第208話 リンクス

 ここを司令部とする! 


 と、宣言。LEDランタンを持ち出して明かりを確保する。


「ミリエルたち女は眠れ。無理でも眠れ。朝まで冒険者たちがこなければ戦力となってもらう。男三人は朝まで周囲の警戒。夜陰に紛れて魔物がこないとも限らない。ここには通すなよ。オレは巨人たちの様子を見てくるから」


「タカトさん、眠ってないじゃないですか! 少しでいいから眠ってください!」


「徹夜はもう慣れたよ。それに、回復の仕方も覚えたから朝までは大丈夫だ」


 正直言えば眠いのは眠いが、横になったところで眠れる自信はない。なら、動いてたほうが気が紛れる。


「とにかく! 朝になればカインゼルさんたちがくる。それまで堪えられたらいいんだ。自分たちの役目に集中しろ」


 カインゼルさんなら大丈夫。絶対きてくれるし、安心してあとを任せられる。それだけの人なんだからな。


「……わかりました。無理しないでください。人に無茶をするなと言って、自分は死にそうなくらい無茶をするんですから……」


 無茶してるつもりはない。ただ、不運なだけだ。


「無茶はしない。約束するよ」


 どう言っても説得力はない。なら、生きて帰ってきて証明するしかない。


 ゴルグの気配を探り、その方向へ走った。


 巨人は八人だったので踏まれないよう周囲を確認しながら進み、ゴルグに踏まれない距離から叫んだ。


「ゴルグ! 害獣ネットを張ったら飼料用トウモロコシを買って周辺にばら蒔け!」


「集めすぎじゃないか? 本当にいいのか?」


「いいも悪いもない! すべてをここに集めてここで防ぐんだよ! 食糧危機を起こしたいのか? 前回を経験したんだろう?」


 少年少女が駆り出されず、聞いた話なら少なくとも五年は前のこと。なら、ゴルグなら経験しているはずだ。


「確かに酷い食糧不足になったが、凄い数だぞ。こんな網だけじゃ抑え切れんだろう」


「冒険者たちがきたらなんとかなる! ゴルグたちはここでミスズを通さないようにしろ! 作戦は考えてあるから!」


 大まかな作戦だけどな!


「わかった。タカトを信じるよ。お前はゴブリンの王にも勝ったんだしな」


「倒したのはギルドマスターだ」


 オレが倒したのは上位種をヒーヒー言いながら倒しただけだ。


「それを導いたのはお前だ。サイルス様もそう言ってたぞ」


「買い被りだ」


 導いたのはギルドマスターやゴルグ、カインゼルさんたちがいたからだ。オレが主導して戦況を作り出したんじゃない。ミサロが退かなければ負けていたのはこちらのほうだったろうよ。


 ……あーミサロの件があったっけ。再会するまで力を身につけておかんとならんな……。


「とにかく! ゴルグたちはここを頼むぞ! 」


「わかった。任せろ」


 ああ、万事任せる。しっかり頼むぞ。


 また司令部に戻り、少し休んでからホームに戻った。


 軽く食事を摂ったらシャワーを浴び、パンツ一丁でタブレットをつかんで前々から買おうと思っていた対物ライフル、ゲパードGM6−Lynx(左手持ち用)を七十パーセントオフシールで買った。


「よし。お前をリンクスと命名する」


 お前の出番などないことを切に願うが、どうもこの流れは不穏しかない。特にゴブリンがした動き。気のせいだと思いたいが、これまでの経験から、それを気のせいと片付けるのは危険だ。用心に用心を重ねておいて損はないはずだ。


 マガジン四個と弾を二十発買い、マガジンに詰める。


「バレットも持っていくか」


 バトルライフルでは対応できないときのためにカインゼルさんに持っててもらうとしよう。


 二つの対物ライフルを外に運び出していると、ビシャが一人で駆けてきた。


 ……メガネをかけてるとは言え、この子は夜が怖くないのだろうか……?


「どうしたんだ?」


「じいちゃんがタカトの側にいろって。たぶん、無理をしてるだろうからって」


 無茶の次は無理か。まあ、無茶はしないが無理をしてるな。能力以上のことを毎回のように要求されるんだからよ。 


「じいちゃんたちがくるまで休んで。これは強制!」


 リンクスやVHS−2を奪い取られ、焚き火の側に座らされた。


「眠ってください」


 ミリエルの声がしたと思ったら意識が途切れ、気づいたら朝になっていた。


 なにが起こったかわからず、しばしの間ぼんやりしてたが、眠っていたと理解し、アポートウォッチを見たら七時をちょっと過ぎていた。


「……なにしてたんだっけ……?」


 眠る前の記憶が出てこない。オレはいったい──そうだ! ミスズだ!


 思い出して飛び上がったらたくさんの冒険者たちがいた。


「起きたか。まずはコーヒーでも飲んで落ち着け。まだミスズは動いてないから」


 カインゼルさんに湯気立つカップを突き出され、しばし見詰めてから受け取り、熱いコーヒーを飲んだ。


 徐々に眠る前の記憶が蘇ってくる。ミリエルの眠りの魔法、絶対、頭に作用して眠らせてるものだ。


 とは言え、眠ったせいか、体のダルさはなくなり、頭がちゃんと働いてくれてる。まったく、怒るに怒られんな……。


「ありがとうございます。任せてしまって」


「それがわしの役目だろう?」


 落ち着いた笑みを浮かべるカインゼルさん。まったく、格好いい五十代だよ。


「タカトさん。目覚めたなら状況を教えていただけませんか?」


 焚き火の近くにはミスリムの町の支部長、ライドさんもいた。


 他にも歴戦と思わせる四十代の冒険者もいた。いや、よく見たら冒険者が何十人と集まっていたよ。


 コーヒーを飲み干し、昨日のことを語り、オレがやったことを皆に話した。

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