第240話 十六将が一人

 午前六時十分くらいに太陽が山々から顔を出した。


 夜中の間、叫んでいたモクダンもいなくなり、ゴブリンがわらわらと出てきた。


「空腹に気が立っているな」


 昔の戦争のように食料は敵から奪えってか。やらされるゴブリンも迷惑だろうが、受けるこちら側はもっと迷惑だわ。


「ラダリオン!」


 巨人に戻ったラダリオンに処理肉を放り投げるよう指示を出す。


 トンパックサイズにまでなった麻袋を二つ、砦の外に放り投げられ、縛ってないので処理肉がばら蒔かれた。


 飢えた亡者の如く処理肉に群がるゴブリンども。狂乱化した臭いがここまで流れてきたよ。


 宴もたけなわ。では、やりますか!


「ラダリオン、やれ!」


 空に向かってM32グレネードランチャーの榴弾を撃ち放った。


 山なりに飛んでいき、宴もたけなわなゴブリンどもをさらに盛り上げてやった。


「なかなかエグいな」


 人を殺すための兵器なんだからエグいのは当たり前なんだが、巨大化したことによりマジで爆撃──いや、空襲だな。絨毯爆撃でもいいかも。


 たった十二発なのに軽く二百万円はプラスされた。とは言え、宴に関われなかったのが千匹以上いる。


 ラタリオンが小さくなり、空薬莢を抜いて新しい榴弾を詰め込んだ。


 あれだけ攻撃を受けながらゴブリンは逃げたりはしない。それどころか同胞の千切れた肉を食らい始めた。


「相当空腹だったんだな」


「撃つよ!」


「まんべんなくな!」


 広範囲に榴弾を撃ち込み、さらに二百万円近くがプラスされた。


「それでも半分も駆除できてないか」


 千八百と言う数の凄まじさが痛感させられるよ。


「00より02へ。攻撃開始。分断してください」


 正面門にいるカインゼルさんに通信。攻撃開始を命じた。


「02了解」


 正面門にはカインゼルさんとビシャがいて、MINIMIを撃ち始めた。


「メビ。邪魔になりそうなのから撃っていけ」


「了ー解!」


 土嚢を台にしてHスナイパーの引き金を引いていった。


 ゴブリンの中に上位種も混ざっている。あれは生き残られたら面倒だ。さっさと駆除しておきましょう。


「──こちら03。攻撃に出ます」


 ミリエルからの通信が入った。


「まだ分断してないが、やや西側が多い。約六百。南側は約四百だ」


「わかりました。では、西側にはゴルグさんたちを。南側はわたしたちが当たります」


「了解。南側には百ていどの別動隊が隠れている。気をつけろ」


 たぶん、高い魔力を持つ者が率いているんだろう。


「はい。いっきに眠らせてやります」


 永眠って聞こえるのはオレの気のせいだろう。きっと。


 戦闘(駆除)は概ねオレたちが優勢だ。報酬から六百匹は倒している。


 ……これだけして利益が三百万円くらいなんだから泣けてくるよな……。


「西側に巨人が現れました!」


 見張りが走ってきて報告する。まずはゴルグたちを突入させたか。


 巨人によるショットガン攻撃。イヤーマフしてても凄まじいもんだ。皆に耳栓するよう指示しておいてよかった。


 ベネリM4で統一し、鳥撃ち用の弾だから報酬の金額が凄まじい勢いで上昇していった。と言っても上前が千五百円だから数十万円だけどな。


 初心者ばかりなので弾込めに時間がかかってはいるが、まあ、順調に数は減らしている。


「南側から冒険者たちが現れました!」


 ミリエルたちも突撃したか。


 様子を見にいきたいが、魔王軍の指揮官にオレがここにいることを示さなければならない。てか、完全に魔王軍に目をつけられるよな、これ。


 ……これが終わったら勇者がこの世にいることをそれとなく広めておこうっと……。


 ミリエルの眠り魔法が炸裂し、ドワーフたちが暴れ回っているのか、報酬の額が跳ね上がった。 


 ──ピローン! 


 電子音が鳴り響く。


 ──一万三千匹突破だよ! 敵は魔王軍十六将が一人、轟雷のロドス。あいつを倒せばこの辺での数々の問題は片付くよ。あ、魔笛ミサロを自由にしたければ魔笛を壊すといいよ~。あれで縛られているから。


 戦闘(駆除)を開始して一時間。ダメ女神からのいらない報告。そして、重要な報告。もっと前に言っとけや!


「アルズライズ。敵の指揮官は見えるか? 正面、やや右にいる」


 単眼鏡で覗き、アルズライズに伝える。


 横で立ったままバレットを構えるアルズライズ。よく一時間以上構えたままでいられるよな。どんだけだよ。


「見える。苛立っている」


 まあ、壊滅間近だしな。苛立ちの一つでもするか。逆にしないとこちらが苛立ってくるわ。


「挑発してくれ。当てても構わない」


 アルズライズにも負けぬ体格を持ち、目に怒りの炎を灯しているが、理性が宿っているのはわかる。なら、心理戦に持ち込むまでだ。


「わかった。当てる」


 指揮官まで約四百メートル。熟練者なら当てられるだろうが、まだバレットを持って数日のアルズライズに当て──ちゃったよ! 才能!? 才能が当てさせたの?!


「チッ。外した」


 いや、しっかり当たってるよ! どこを狙ったのよ?


「硬いな。それに治癒力も高い」


 肩に当たり、肩当ては吹き飛んだが、肩から血が流れたもののすぐに治癒してしまった。


「命の魔石を持つと治癒力は高くなる。あいつはかなりの魔石を持っていそうだ」


 そうだったんだ。てことは、ゴブリンがやたらしぶといのは魔石のせい、ってことか?


「オレは出る。援護頼む」


「任せろ。だが、あまり遠くにはいくなよ」


「わかった。あまり出ないよ」


 これはアルズライズとミシニー頼りの作戦だ。すぐにきてくれないところまでいかないよ。


 右腰につけた差鞘にヒートソードを差し、P90を持って防壁から降りて砦の外に出た。

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