第241話 スタート!
なんでこんなことになっているんだろうな?
ゴブリンを駆除しろと命令されてこの世界に送り込まれたのに、なぜか魔王軍と対峙している。まあ、十六将が一人はゴブリンだ。駆除する対象なのは間違いない。だが、確実にオレの手に余る存在だよ! 駆除とか言うレベルじゃなくなってるよ! これはもう戦争だよ!
「……オレは勇者でもなければ英雄でもないんだがな……」
元工場作業員になんの無茶振りだよ? オレの小さな手からドバドバ零れ落ちているよ。
あぁ逃げたい。なにもかも放り捨てて逃げ出したい。くそ食らえと叫んであらゆる責任から逃げ出したいよ……。
だが、逃げることはできない。もうオレには逃げ出せない責任があるから。守るべき存在があるから。居場所ができたから。なによりダメ女神のせいで死にたくない。オレは自分のために生きて老衰で死にたいんだよ。
逃げたらすべてが失われる。これまでの苦労も無意味に終わる。ダメ女神に人生を狂わされ、死んだ駆除員の一人となる。
そんなの嫌だろう。悔しいだろう。怒りしか湧いてこないだろう。ふざけんなと、声を枯らしてでも叫びたいだろう。
「オレは勇者でもなければ英雄でもない。ちっぽけな人間だよ。だがな、ちっぽけな人間でも食らいつくことはできんだよ。知恵を働かせ、道具を使い、群れて強者を倒せんだ。弱者ナメんじゃねーぞ」
窮鼠猫を噛む。今、その意味を教えてやるよ!
メガホンを取り寄せ、スイッチをオン。
「魔王軍、十六将が一人、轟雷のロドスに告ぐ。オレはゴブリン駆除員のタカト。お前の負けだ! 降伏しろ!」
魔王軍にオレの存在がバレてしまうが、それは遅いか早いかの違いだ。いずれバレる。
「一駆除員にも勝てないお前が勇者に勝てるわけもない! 降伏が嫌なら早々に立ち去れ! 十六将最弱に免じて見逃してやる!」
それとなく勇者の存在を敵味方に知らしめておく。
四百メートルくらいの距離があるので轟雷のロドスがどんな表情をしているかわからないが、気配は徐々に膨らんでいくのがわかった。オレの煽り、ちゃんと伝わっててなによりだ。怒れ怒れ。逃す気はないんだからな。
メガホンのスイッチをオフにし、トランシーバーのスイッチをオンにする。
「00より各員へ。轟雷のロドスの怒りが爆発寸前だ。暴走すれば残ったゴブリンがどう動くかわからない。逃げた場合は深追いするな」
「01了解」
「03了解です」
「了解だ」
あ、カインゼルさんは横にいます。
さあ、どう出る? と思う間もなく轟雷のロドスの怒りが頂点に。なにか叫ぶ声が届き、こちらへ突っ込んできた。
「01、合図とタイミングは任せる」
「01了解」
「カインゼルさん。援護、お願いします」
「任せろ」
MINIMIからPSG−1に持ち換えた。
人間ならオリンピックに出て金メダルを取れそうな脚力である。森で出会ってたら確実に殺されているな。
だが、ここは障害物もない。多少の凹凸はあるものの防壁の上からは丸見え。狙撃にはうってつけである。
まずはアルズライズが撃ち、メビが続く。
ファンタジーな世界でも対物ライフルとバトルライフルの弾を受けて平然としていられる生物はそうはいない。まあ、山黒や竜なら豆鉄砲だろうが、それだけ強い存在なら最初から単独で襲ってくるはずだし、数で攻めてきたりはしない。
強くても精々人間の数倍。十倍とかにはなってないはずだ。まあ、魔法とかあるから肉体的強さだけでは計れないけど。
「敵、停止したが、崩れてはいない。撃つぞ!」
PSG−1も7.62㎜弾。当たればモクダンでも倒す。致命的な箇所に当たれば、だけど。
「ビシャも撃て!」
距離は二百メートル。MINIMIでもそれなりに効果はあるはずだ。
土煙が立って轟雷のロドスの姿は見えなくなったが、気配は感じ取れるし、まだ生きている。しぶといヤツだよ。
メガホンのスイッチをオンにして撃つのを止めさせた。
「死んだのか?」
「いえ、まだ生きてます。重症っぽいですが」
あれだけ食らって平気です、とかだったら総員退避を命じているところだわ。
「01、止めを刺せ!」
「01了解!」
砦の門を潜り、ベネリM4を構えながら轟雷のロドスに向かって駆け抜け、全弾を放った。
おそらく魔法で回復なり防御なりしているのだろう。なかなか死なない。だが、反撃する力はない。背中に背負ったタクティカルアックスを抜いて振り下ろした。
ラダリオンの一撃は大地を爆発させるほど凶悪であり、轟雷のロドスの気配を消滅させた。
熱いバトルは? なんてものは期待しないでくださいませ。近寄られた時点でジ・エンド。オレの来世に乞うご期待だわ。
「魔王軍十六将が一人、轟雷のロドスは死んだ! 残敵掃討!」
メガホンを構えて大声で叫んだ。
「カインゼルさん、ビシャ、今のうちに弾薬補充してください。百匹近い別動隊が近くにいます」
襲ってくるかまではわからない。逃げるなら構わないが、自棄糞になって襲ってくるかもしれない。気配がなくなるまでは油断はできん。
別動隊を率いるのは魔笛のミサロだ。あいつがどう動くかは神のみぞ知るだ。
──ピローン。
一万三千匹でもないのに電子音が鳴り響いた。
──わたしも知りませんよ。それはタカトさんが決めることですから。ただ、協力はしますよ。魔王軍の一角を潰したご褒美にね。
じゃあ、ミサロの前まで連れてってくれ。
──フフ。わたしの権限で孝人さんに一日三分間だけ、勇者に匹敵する身体能力と魔力を与えましょう。それで決めてくださいね。では、チートタイム、スタート!
一瞬、視界が歪んだと思ったら、目の前にミサロがいた。
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