第425話 共通認識
「……そうか……」
リミット様のことや魔王と戦う者がいることを語った。
まあ、語るほどの情報もないんだが、サイルスさんには重い話だったようで、押し黙ってしまった。
奥さんは国に関わる人。サイルスさんとしても他人事ではない。身近な問題として受け取っているのだろう。オレには完全無欠に関係ないけどな。
「鱗は十枚剥がして三枚はサイルスさんが持ち帰る。三枚はアシッカに。二枚はセフティー・ブレットに。アルズライズとミシニーに一枚ずつでどうです? 魔石はもらいますけど」
十枚くらいなら巣で拾ったかにすればいい。場所は地下空洞の中で、グロゴールに見つかって戦闘。辛うじて逃げ出せたが、そこまでの洞窟は崩されてしまいました~とか言えば言い訳も立つさ。
「万が一のときのためにホームに二、三個置いておきます。必要なら渡しますよ」
「……そうだな。グロゴールを倒したなど国を騒がせるだけか。十枚なら適切な数だな……」
「自ら問題を大きくすることもないですしね」
あれだけ苦労してまったく儲けがないのもやりきれないし、たくさんあっても値崩れするだけ。一生遊んで暮らせるだけの金になるならそれで充分だろう。どうせ、この世界の金はオレが生きやすい環境にするために使うしか道がないんだからな。
「ああ、まったくだ。ほどほどにしておくとしよう」
「とは言え、剥がすのが大変そうですね」
てか、どうやって剥がせばいいんだ? オレ、魚すら捌けないぞ。
「ヒートソードで焼き切り、バールで剥がすしかないな」
オレにはわからないので、サイルスさんの指示で鱗を剥がすことにした。
手頃なサイズの鱗の隙間に金テコバールを突っ込み、隙間を作ってヒートソードを千度にして肉を焼いていき、三時間かけて一枚を剥がせた。
「な、なかなか重労働ですね」
「そうだな。竜は死んでも厄介だよ」
ヒートソードの熱さと金テコバールの扱いで汗だくだ。
「そうだな。急がず交代でやっていくしかないか」
見張りはラダリオンやイチゴ、ミシニーに任せてあるので、ローダーやロスキートの心配せず集中できる。
ゆっくり休みながら十枚の鱗を剥がし、こびりついた肉を焼いたりバールやヘラで削り落としたりと、五日もかかってしまった。
「一段落しましたし、一日休日としますか。酒を持ってきますよ」
こちらには二十四時間働けるイチゴがいる。安全を考えて午前班と午後班にわかれて飲めば問題あるまいて。
ホームから酒やツマミなんかを持ってきて、まずはエルフたちに酒盛りしてもらった。もう十日以上飲んでないって言うからな。
「ミシニー。ちょっと手伝ってくれ」
お前は毎日飲んでんだから働いてもらうぞ。
「なにをするんだ?」
「魔石を取り出す」
いい感じに血も抜けた。そのためにもミシニーにゴーレムを創ってもらって腹を向かせてもらい、心臓辺りをかっ捌く。あとは抉っていくしかないだろう。
「竜は生きてても死んでても手間のかかる存在だな」
それは皆の共通認識。大地に染みた汗が語っているよ。
十五メートルくらいのゴーレムを創り出すと、創った分の穴が空く。
ドシンドシンとゆっくりと回り込み、その穴にグロゴールを転がり落として腹這いとさせた。
「ハァーハァーハァー。……さ、さすが、に、これだけの、ゴーレムを動かすのは、辛いな……」
ミシニーも大粒の汗を流して両膝をついていた。これでお前も汗を流した仲間だ。
「で、ここからどうするんだ?」
興味深そうに見物しているアルズライズが尋ねてきた。
「チートタイムを使って水分を抜く」
このためにチートタイムを十日近く封印してきたのだ。
グロゴールに這い上がり、ヒートアックスを取り寄せて鱗がないところに振り下ろした。硬っ!
「皮のところですらこれだものな、参るぜ」
「おれがやる」
ヒートアックスをアルズライズに奪われ、力強く振り上げ、渾身の力で振り下ろした。
「おっ。さすがアルズライズ。刃が突き刺さったよ」
何十回と突き立てると、皮が破れて肉が出てきた。
「もういいぞ」
軽く百回は振り下ろしただろう。四十センチは叩き切れた。
アルズライズにペットボトルを渡し、皆にグロゴールから降りてもらった。巻き込むと大変だからな。
傷口に両手を突き出してチートタイムスタート。グロゴールの水分を吸い取った。
一分で十メートルくらいの水分が取り出すことができ、遠くに放り投げた。
チートタイムを停止。これと言った疲れはなく、逆に力が満ちていた。
「サイルスさん。剣で斬ってみてください」
「ああ。わかった」
剣を抜いて傷口を一閃。スパーンと斬れた。
オレの属性は水だ。どこかのサンドサンドの能力のように水分をすべて取り出せは筋肉だって脆くなるはずだ。
「ロズ。午後まで肉を切り裂いてくれ」
「任せてください! お前ら、やるぞ!」
こういうことはドワーフが一番頼りになるし、グロゴール退治に参加した意味を持たせることもできる。あ、ドワーフの誰かに鱗の盾を持たせるのもいいかもしれん。ロズたちを竜殺しの英雄とすれば同胞が増えたとき、纏めるのが楽になるはずだしな。
なんてことを考えながらロズたちの仕事を見守った。
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