第428話 広範囲殲滅魔法

 あー。このまま一月くらい休みたーい。


 なんて叫びたいが、マイセンズ(地上地下問わず)でのゴブリン駆除は終わってはいない。周辺にはゴブリンの気配があちらこちらから感じる。てか、久しぶりにゴブリンの気配を感じたよ。


「ミシニー」


 男湯と女湯は板一枚で仕切られており、上は空いていた。


 ……浴場、ちょっと作りが雑じゃね……?


「んー。どうした~?」


 お前、絶対酒飲んでいるよな? オレもビール飲みたくなるじゃねーかよ。


「周辺にゴブリンが結構いる。オレは明日アシッカにいくからゴブリン駆除を頼むよ」


「そんなにいるの?」


 板に手をかけて顔を出すメビ。


「キャッ!」


 水鉄砲で撃ち落としてやる。うん。これ、使えるな。ちょっと練習しようっと。


「オレの察知範囲に五百はいるな。おそらく千は軽くいると思う。稼ぎたいなら明日から動くといいぞ。オレも伯爵に報告したら駆除をやるから」


「そうか。タカトが出ると狩り尽くされそうだからやるよ」


「あたしもやる!」


「あたしも!」


 メビやビシャもやる気でなにより。しっかり稼いで上前はねさせてくれ。


「明日、砦にいくから朝の八時に集合しよう。準備しておくから」


 今の装備はロースランやロスキート相手に合わせてある。ホームもそうだ。ゴブリン駆除に相応しい武器や道具を用意しなくちゃならないんだよな。


「了ー解」


 湯から上がってズボンとTシャツに着替えたら脱衣所からホームに入らしてもらった。一応、この銭湯は開けっ放しにしているそうなので。


 玄関にはラダリオンがいてSCAR−Lを手入れしていた。


「ゴブリン駆除の用意か?」


「うん。砦の周りに現れて狂乱化した」


 なんだろうな。狂乱化したと聞いても驚かなくなっているよ。ちょっと神経がマヒってんな、オレ。


「応援は?」


「いらない。皆チャンスだって張り切っているから」


 報酬に意識を向けたら一千百万円になっていた。なんか地下に潜る前もこのくらいじゃなかったっけ?


 なにしに潜ったんだろうと考えそうになってしまうが、狂乱化ならミシニーやサイルスさんたちに教えておくか。グロゴール戦で報酬を使っちゃっただろうからな。


 外に出てミシニーに声をかけると、三人はまだ入っていた。長湯なヤツらだ。


「ほー。砦にたくさんいるのか。それはいいな。いくとするか」


「あたしもいく!」


「あたしも!」


 いつでもどこでもやる気満々な獣人姉妹だよ。


「メビ。アポートポーチを持っていけ。ルンは出せるから」


 番台にいる老婆にアポートポーチをメビに渡すようお願いする。


「サイルスさんたちにも伝えてくれ。オレは砦に出るから」


 南の洞窟から砦までそう遠くはないが、わざわざ歩いていくのも面倒だ。ミリエルとラダリオンがいるんだからダストシュート移動させてもらいます。


 ホームに戻ったら即ビール。くぅー! やはりビールがオレの活力源だぜ!


 なんて飲んでばかりはいられない。砦ではミリエルたちが駆除しているのだ。サポートせんとな。


「ミサロ。なにが消費されてる?」


「今のところないわね。スコーピオンからEARに持ち替えたから」


 ガレージの二階にいくと、EARを置いていたところにスコーピオンが五十丁ほど戻っていた。


 さすがに邪魔だし、スコーピオンはヨシュアたちに持たせるか。ロースランではEARは効かないからな。


 魔王と戦う人に会うまでルンに魔力を充填することはできない。狂乱化ばかり起こってたらすぐになくなってしまうからEARはエルフに。銃は奴隷傭兵団に。使い分けしておくとしよう。


 ミサロが触っているかもしれないが、取り残しがあるかもしれないからスコーピオンを一つ一つ作動するか確かめていく。


 こうしてみるとマガジンも結構な量だな。ここのだけで三百個はあるんじゃないか? パレット買いは諸刃の剣だな。


「ミサロ。ガチャやったか?」


「ええ。ミリエルがやったわよ。七十パーセントオフシール、アポートウォッチ、ヒートソード、マルダート、魔力の腕輪よ」


 ヒートソード六本目かよ。そのうち一人一本持つようになりそうだな。


「魔力増幅の腕輪ってのはなんだ?」


 お初品だな。サポートアイテムって何種類あるんだよ?


「使用者の魔法効果を二倍にしてくれるみたいよ」


「それは……どうなんだ?」


 いいのか? 悪いのか? どうなんだ?


「今、ミリエルが確かめているわ」


 ミリエルの魔法が二倍? いや、危険だろう! ただでさえ永眠させるだけの魔法なんだからさ。二倍になったら確実に即死魔法だよ!


 タブレットを見ていたら報酬金額が一千百万円がいっきに一千二百万円になった。


 いやいや、百万円って、二百匹を駆除したことになるぞ。即死魔法じゃなくて広範囲殲滅魔法だよ! 


「ラダリオン、ミリエルに腕輪を外せと伝えてくれ。危険すぎるわ!」


 すぐにラダリオンを外に向かわせた。大惨事になる前に止めさせないと!


 しばらくしてラダリオンとミリエルが入ってきた。


「ミリエル。仲間は死んでないよな?」


「大丈夫です。砦から出てやりましたから」


 よ、よかった……。


 ホッとして床に崩れ落ちてしまった。


「……それはミリエルには危険だ。オレがするよ……」


「そうですね。わたしでは場所を選ぶものでした。まさかあんなに死ぬとは思いませんでした」


 魔力増幅の腕輪を受け取り、左腕にした。右はアポートウォッチをするので。


「まだいるのか?」


「はい。まだ千匹以上はいると思います」


「ミシニーたちが今砦に向かっている。入れるように頼むよ」


「わかりました。砦の外にいるので合流します」


 杖からEARに持ち換えて外に出た。


「ラダリオン。合流するまで見守っててくれ」


「わかった」


 ラダリオンを見送り、オレは玄関で待機することにした。


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