第411話 役目だそうだ

 形勢逆転。ロスキートを蹂躙する。


 さすがの虫頭でも仲間が死んでいくのを目の当たりにしたら自分たちが不利と理解したのだろう。一匹が逃げたらすべてが逃げ出したよ。


「メビとカインゼルさんは警戒。イチゴは魔石の回収。アルズライズはラックにあるマンダリンにマナックを入れてくれ」


 マナックを取り寄せてアルズライズに渡し、オレはブラックリンをホームに仕舞った。


「マンダリンをすべて回収する。ラダリオンとミリエルは外に出してくれ。ミサロは食事の用意を頼む。アルズライズとメビが加わった」


 玄関にいた三人に指示を出した。


「わかりました。ラダリオン。わたしがフォークリフトを使うから砦に出して。ミサロはパイオニアを外に出してガレージを広くして」


 こういうとき、真っ先に動くのがミリエルなんだよな。きっと自分の役目を心得ているんだろうよ。


 ホームの指示はミリエルに任せてブラックリンやマンダリンを入れていった。


「イチノセ。魔石回収終了しました」


 疲れ知らずで正解無比のイチゴさん。五十匹はいたのに一時間もしないで終わらせた。しかも、ロスキートを外に放り投げてくれる優秀さ。もう一台(機か?)欲しくなるな。


「ご苦労さん。マナックの残量は大丈夫か?」


「問題ありません。残り十時間三十六分稼働できます」


 未だに燃費がいいのか悪いのかわからんよな。とは言え、魔王と戦う人に会うまではマナックを大事に使わないといかん。いつ会えるかわからないんだからな。


 メビとカインゼルさんと交代させ、二人にもラックからマンダリンを降ろすのを手伝ってもらった。


 起動できたマンダリンは二十四台。前のと合わせて……何台だ? 五台は出した記憶があるが、ちゃんと記録してなかったからわからんわ。


 ブラックリンは十六台だから、まあ、魔王と戦う人と出会うまではなんとか維持できる台数だろう。最悪、ブラックリン二台とマンダリン二台は使わずガレージに収めておこう。


 ……ミサロをどう説得するかはそのとき考えます……。


「アルズライズ、メビ。前にキャンプした階に降りて安全確保してくれ。カインゼルさんはちょっと手伝ってください。ここを爆破します」


 また金が吹き飛ぶが、またロスキートが入ってこられたら困る。安全のために塞いでおこう。もうここには用はないしな。


 二十キロのガスボンベを十本とガソリンが入ったドラム缶を二十缶買ってきた。


 C4とかTNTとか映画でよく聞く爆弾を使いたいところだが、そんなもん使えるのは元特殊部隊出身のコックだけだ。元工場作業員にできると思うな。素人はあるもので工夫すんだよ。


「カインゼルさんは降りてください。イチゴもだ」


 二人を先にいかせたらガスボンベの弁を開き、手榴弾を柱に巻きつけ、ワイヤーをピンに結んで階段下に伸ばしていく。


 ガスが充分出たらワイヤーを引っ張る──と同時にチートタイムスタート。階下へ走った。


 すぐに揺れるほど衝撃が。階段を踏み外して壁に激突──したと思ったら壁を破ってしまった。いったー!


「……チートタイム中でも痛みを感じるんだな……」


 まあ、転んだくらいの痛み。チートタイム中じゃなかったら破裂してたところだろうよ。


「チートタイムを使い切ったか」


 クソ。初めて使い切っちゃったよ。今日はもう休むしかないな。


 チートタイムに頼り切っているせいか、ないと思うと恐怖に体が震えてくる。ほんと、オレって情けない男だよ。


「タカト! 無事か!」


 瓦礫に埋もれながら我が身の不甲斐なさを嘆いていたらカインゼルさんとイチゴが現れた。


「……無事でもないです。助けてもらっていいですか……?」


 瓦礫が重くて動けないんですよ。すんません。


 カインゼルさんとイチゴに瓦礫を退けてもらい、回復薬中を飲んで体を癒した。


「格好よく、とはいきませんね」


 凡人のオレには高望みだが、それでも望んでしまうのが男って生き物なんですよ。


「お前は充分格好いいよ」


 気遣いのできる五十代。オレもこんな格好いい歳の取り方をしたいものだ。


 埃を払い、体の具合を確かめたら階段を下りた。


 キャンプ地(階)に到着すると、なぜかビシャがいた。え?


「ビシャには地下からきてもらった。万が一のときのためにな」


 一人であの暗闇の中をきたのかよ。メビといいビシャといい、暗い中を一人でとか豪胆すぎんだろう。オレなら人知れず泣いているぞ。


「タカト、怪我したの?」


「回復薬を飲んだから治ったよ。ありがとな、助けにきてくれて」


 十二歳の女の子に助けられるオレ。ほんと、情けなさすぎて涙がでぇらー。


「タカトを助けるのがあたしの役目だもん」


 あ、役目なんだ。そうか。じゃあ、仕方がないね。あはは……。


「ほら、キャンプの支度をするぞ。タカトを休ませてやれ」


 カインゼルさんが助け船を出してくれ、ホームからキャンプ用品を運び出した。


 ふー。なんかやたら疲れるな。安心したから気が抜けたか?


「タカト、顔色が悪いぞ。ホームにいって休んでこい。こっちは大丈夫だから」


「ああ。わしらもゆっくり休んどるから気にせず休んでこい」


 アルズライズやカインゼルさんに勧められたので、ありがたくホームに入った。


 ミリエルたちからも顔色が悪いと心配され、シャワーも浴びるのも止められてライダースーツを脱がされ、マットレスに寝かされた。


 せめてビールを一杯と望んだが、ダメですとミリエルに一蹴され、強制的に眠りの魔法をかけられてしまった。


 ハァー。ほんと、オレって情けない男だよ……。

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