第300話 救世主コマツ

 思いの他、ゴブリンが溢れ出た。


 ざっと三百匹は駆除したと思うが、逃げ出したのはその倍。いや、下手したら五百匹はいたんじゃなかろうか? 洞窟、どんだけ深いんだよ?


「タカト、追うの?」


「いや、放置で構わない。それより死体を片付けるぞ」


 洞窟の前が死体で埋まっている。これを片付けないと中に入ることもできないよ。


「アリサ。三人くらい連れて周辺の警戒をしてくれ。ビシャはヒートソードでゴブリンを埋める場所の雪を溶かしてくれ」


 そう指示を出してチートタイム発動。ゴブリンの血を集めて遠くへポイ。これで運ぶのも燃やすのも楽だろうよ。


「油圧ショベルを買ったカインゼルさん、グッジョブだよな」


 ゴブリンの片付けに意識を向けてなかったが、長期間その場に止まるなら片付けは必至。油圧ショベルは救世主的存在だぜ。


 ホームに戻り、ミサロにミリエルが戻ってきたときに油圧ショベルをホームに入れてもらうよう伝えた。


「ミリエル、今はマイセンズの砦にいるんじゃなかった?」


 あ、そうだった! 帰すの忘れてた!


「すっかり帰していた気でいたよ」


「それ、わざと言わなかったのよ、ミリエルは。あの子、閉じ籠っているより動いているほうが性に合っているからね」


 うん、まあ、そんな節はあったが、ホームに入れる者がいないと各地の状況がわからない。情報の共有化もできないし。


「駆除員枠、一つ空いているんだから交渉役に長けた者をいれたらいいんじゃない?」


 確かに一枠空いている。が、駆除員にすると言うことは生涯ゴブリン駆除をさせると言うことだ。とてもじゃないが気軽には誘えないよ。


「その、巻き込んでしまった感、止めてくれない。わたしは──ううん。わたしたちは自分で決めて駆除員になったのよ。確かにタカトの気持ちもわかるわ。けど、わたしたちは望んでタカトの側にいるの。それを否定しないで」


「…………」


 ミサロの言葉になにも返せなかった。


「タカトが選んだなら、わたしたちは受け入れる。けど、その前に相談してくれると嬉しいわ。特にミリエルにはちゃんと言っておかないと面倒なことになるわよ。思い込みの激しい子だからね」


 さすが同性。女のことは女がよく知っている、か……。


「わたしは、ミリエルやラダリオンのようにタカトの横に立って戦うことはできない。だから後ろでタカトを支えるわ」


 その微笑みに、こちらも頬が緩んでしまう。まったく、十七歳とは思えない懐の大きさだよ。


「……ありがとな……」


 まったく、もっとしっかりしろ、オレ! 皆より十以上歳上なんだからよ!


 パン! と自分の両頬を叩いて自分に活を入れる。


 寿命で死ぬと決めたんだ、生き抜く方法を考えろ! 環境を調えろ! 弱いなら弱いなりに頭を使い、人を使い、この苦境を乗り越えろ、だ。


「ラダリオンがきたらアシッカにくるように伝えてくれ。可能ならシエイラもきてくれると助かる」


「わかった。シエイラと相談してみるわ」


 ほんと、頼りになるヤツだ。こいつ、本当に十七歳なのか? もしかして、知能指数、メチャメチャ高かったりする?


 即行動とばかりに玄関に向かって外に出ていった。


「よし。オレもやるか」


 タブレットをつかみ、油圧ショベルを探した。


「うん。七十パーオフかプライムデーでもなけりゃ買えんな、これは」


 そこそこのものは四百万円。買えないわけじゃないなが、買ったら残り二百万円を切ってしまう。買う気持ちが一瞬で冷めたわ。


「ん? このマイクロショベルなら八十万円以下で買えるな」


 オモチャみたいなサイズだが、生身で穴を掘るよりは遥かにマシだ。重量も三百キロ。トレーラーに積んで運べもする。試しにこれを買ってみるか。使えないなら農作業に回せばいいしな。


「コマツ、PC01か。パケットもいろいろあるな。交換パケットもそう重くもない感じだ」


 玄関に移動して購入。説明書を熟読する。


「これ、ガソリンで動くんだ」


 重機はみんな軽油かと思ってたよ。


 操作はなんとなく理解した。あとは実践あるのみだ。


 エンジンをかけて外に出ると、アルズライズとカインゼルさんがいた。


「やるなら呼べ」


 ぷんすこなアルズライズにPC01を目を輝かせて見ているカインゼルさん。これはなんて状況?


「悪かったよ。だが、五百匹は野に放たれた。いい的になるぞ」


 って考えもあるが、エルフたちを稼がせるためでもある。まあ、あんなに出るなんて思わなかったけど。


「……そう、だな」


 ぷんすこが消え、思案に入った。


「タカト。これはパワーショベルなのか?」


「ええ。一番小さなものです。ミリエルが町にいないので死体埋めに思い切って買いました。そう深い穴を掘る必要もないですし、使えないなら農作業に回せますからね」


「そうか」


 と、無理矢理下ろされ、マイクロショベルに跨がった。いやまあ、いいですけどね……。


「操作法は違いますが、ショベルの動きは同じです」


 とりあえず簡単に教えると、働く車好きなカインゼルさんはすぐに覚えてしまった。まあ、がんばってください。


「タカト。ショットガンとアポートポーチ、あとメガネを貸してくれ」


 ベネリM4を取り寄せ、アポートポーチはカインゼルさんから。メガネは……ホームか。取り寄せっと。


「エルフにもさせるから仲間撃ちはするなよ」


「そんなドジはしない」


 あ、そうですか。がんばってくださいな。


「ビシャ。エルフたちと死体の片付けを頼む。オレはマイセンズの砦にいってくる。アリサ、二人連れて戻るぞ」


「はい、わかりました」


 マイセンズの砦までなら五キロ。道も築かれているので歩いて戻ることにした。

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