第492話 毒花

 起きたら十一時を過ぎていた。


 ベッドから出て窓の外を見れば土砂降りの雨。雨具を着てゴブリン駆除をやりたいとは思えないほどだった。


 ハァー。いくら媚薬を盛られたとは言え、オレはなにやってんだか。まんま野獣じゃねーか。なんかスゲーショックだわ……。


 でも、スゲーすっきりしたのも事実。オレ、そんなに溜まっていたのか?


「……タカト……」


 シエイラが目覚めたようだ。


「そのまま寝とけ」


 バケツと水を取り寄せ、ヒートソードでお湯に。シエイラの体を拭いてやった。


 オレ、こんなに欲情する質だったっけ? もっとタンパクな質……だったっけ? あれ? どうだったっけ?


 欲情を抑えてシエイラを綺麗に。汚れたシーツを取り替え、新品の毛布を取り寄せてかけてやった。


「ゆっくり寝てろ。酷いなら回復薬を飲めよ。水よりスポーツ飲料のほうがいいか?」


「だからタカトはわたしの母親なの?」


「お前を守る存在だよ」


 ダメ女神が原因とは言え、駆除員──特別駆除員となってしまった。オレの近くにいたばかりにな。ラダリオンたちと同様、守るべき存在だ。


「たからそう言うことを素で言わないでよ。それと、わたしから見てもタカトを守る存在よ。ラダリオンもミリエルもミサロも、ね」


 ん? 三人も?


「……まさか、ラダリオンたちもグルなのか……?」


 なんの陰謀だよ?

 

「あの子たちもタカトを守りたいのよ。タカトは無茶をするから」


「したくてしているわけじゃない。オレは臆病で道筋立ててから挑むタイプだからな」


 それを許してくれないのが現実ってヤツだ。


「ハァー。ラダリオンたちにどんな顔で会えばいいのやら……」


 十代の女の子に言えることじゃないだろう。


「あの子たちはそこまで幼くないわよ」


 そう言われてもなんの慰めにもならんわ……。


「まあ、いいよ。オレは他のヤツらの様子を見てくる。お前は寝ていろ」


 オレは水を二リットル飲んで回復した──とは言え、腹が減った。オレ、どんだけがんばったのやら。巨人になる指輪をしてたら干からびてたかもな。


 まだホームにいく心構えができてないので部屋で体を拭き、新しい下着を取り寄せて着替えた。


「……そう見られると恥ずかしいんだが……」


 散々見られてなんだが、気分が冷めると羞恥心が出てくる。そうじっくり見られると恥ずかしくなるよ。


「ふふ。ごめんなさい」


 謝りはするが止める気はないようなので、さっさと装備を纏って部屋を出た。


 食堂にくると、青年たちしかいなかった。


「お疲れさん。酷い雨だな」


「ああ、この時期にしては珍しい大雨だよ」


 まさか、ダメ女神が降らしてんのか? オレらをよろしくさせるために?


「まあ、結構稼げたみたいだし、今日はゆっくりするといいさ」


 テーブルの上には上等のワインやツマミが並べてあり、朝から飲んでいる感じだった。


 まだ昼にはならないが、厨房に声をかけたらなんかの肉を煮込んだものと黒いパンを出してもらえた。


 今はなんでも構わないと食べ、缶ビールで胃に流し込んだ。


 昼に飲むビールの美味いことよ。五臓六腑に染み渡るとはこのことを言うんだろうよ。


 まだ足りないのでホームからツマミとワインを取り寄せた。


「マスター」


 一人宴会をしてたら職員たちがやってきたので、大人数宴会に切り替えた。


 まあ、アシッカにいったときも職員の安らぎのために宴はやった。これで英気を養ってもらえるなら安いものだ。


 ただ、なんだか職員たちの様子がおかしかった。なんだかお祝いされているような気がするんたよな?


「そんなに、シエイラのことが気になるのか?」


 思い浮かぶことと言えばそのくらいしかない。なので、思い切って口にした。


「あ、まあ、シエイラが落ち着いてくれたらこちらとしても助かりますからね……」


 ん? どういうことだ? シエイラ、嫌われていたのか?


「あれは冒険者ギルドでも特別な存在でしたから」


 誰も口を開こうとしない中、四十手前の職員がやっと口を開いた。


「マスターもシエイラの性格がどんなものか理解してますよね?」


「まあ、男としては接し難い女ではあるな」


 オレが二十歳くらいの童貞だったら絶対服従させられていただろうよ。


「冒険者ギルド内ではシエイラは毒花と呼ばれていました。優秀な男を枯らす女とね」


「ふふ。確かにそんな女だな」


 いったい何人の若者が食われたことやら。ちゃんと幸せになっているといいんだがな。


「サイルス様もシエイラのことは手を余していましたよ。ですが、マスターは毒花の毒がまったく効かない上に上手く御している。男として尊敬しますよ」


 ……シエイラ、酷い言われようだな……。


「マスターといるシエイラは年相応、いや、年齢より若く見えます」


「そんなシエイラを相手するのも大変そうだがな」


 元々な性格が厄介なんだ、どう変わろうとも厄介でしかないだろうよ。


「まあ、おれらは応援しますよ。なんだかんだ言って優秀な女ですからね。マスターを支えてくれるでしょう」


 それがわかるからなんも言えないんだよな~。


「シエイラを特別駆除員とした。まあ、だからなんだと言われると困るんだが、よりセフティーブレットに必要な人材となった。他の職員にそれとなく広めておいてくれ。どう広めるかは任せるよ」


 きっとよろしくやったことは薄々わかっているだろう。否定する気もない。そんなことで恥ずかしがる年齢でもないからな。


「今日は飲みましょう」


 職員から一斉にワインを注がれ、ため息一つ吐いていっきに飲み干した。


 ───────────────


 巨人になれる指輪。それは巨大になれる、ではなく、巨人になれるって意味。……わかるよね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る