第328話 バケモノ再び
装備よし。体調よし。覚悟よし。いざ、行商奴隷団の本部へ!
と意気込んで貧民街へきたのだが、イメージしてたのとなんか違う。
確かに寂れた感じはあるが、無法者がたむろしてたり物乞いしている者はおらず、なにか煮込んだものを売る屋台やパンを売る屋台とかが出ていた。
往来する人も貧しそうな身なりではあるが、殺伐した空気は出してない。貧民街ってより下町って感じである。どうなってんの?
「ラダリオン、臭くないか?」
「ちょっとだけ臭い」
ラダリオンがちょっとと言うならそう臭くないのだろう。これならまだコラウスのほうが臭かったな。
描いてもらった地図を頼りに行商奴隷団の本部にやってきた。
「……思ってたより大きいのな……」
貧民街には不似合いな建物があり、高い壁で囲まれている。警備なのか、剣を腰に差した男たちがちらほらと。ちょっとした軍事施設だな。
門のところには門番が二人。奴隷が逃げるのを警戒してるのか、それとも外からの襲撃に備えているのか、用がなければ近づきたくいところだな。
「失礼。一ノ瀬孝人と申します。こちらの代表か商売の権限がある方とお話したいのですが、取り次いでいただけますか?」
アポは取ってないので直接交渉です。
「……少し待て」
追い返されるのも想定してたが、意外と誠実に対応するんだな。イメージ的に粗野な集団かと思ってたよ。
門番が中へと消え、しばらく待っていると、身なりのよい男性がやってきた。
「話したい方はあなたか?」
「はい。ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのマスター、一ノ瀬孝人と申します。奴隷購入をしたくて参りました」
伯爵やノーマンさんの話では行商奴隷団は奴隷の売買を一手に引き受けているそうだ。うん。それだけで巨大組織であり、国とズブズブの関係だってわかるよね。
「そうでしたか。では、中へどうぞ」
「武装解除しなくてよろしいので?」
「そのままで構いません。ただ、この中で騒いだりしないでいただけると助かります」
そうなったら不味いことになるのでご注意を、とその笑みが語っていた。
敷地内には倉が結構並んでおり、奴隷たちが倉庫に荷物を運んでいた。
建物に入り、二階にある部屋に通された。
商談が行われる部屋なのか、調度品がいいものばかり。出された紅茶もなかなかいいものだった。
紅茶を飲んでいると、先ほどの男性と初老の女性が部屋に入ってきた。
初老の女性は優しそうな笑みを浮かべているが、纏っている空気がヤバい。目の奥の輝きがヤバい。鋭利と言うか冷酷と言うか、人のことを人と見てない感じがする。マルドさんとは違った方向にバケモノだ。
「初めまして。ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのマスター、一ノ瀬孝人です」
まずこちらから名乗りを上げた。
「行商奴隷団ミヤマラン方面本部長、マイセル・カーギルです」
声音も優しいが、まったく温かさを感じない。ちゃんと人の中で暮らせているんだろうか? 自分以外、等しく駒と見てるのかな?
「タカト様は、奴隷をご所望とか?」
「はい。アシッカの復興に労働力が得られないかと思ってお邪魔させていただきました。お話を聞いていただけますでしょうか?」
「アシッカですか。ゴブリンの大群に襲われたそうですね」
報告はちゃんと上がっているか。なら、下にもちゃんと命令が下されているようだな。まったく、しっかりした組織だよ。
「ええ。報告通りだと思いますよ」
知っているのならそれ以上の情報を渡してやる義理はない。オレの中では行商奴隷団は敵だからな。
「どのような奴隷が望みで?」
「既婚者だった者ではなく、独身者だった者を。肉体の一部が欠損していても構いません」
「独身者、ですか? それに欠損してても構わないと?」
「既婚者は家族を思って逃げそうですし、腕の一本がなくてもゴブリンを釣るエサになりますから」
怖いけど、まっすぐマイセルさんを見て答えた。
「予算はいかほどで?」
「金貨で五十枚。必要ならあと三十枚は出せます」
特に意味はなし。ただ、金持ってますアピールだ。
「……金貨五十枚でしたら健康体が四十人。欠損体を三十人はお渡しできます」
「意外とするんですね」
百人くらい余裕で買えると思ってたよ。
「奴隷とは言え、維持管理に金はかかりますし、長く働かせるためには治療もしなくてはならない。なにより、奴隷はわたしども商品。売買して生きてますので」
組織は大きいほどしっかりしてくるもの、ってことかな?
「では、それでお願いします。あと、山脈を越えるのでその装備と三日分の食料もつけてください。その分の支払いもするので」
ラダリオンに持たせていた金貨を入れた革袋を受け取り、テーブルに置いた。
「必要なだけお受け取りください」
金があるって大胆になれるもんだよね。前の世界でもこんなことやってみたかったよ。
「ゴブリン駆除と言うのは儲かるようですね」
必要な分だけ金貨を取ると、薄く笑うマイセルさん。笑うと怖さが増す人だ。
「これは、冒険者としての稼ぎですね。これでも銀印の冒険者なので」
証拠として銀符を見せた。
「……そうでしたか。なかなか見所がある方のようで」
「あなたから見たらそこら辺にいる凡庸な者と一緒ですよ」
きっとこの人にしたら他人は価値がない存在なんだろうな。人を見ているようで自分の利益を見ているんだろうよ。
「ふふ。そう自分を卑下なさらず。あなたはそこら辺にいる凡庸とは違いますよ。わたしの本質を見抜いてくるのですから」
「ただ、空気を読むのに長けてるだけですよ」
「それだけで凡庸ではないと言っているようなものですよ。まあ、それはともかくとして、タカト様の要望は聞き届けさせていただきました。明日の朝には引き渡せると思います」
「わかりました。明日の朝にまたきます」
席を立ち、軽く会釈した。
「あなたとはいい商売ができそうです」
「ええ。そうなるといいですね」
オレの中では完全に敵認しちゃってるけどな。
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