第311話 マンドラゴラ村

 夜中にゴブリンが動き出した。


「メビ。起きろ」


 横で湯タンポを抱いて眠っているメビを揺らして起こした。


「……うぅ眠い……」


 そう言いながらも二度寝するつもりはないようで、使い捨てカイロで温めていたコーヒーに手を伸ばし、眠気覚ましにいっき飲みした。


「……苦い……」


 十歳の女の子の舌にはブラックはまだ早いか。


「どんな感じ?」


「続々と穴から這い出してきて洞窟の中の鹿やロースランの内臓を貪り食っているよ。もう少しで狂乱化するはずだ」


 今はまだ洞窟に近い場所に隠れていたゴブリンが出てきている。狂乱化したときの臭いを出したら続々と出てくるだろうよ。


「それまで装備を身につけておけ」


「わかった」


 オレもじっとしていたので、柔軟体操をして体をアップした。


 それから間もなくゴブリンどもが狂乱化し、奇声が上がり、臭いがこちらまで漂ってきた。


「よし。やるぞ」


「うん。いつでもいいよ」


 M32グレネードランチャーを構えたメビが頷いた。


 RPG−7をつかみ、狂乱化の中心に向けて構え、ハンマーだかを落とす。深呼吸を一回。引き金を引いた。


 一直線にロケット弾が飛んでいき、狂乱化した中心に当たって大爆発。仕掛けたガソリンにも引火してさらに大爆発を起こした。


 報酬が凄い勢いで入ってくる。


「約百万円か」


 二百匹に届かなかったか。ガソリン、ケチったかな?


 ポリタンク十個は仕掛けたんだが、それで二百匹も駆除できないとか作戦を間違えたか?


「メビ。やれ!」


「了ー解!」


 残敵掃討はメビやエルフ、男爵たちにお任せだ。


 メビがM32グレネードランチャーを撃っている間にオレは片付け。終わったらVHS−2(狙撃バージョン)装備に着替えた。


「メビ。何匹倒した?」


「十九、いや、二十匹!」


 他も同じくらいなら百匹くらいか。それでもまだ多くいるな。予想以上に隠れていたのか?


「あん! いなくなっちゃった!」


 散り散りに逃げたからな。倒せる数は決まってくる。二十匹は倒したんだからよしとしなさい。


「メビも装備を換えろ」


 M32グレネードランチャーを片付け、メビが装備を換えたらアリサたちのところに向かった。


 笛で合図しながらアリサたちと合流していき、最後に男爵たちと合流した。


「数十匹は逃げてしまいましたが、これでロースラン退治を終了します。避難小屋まで移動し、交代で朝まで休みましょう」


 さすがに村まで帰るのは距離がありすぎる。避難小屋で仮眠して、明るくなってから移動しよう。


 何事もなく避難小屋に到着。二時間毎に交代していき、最後に回ったオレが休む頃は太陽が出てくる頃になっていた。


 男爵たちには先に帰ってもらい、オレが目覚めたら皆で村に戻った。


 ロースランが一匹いなかったこと以外はトラブルらしいトラブルはなく、誰も怪我をすることもなかった。まず成功と言っていいだろう。


 村に着いたら男爵に空いている家を借りて一日休みとする。オレはホームに入って今回の報告を伝え、ゆっくりマットレスで眠りについた。


 ゆっくり休んでお陰で疲れは取れ、資金が稼げたことで精神的にも楽になれた。心配事がないと体調までよくなるぜ。


「今日はガパオライスか」


 なにをどうしたらガパオライスにいきつくかはわからないが、ミサロの料理はもはやプロ級だ。寝起きでも美味しく食べられるぜ。


「タカト。メビたちに持っていってちょうだい」


 直径五十センチはあるだろう寿司桶に盛られたガパオライス。そこはちらし寿司じゃね? とか思ったけど、作ってもらっている立場としてはすべてを受け入れるのが礼儀である。素直に「了解」と返事してメビたちに持っていきました。


「美味しい!」


 メビにもエルフたちにもガパオライスは好評で、直径五十センチはある寿司桶に盛られたガパオライスを完食。またゆっくり休んでもらった。


 オレも借りた家の庭にパイオニア一号を出して洗車をしたり、中を掃除したりする。


 ……なんか元の世界での休日みたいだな……。


 休日に車を洗車して、軽くドライブ。見つけた食堂で美味いものを食う。暇潰しみたいな休日。なのに、今はそれが輝かしい記憶になっている。


 なくなってわかる幸せ。またあんな休日がきて欲しいぜ。


 そんな考えをしたのが悪かったのだろうか? フラグを立ててしまったのだろうか? そして、不幸はすぐにやってきた。


「タカト殿!」


 一緒にロースラン退治に出かけた兵士の一人が飛び込んできた。


「……どうしました?」


 緊急事態なのはわかるけど。


「隣のマンドラゴラ村にロースランが出ました!」


 また独特な名前の村だな。またマサキさんが名づけたのか?


「兵士は向かわせたので?」


「はい! マゼン様も出ました!」


 マゼン? あ、男爵か。たくさんいすぎて名前を覚えてられないよ。


「タカト殿にも出てもらえませんでしょうか? どうも特異種だと言う話なのです」


 また特異種かよ。この世界にきて一年、オレ、特異種と遭遇しすぎじゃね? 普通にゴブリン駆除させろよ。


「わかりました。メビ、アリサ、出るぞ! 十分で支度しろ!」


 さすがに四十秒で支度はできない。休日にしてたんだからな。一から装備を着用したら十分はかかるんだよ。


 オレもパイオニアをホームに入れたら最近出番のなかったP90装備を着用した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る