをもらい食べる。うん。仕事の休憩時におばちゃんらと食ったのを思い出す。オレ、おばちゃんらにらモテたんだよな。まったく嬉しくなかったけど!


「アルズライズ。マンダリンは慣れたか?」


「もう少しだな。浮いている分、ウルトラマリンより扱いが難しい」


「そうか。オレも練習するか。帰りはマンダリンでいっきにいきたいからな」


 またあの階段を下りるのは勘弁して欲しい。せっかく穴が空いて外に出れるのだからマンダリンで楽して帰りたいよ。


「マンダリンは二台だけ持っていくのか?」 


「もう二台は持っていく。ミリエルやカインゼルさんも乗りたいだろうからな」


 本当ならすべて持っていきたいところだが、マナックの量を考えたら四台が精一杯だろう。マナックはイチゴにも使うんだしな。魔王と戦う者といつ会えるかもわからないんだしな。


「惜しいな。あんなにあるのに」


「たくさんあっても維持管理ができないからな。仕方がないさ」


 ガレージも二台入れるのがやっと。さらになんてミサロに怒られるよ。


 オヤツタイムが終ればオレもマンダリンに跨がって練習を開始した。

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