第209話 主君
説明が終わればスケッチブックを出し、ミスズを一斉片付ける案を語った。
要は害獣ネットで塞き止めたミスズを横から襲い、逃げた先にミリエルを配置。特大の眠り魔法を放って捕獲する。もちろん、すべてを眠らせることなんて無理だから攻撃魔法や弓を使えるものを配置しておく。
「指揮はそちらに任せます。オレは大軍を指揮する経験がないので」
オレはコラウスに籍をおかしてもらってる身。それなりの義理と義務は果しておかないとならないからな。そちらの下ってことを示しておこう。
この中では支部長たるライドさんが責任者なので、全員の目がライドさんに集まった。
「……わかりました。カズフィルさん。追いたて役を指揮してください。迎え役はタカトさんが──」
「いや、オレは巨人の指揮をします。カインゼルさん、ミリエル、ビシャ、メビを連れて指揮をしてください。迎え役が一番の大仕事でしょうし」
「では、カインゼル様、お願いします」
「わかった。タカト、ラダリオンは残すんだな?」
「念のために残ってもらいます。あと、バレットを持ってってください。弾は余分に買っておきましたから。足りないときはミリエルにお願いしてください」
パイオニアに立てかけてあるバレットに視線を向けた。
「なにかいるのか?」
「わかりません。オレはゴブリンの気配しかわかりませんから」
「わかった。なにかあると警戒して当たろう」
オレの言いたいことを察したカインゼルさん。立ち上がってバレットをつかんで持ち上げた。
十キロ以上はあるバレットを軽々扱うんだからマッスルな五十代だよ。
もう一度、スケッチブックでそれぞれの位置を確認し合い、迎え役組が出立する。
「そう言えば、冒険者の援護はくるんですか?」
「ミシニーを街に走らせた。どれだけくるかはわからんが、昼にはやってくるはずだ」
「ミスリムの町からも各町に伝令を走らせましたから、遅くても夕方には集まるでしょう」
つまり、午前中はこの人数でやるしかないってことか。
「じゃあ、カインゼルさん。配置についたらミリエルをホームに。ラダリオンを待機させておきますから」
「ああ。ここからアルート川までなら三時間はかかるだろう」
「お願いします」
迎え役組はカインゼルさんが指揮官として十八名を連れて出発した。
「支部長。少し、周辺を探ってくる。おれらはこの辺をよく知らんのでな」
「なにかあればすぐに戻ってきてください」
カズフィルさんたちのチームと若い冒険者を連れて山の中へ入っていった。
「ライドさん。捕獲したミスズなんですが、巨人が捕獲したものは巨人の村に寄越してもらっていいですか? 報酬として渡したいので」
今のうちに取り分の話し合いをしておこう。
「それは構いません。ミスズの肉は人気はありますが、今回は溢れるほどの量です。処分するほうが大変でしょうからね」
それはよかった。いや、よくないか。処分に困るほどいるんだから。
「カインゼル様がタカトさんに従うのもよくわかりました」
「なんです、突然?」
「いえ、昔のカインゼル様は上司に恵まれず、いつも損ばかり引いてましたから」
そう、なの? 領主代理とか優秀なのに?
「オレとしては誰かの下で働きたいんですけどね。命を背負うことがこんなにも重いとは知りませんでした」
引き込んだのは自分だとは言え、人の命を背負う重みに崩れそうになってしまう。誰かに持ってもらいたいと切に願うよ。
「それがわかるからカインゼル様はあなたに従うんですよ。やっと巡り会えた理想の主君なんですから」
主君? オレが? 元工場作業員だよ。サラリーマンの父親とスーパーでパートしてる母親の下に産まれた庶民中の庶民なんですけど!
「サイルス様から聞きました。あなたが女神の使徒だと」
いや、ただのゴブリン駆除を強制された普通の男なんですよ。使徒など大層なもんじゃないよ。そう言う過大評価、止めてくださいよぉ……。
「そんな存在の下で働ける。カインゼル様としては名誉であり誇りでしょうよ」
もう、どう返したらいいかわからない。オレはそこまでの人間じゃないのに。命を背負うより重いわ……。
「ハァー。オレも巨人たちを見てきます」
ダメだ。これ以上、ライドさんの話を聞いてたらヘコむ。自分に自信がなくなってくる。オレは過大評価されて、できもしない仕事を任されることがストレスになるタイプなんだよ。
リンクスを持ち、少年たちを連れてゴルグのところへ向かった。
「ゴルグ! どうだ!」
「もう抑え切れんぞ! とんでもない数だ! 網が持たんぞ!」
それは鳴き声からでもわかる。もう騒音レベルだし、害獣ネットの向こうはミスズで犇めき合っている。何重にもしてなければとっくに破られていたことだろうよ。
「もう少し堪えてくれ! 今、冒険者やカインゼルさんたちを配置につかせてるところだ!」
「やってはみるが、そう長いことは持たないからな!」
確かに害獣ネットを押さえるために木を組んだみたいだが、今にも倒されそうな勢いだった。
「お前たち、今すぐ追い立てるようライドさんに言ってくれ。限界なときはこちらから追い立てると!」
「わ、わかりました! 伝えてきます!」
少年たちが駆けていくのを横目に、落ちている太い枝をつかみ、つかみやすいようナイフで削ったら網の間から突っ込んでミスズを押し返した。
焼け石に水なのは分かっいる。それでも時間を稼ぐ必要があるんだからやれ、だ!
オラ! 下がれやケダモノどもが!
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