第207話 ピンチはチャンス

 夜中に少年たちを起こし、オレたちは眠らせてもらった。


 何事もなく朝を迎え──る前にミスズの鳴き声で起こされてしまった。うっせーな! なんだよいったい!?


「タカトさん。もしかするとミスズが溢れたかもしれません」


 ミスズが溢れた? どういうこと?


「原因はわかりませんが、数年前にもミスズが溢れたとロンダリオさんたちに聞いたことがあります」


「そう言えば、ココラって鳥の大群に襲われたことあったな。あれも溢れたことになるのか?」


 去年のことなのに遠い昔に感じるぜ。


「ココラの大群にですか!? よく生きてますね!! あれ、人食い鳥ですよ!」


 え、マジで?! ラダリオン、そんなこと言ってなかったよ!! 知ってたら即逃げてたのに!


「あのときはオーグもココラを狙っていたからな、意識が散漫になってたんだろうよ」


 よくは知らんけど。


「いや、ココラとオーグを同時にって、金印でも逃げ出しますよ」


 どうやらオレらは危険なことをやったらしい。今生きていることに感謝しよう……。


「まあ、過ぎたことはどうでもいいさ。ミスズが溢れるとどうなるんだ?」


「今の時期だと麦や野菜を食いに畑に現れます。前のときは各町の冒険者を総動員させて狩ったってロンダリオさんが言ってました」


「刈り取りってまだかかるのか?」


 それこそ総動員で刈り取りしてるんだろう?


「あと十日くらいはかかると思います。種類によって植える日にちを変えて、収穫時期をずらしてるので」


 へー。そうなんだ。そんなこと考えもしなかったよ。って、感動してる場合じゃないな。


「ミリエル。ラダリオンに伝えろ。ミスズが溢れるかもしれないって。カインゼルさんなら正しく判断してくれるはずだ」


「わかりました!」


 ミリエルがホームに戻るのを見届けたらVHS−2をつかんだ。


「ルカとリュウナはここに残れ。ラズル、ミギス、ボブス。拘束したゴブリンを殺しにいくぞ」


 ミスズが溢れたらゴブリンを運んでる暇はない。衰弱死される前にオレたちで殺して報酬をいただくぞ。


 各自にLEDライトを渡し、拘束した場所へ向かった。


 ミスズの鳴き声があちらこちらから聞こえるな。夜通し移動してるのか?


 拘束した場所にきたら三人にゴブリンを殺させる。


「タカトさん、すべて殺しました!」


「よし。お前たちは先に戻れ。オレは罠を仕掛けてから戻るから」


 ミスズの鳴き声からして百や二百と言った数じゃない。下手したら千はいる鳴き声だ。もう山が鳴いているくらいだわ。


「ミリエルが戻ってきたら銃は使うなと伝えろ。眠りの魔法は使っていいから」


「わかりました! 無茶しないでくださいよ!」


「オレは逃げることを恥とは思わない男。腰抜けと罵られようが自分の命を優先するさ」


 格好つけて死ぬくらいなら嘲笑されても生きることを選ぶわ。


 三人がいなくなったらホームへ。ラダリオンに伝え終わったようで二人はいなかった。


 中央ルームに置いてあるタブレットをつかみ、玄関で白菜やキャベツを十万円分を買い、ミスズが食うかわからないが、鹿せんべいを五万円分買った。


 ダストシュートに放り投げ、外へ捨てていく。


 すべてを出したら外へ。捨てたものに埋もれてしまったが、構わず野菜を蹴り飛ばし、広範囲に広げた。


 鹿せんべいも四方に投げ放ち、ミスズが一ヶ所に集まらないようにした。


「こんなもんでいいだろう」


 どこまで効果があるかはわからないが、少なくとも足止めにはなるはずだし、広範囲に広がりはしないはずだ──と信じよう。


 キャンプ地に戻り、そこにも野菜や鹿せんべいをばら蒔いた。


「少し下がるぞ」


 鹿の鳴き声がすぐ近くから聞こえる。どんなに弱くても集団になられたら脅威だ。この人数でどうこうできるわけがない。逃げるしかないだろう。


 一キロほど下がったらパイオニア二号をホームに戻し、一号でルカとリュウナをさらに下がらせる。


「お前たち、これを周辺に蒔け」


 飼料用トウモロコシを買ってきて三人にばら蒔かせる。


「こんなのを蒔いてどうするんですか?」


「散らばられたら冒険者総動員しなくちゃならないのなら、山にいるうちに一ヶ所に集めるんだよ。それなら人数さえ揃えば包囲できるだろう」


 ミスズをいくら倒したところで一円にもならないが、コラウスが大ダメージを受けたらやっと本拠地を創った苦労が水の泡だ。コラウスにはオレの後ろ盾になってもらわないとならんのだから見過ごすなんてことはできんだろう。


「それに、ここで食い止められたら人を集める時間を稼げる。仲間がくるまで踏ん張るぞ!」


 さらに飼料用トウモロコシを買ってきて、ばら蒔きながらラザニア村へ下がっていく。


「タカトさん! 明かりが近づいてきます!」


 ミリエルか? と思ったが、ヘッドライトをつけたゴルグたちだった。


「タカト、ミスズが溢れたってのは本当か!?」


「この鳴き声がいい証拠だ。報酬金はいくらある? あるなら害獣ネットを調べて買え! 周辺に張り巡らせろ! 上手くいけば生け捕りにできる! 冬の食料になるぞ!」


 これは危機じゃない。チャンスであることを巨人に示してやる気を出させる。


「肉が大量にやってくるぞ! 急げ! この好機を逃すな!」


 さらに巨人たちを煽ってやった。

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