第424話 竜の血

「……タカト。気分はどうだ?」


 目が覚め、ぼんやりと天井を眺めていたらミシニーの顔が現れた。


「悪くはない。オレ、どのくらい眠ってた?」


「一時間くらいだ。今は皆集まって休んでいるよ。お前もまだ休んでいろ。ラダリオンが警戒しててくれてるから」


 そうか。ラダリオンがいるなら安心だな。


 すっと意識がなくなり、また目覚めたら起き上がれるくらいになっていた。


 いつの間にかテントの中に移され、メビとビシャも寝袋に入って眠っていた。


 テーブルに置いてあるプランデットをかけて起動させ、三次元マップを展開。生体反応を重ねた。


 ……全員生きてるな。よかった……。


 上半身を起こしたままホームに入る。


 玄関には誰もいなかったが、中央ルームからミサロの気配がする。オレの気配に気づいてすぐに玄関に出てきた。


「タカト!」


「心配かけたな。勝ったよ」


 ラダリオンから聞いていると思うが、ちゃんとオレの口から伝えるのが責任だ。たくさん心配させて、陰ながら支えてくれたんだからな。


 あまりスキンシップするタイプじゃないミサロが抱き締めてきた。


「……よかった……」


 見た目も言動も大人だが、まだ中身は十七歳。心まで成熟しているとは限らない。人間の中で育ったわけでもないミサロが、人間の中で過ごすのはストレス過多だろう。ましてやホームで一人で待つのも辛いだろうしな。


「皆やミサロがいてくれたから生き残れたよ」


 自分一人で勝てたなんて冗談でも言えない。最初からチームで挑み、チームの協力があったから勝てたのだ。オレ一人なら早々に死んでいたよ。


「うん。お腹空いてない? いつでも食べられるように用意してあるわ」


「ありがとな。まずは水をもらえるか? 喉が渇いて仕方ないんだよ」


 気のせいか、疲れるとすぐ喉が乾くんだよな。これって水属性だからか?


 玄関に常備しているペットボトルを取ってもらい、いっきに飲み干す。あー沁み渡るー。もう一本!


「ふー。元気出たよ」


「タカト、魔力が大きくなってない? 並みの魔法使いくらいになっているわよ?」


 うん? 魔力が大きくなった? 魔法使い並み? 


「そう、なのか? オレにはよくわからんのだが……」


「もしかして、竜の生き血を飲んだりした?」


「生き血?」


 なにそれ。どういうこと?


「竜の血には人を狂わす毒があると言われているの。普通なら死ぬほどの毒なんだけど、たまにその毒に打ち勝つ者がいて、竜の力が宿るそうなのよ。魔王も竜の血を飲んで強くなったと言われているわ」


 血? あ、そういや、なんかドロっとしたの被ったな! あれ血だったのか? オレ、危うく死にそうだったのかよ。いつものことなのが悲しいけど! 


「タカトは女神の使徒だし、普通の人間とは体の作りが違うのでしょうね」


 た、確かにこの世界に合う体にしたとかなんとか言っていた。しかも、三段階アップしている。竜の血に耐える条件は揃っていた、ってことか? しかもちょうど竜の血を浴びたときはチートタイム中だったしな……。


「……マジか……」


 つまりオレは人間辞めさせられたってことか~。いや、この世界に連れてこられたときからか。オレのアイデンティティーが行方不明だよ……。


「回復薬で治るかな?」


 女神製の回復薬はDNA障害すら治してしまう。竜の毒でも治せるんじゃね?


「うーん。どうかしら? 竜の血は病気とは違うし、魔力が上昇したということは体内にある魔石が変化したということだと思う。回復薬では治らないんじゃないかな? あ、でも奴隷紋は消えたし、効くのかな?」


 ま、まあ、体になにか変化した感じはしないし、魔力は……よくわからない。死ぬわけじゃないんなら構わないさ。魔力が上昇するなら魔法がたくさん使えるわけだしな。


「どうなったかはあとで確かめるとして、食事をするか。腹も減っているしな」


 体に異変はないのだから腹を満たすことを優先するとしようかね。


 なんかいつもより食った気がしないでもないが、空腹はなくなり、力と気力も回復してくれた。これでビールが飲めたらもう一度グロゴールと戦い……ませんね。もう竜なんて見たくないわ。


「外の連中にも食わせたいから頼むよ」


「ラダリオンに持たせたから大丈夫よ」


 そうなんだ。やはり、ホームに入れる者が一ヶ所に二人いると便利だよな。一人だと融通が利かんわ。


 シャワーを浴びてVHS−2に着替えたら外に出た。


 メビとビシャはまだ眠っており、起きる気配はない。そっとテントを出た。


 外は森の中で、目の前にはグロゴールが横たわっていた。


「こうして見ると、よく倒せたものだよな」


 頭から尻尾の先まで軽く四十メートルはあり、羽を広げたら五十メートルはあるんじゃなかろうか? 胴体だけでも十五メートルはありそうだ。


 RPG−7を二十発近く直撃しているのに、失っているのは右脚と頭だけ。こいつの鱗、どんだけ硬いんだよ。この世にいていい生き物じゃないわ。


「タカト、起きたか」


 近くでグロゴールを見ていたらサイルスさんがやってきた。


「面倒かけてすみません。オレが代わるのでゆっくり休んでください」


「お前たちほど活躍してないから疲れてないよ。それより、グロゴールをどうする?」


 ん? どうするとは?


「竜だぞ。鱗一つ売っただけで一生遊んでくらせるだけの金になる。それが丸々一体だ。この分では魔石もとんでもないだろうな」


 確かに竜素材は貴重か。なにに使うんだと言われたら想像つかんけど。


「魔石は欲しいですね。魔王と戦っている人に渡したいので」


 これだけのサイズならマンダリンを整備してくれる部屋を創れるはずだ。


「勇者がいるのか!?」


 あれ? サイルスさんに言ってなかったっけか? 完全に言っていたつもりだったよ。


 ──────────


 さあ、次はなにをしようかな?

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