第448話 アルバム

 ギルドには職員が揃っており、帰る支度に励んでいた。


「休めばいいだろう」


「やることがないんですよ」


 娯楽がないに等しいところ。食う飲む遊ぶ(エロいこと)くらいしかない。そもそも休みが少ない時代。一月に一回休めればいいそうだ。


 ……なんて暗黒期なんだろうな……。


「時間を持て余しているならコラウスに帰ってもいいぞ」


「いえ、マスターと帰ります。車が通れない道もありますし、歩いて帰るなら待っていたほうがいいですし」


 まあ、確かにそうだわな。ミジア男爵領とロック男爵領を繋ぐ道が獣道以下。パイオニアでは通れない。オレがいなければ車は乗り捨てなくちゃならないんだから残っていたほうがいいだろうよ。


 一応、コラウス辺境伯、マイヤー男爵、ミジア男爵、ロック男爵、アシッカ伯爵って順で道があります。聞いたらちゃんとした正式な地図に乗るくらいの道ってんだから驚きだよ。


 ……関所ってもんがないからまだマシだぜ……。


「まあ、のんびりしていろ。オレはマイセンズの砦にいってくる」


 KLX230を出してきてマイセンズの砦に向かった。


 さらに往来が増えたのか、道が踏み固められており、前よりよくなっている。三十分もしないで到着してしまった。


 砦はゴブリンが襲ってきた痕はなくなっており、エルフたちも普通に生活している。魔法があると復興するのも早いよな。


「タカト!」


 ズボンにTシャツ姿のメビが飛びついてきた。


「なにやってたんだ?」


 背中にしがみつかれながら尋ねた。重いから下りてちょうだい。


 細いけど全身筋肉なせいで十歳ながら五十キロはある。これが加減なしに突進してくるんだから吹き飛ばされるのは当然だ。


「訓練してた」


 うん。汗臭いのはそのせいか。


「オレは長老と話があるから風呂に入ってこい。まだ寒いんだから風邪引くぞ」


「わかった」


 背から下りてどこかに走っていった。


「マスター」


 次はアリサが現れた。こいつもラフな格好をしており、鍬を持っていた。


「農作業か?」


「はい。芋とニンニクを植えました」


 芋と言っても里芋みたいなもので、埋めて貯蔵していたものが残っていたものだそうだ。


「悪いが、長老さんのところに案内してくれ。オレらは帰るからあとのことを話し合いたいんでな」


「戻るのですか?」


「セフティーブレットはコラウスを拠点にしているからな」


 拠点なる地でオレたちの居場所を作らなければ気軽に遠征はできない。優先すべきはコラウスなのだ。


「……そうですか。長老はこちらです」


 なにかしょんぼりするアリサ。なんだ?


 アリサに案内された家は土壁の家で、屋根には芝生みたいな草が生えていた。なんかホビットの家みたいだ。


 家の中も指輪物語に出てきた内装で、お伽噺感が凄まじかった。


「突然にすみません」


「構わぬよ。わしは一日中ここにおるからな」


 長命なエルフでも二百年は老いる年数なんだな~。


 置物と化している長老の前に座ると、脇にある箱囲炉裏から鉄瓶を取り、お茶を淹れてくれた。


「いただきます」


 と言うと、柔らかく微笑む長老さん。なに?


「あの人と同じ世界の者が言うとしっくりくると思うてな」


 エルフもいただきます、ごちそうさまは言っていた。自然にやっていたから気にもしなかったぞ。


「そうですか。そう思わせないようにしなくちゃなりませんね」


 この人の言葉は戒めだ。オレが死んだらラダリオンたちに長老のような思いを抱かせて生きさせることになる。だからオレは死ねない。死ぬわけにはいかないのだ。


「ああ、そうするがいい」


 頷いて答えた。どう言っていいかわからなかったから。


「三日後くらいにはオレたちは帰ります。また夏にはくると思います。あなたたちのことは伯爵なは話を通してあります。お互いのためにちょくちょく顔を見せにいってください」


「ああ、恩に着る。なにも返せなくて申し訳ない」


「マサキさんのことを教えてくれたことだけで充分ですよ」


 失敗例はなにものにも変えられない情報だ。それだけでオレは儲けたと思っている。


「長生きしてください。またマサキのことを聞かせてもらえると助かります」


 先達者の生き様を知って、老衰で死ぬ糧としたいんでな。


「帰るなら何人か連れていって欲しい。お前さんの力とさせておくれ」


「オレの手は小さいので守れる数は限られています。幸せになりたいのなら各自の努力でお願いしますね」


 責任を負うべき存在は変えない。無駄には増やさない。他は自分の力で幸せにってもらう。そのためにオレを利用するのは許容内。こちらだって利用しているのだからお互い様だ。


「お前さんは長生きしそうだ」


「長生きした方から言われると自信が持てますね」


 さすがに百年以上生きるつもりはないが、七十歳までは生きたいものだ。そこまで生きられたら大往生だろう。まあ、先のこと過ぎて想像できんけど。


「あ、土魔法に長けた方がいるならお貸しいただけると助かります。謝礼はしますんで」


 急ぐ帰りでもない。エルフに道と橋を作ってもらいながら帰るとしよう。パイオニアが通れる道があるなら一日でこれる距離になるからな。


 金貨がそろそろ切れそうだが、さしあたって使い道はない。残りの金貨を出して長老の前に置いた。


「アリサ。お願いするよ」


「はい。お任せください」


 一礼して立ち上がり、マサキさんの写真を金貨の横に置いた。


 高校の卒業アルバムまで買えるとか恐ろしいよな。つい、自分の卒業アルバムまで買っちゃったよ。


 ではと、早々に立ち去った。泣いているところなんて見られたくないだろうからな。

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