第565話 馬を買いに

 ミリエルが小悪魔化しているような気がしないでもないが、苦い初恋を経験するもまたよしだ。オレも初恋は苦いものだったっけ。


 少年よ。たくさんの経験を乗り越えて立派な男に成るがよい。


「マスター、お待たせしました」


 職員たちがきたのでミレット商会に向かうとする。あ、三人組はオレがこないから様子を見にきたそうだ。


 パイオニア五号はミリエルに運転してもらい、三人組を乗せて先にいってもらい、オレらはのんびり歩いていくことにした。職員に道を覚えさせるために、な。 


 とは言え、そう広い町でもない。十分もしないで到着してしまった。


 店先にはダインさんやミレット商会の主、ロダンさんが立っており、笑顔で迎えてくれた。


「お久しぶりです。活躍は聞いておりますよ」


「ええ、お久しぶりです。ロダンさんこそ活躍してそうですね」


 なんか体がふくよかになり、着ているものもなんかよさげになっていた。


「アハハ! タカトさんはお目がいい。さあ、中へどうぞ。職員の方も」


 人数が多いからどうするのかと思ったら店の裏に案内され、そこにテーブルが用意してあった。


「塩ミルクティーと揚げパンを用意しました」


 ん? 前きたときこんなのあったっけ? 羊乳入りの紅茶だったような記憶があるが……。


「タカトさんが教えてくれた塩を使った羊乳入り紅茶です」


 あー、スーテーツァイな。すっかり忘れていたよ。


 どれと飲むと、なかなか美味しかった。


「結構苦労したのでは?」


 オレは紅茶の素人だが、ここまでの味を出すには相当な試行錯誤があったことだろうよ。


「はい。この味を出すのに一財産使いました。ですが、ライダンドの名物になりました。タカトさんには感謝しかありませんよ」


「名物ですか。考えるところが違いますね。普通は儲けるために苦労するのに」


「もちろん、商売も考えていますよ。名物があることでライダンドの名が知れ、羊毛の名も知れ渡りますからな」


 へー。先を見た戦略的計画か。この世界の人もそんなこと考えられるんだな。いや、一流の商人はそれができるってことだろう。一流には気をつけないとな。


「まあ、商売は商人に任せるとして、駆除員は駆除員としての仕事に励むとします。なにか有益な情報があればいただけませんか?」


 ラム酒を取り寄せてロダンさんの前に置いた。


「砂糖から造ったラム酒と言うものです。紅茶に入れると美味しいですよ」


 ストレートティーに混ぜると美味い。まさに午後に飲むと一段と美味いものだ。


「ほー。飲んでみて構いませんか?」


「どうぞ。ダインさんも」


 気になっているダインさんにも勧めた。


「これは、いいですね」


「午後の一時に飲みたいものです」


 やはり紅茶は午後に飲むのが美味しいものなんだな。


 他の者も飲みたいと言うのでラム酒を追加して皆に回した。


「そうそう、ゴブリンでしたな。最近は草原で見ることはなくなりましたな。ロズ村もここ最近はゴブリンを見てないそうです。ただ、狼は増えましたな。羊がよく襲われるようになりました」


 ギルドマスターが言っていたのと同じか。


 狼は専門外なのでライダンド伯爵や冒険者ギルドに任せるとして、平原にゴブリンがいないのなら東にある山にいるってことだ。


 春だから食うものもあるだろうが、数千のゴブリンを支える食料はないはずだ。溢れたら必ず平地に流れてくるだろうよ。


「少し、間引きする必要がありますね」


 固まっててくれるなら好都合だ。溢れる前に行動したほうがいいだろう。


「おれたちも連れてってください!」


「山ってあまりいかないから連れてってもらえると助かります」


「お願いします!」


 ほんと、大人になったものだ。将来有望だな。まあ、女のことは全然だけど。


「構わないよ。一緒にいくか。でも、その前に馬を買っておく。ゴブリン駆除から帰ってきてからは疲れるからな。ダインさん。お願いできますか?」


 なんでも馬を育てる一族を紹介してくれるそうだ。


「わかりました。ここから馬で半日の距離にある村なのですが、これからいきますか?」


「そうですね。馬で半日ならパイオニアならもっと早く着けるでしょうしね」


 あちらで一泊しても構わないだう。注意すべきは狼。人感センサーのライトを設置したら難なく対処できるだろうよ。


「わかりました。荷物をお願いしてもいいですか? いろいろ手土産があるので」


 構わないと返事をしてトレーラーを牽引したパイオニア二号を出してきた。


 全員で荷物を積み込んだら出発する。


 パイオニア五号はミリエルに任せ、二号はオレが運転。案内役は三人組だ。一緒にいきたいと言うんでな。


 先頭は三人組。次にオレ、ダインさん、ローガ、ダリ。最後はミリエル、マリト、ガルダ、サタナだ。


 道がよくて時速四十キロで走っても揺れが酷くない。やはり道は大切だってのがよくわかるよ。


 途中で小休止を挟み、十六時過ぎくらいに馬を育てる村が見えてきた。


「あれがマドット村です」


 木の柵と櫓が象徴的な村である。狼対策なんだろうか?


 櫓に見張りが立つが、よくきたな~ってくらいの感覚で手を振り、速度を落として開け放たれた門から村に入った。 

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