第369話 *女神の不手際*

 ふにゃ~ん。


「──おっと、危ない危ない。危うく重罪を冒すところだったわ。ほら、こっちですよ~」


 全身をがっちり握られるようにどこかへ引っ張られた。はぇ?


 ………………。


 …………。


 ……。


 ──はうっ! え? はぁ? どこだここ? オレは……え? オレはなにしてたんだっけ? 確か、ライフルを弄っていたような……?


「ふー。よかった。まさに間一髪だったわ」


 その声に意識を向けたら女神然とした女がいた。


「……あ、あなたは……?」


「まったく、人間の脳は小さくてたまらないわ。あのていどでショートしそうになるんだから」


 脳? ショート? この女性はなにを言っているんだ? てか、どちら様?


「うーん。まだ完全に修復してないか」


 だからなんのことよ? いい加減説明して欲しいんだけど。


「まあ、ちょっとした意識障害を起こしているだけですよ。自然に治ります。ゆっくり落ち着いててください」


 ゆっくり落ち着いている状況ではないが、この女性の言う通り、慌てても仕方がないか。なにがどうなっているかわからないんだからな。


「記憶が修復するまでの間、少しお話し致しましょう」


「は、はぁ、はい。わかりました」


「あなたは一ノ瀬孝人さん。セフティーブレットの代表でゴブリン駆除員です。駆除が順調なのでわたしが優良な情報を与えたのですが、思った以上に情報が多くてショートしかけたんです」


「……それって、とても危険な状況だったのでは……?」


 てか、脳がショートする量ってなに? 意味がわかんないんだけど。


「大丈夫大丈夫。間一髪だっただけですよ」


 うん。それが危険な状況って言うんだよね? 笑って言うことじゃないよね? あなた、サイコパス?


「まあまあ、無事だったんだから気にしない。とは言え、こちらの不手際。お詫びとして肉体と魔力を一段階アップ。そして、一千万円をプラスしておきますね」


 一段階アップは別として、一千万円は破格だな。確か、準備金は十万円じゃなかったっけ? 


 なんだろう? ふつふつと怒りが湧いてくるんだけど、なんでだ?


「それと、魔王を退治してもらう人がそちらの世界に転移され、支配されていた国を奪い返しました。地域は離れていますが、出会う確率は高いでしょう。タカトさんが魔王と戦うことはありませんが、協力していただけると助かります。あちらの報酬はセフティーホームを好きなように拡張できるだけなんで」


 それはまた、酷い扱いだこと。その人、よく無報酬みたいな感じでやってられんな。マゾな人か?


「拡張は魔石を使用します。その方のセフティーホームと孝人さんのセフティーホームを繋げると言うことも可能ですよ」


 元の世界の人と会えるのは素直に嬉しい。やはり、同郷の人がいるって心の拠り所にるしな。


「好きなように拡張か。それは夢が広がるな」


 オレなら歳を取らず、成長だけできる、時間が止まった部屋で五億年くらい修業──は、したくないな。そんな地獄ノーサンキュー。三年くらいで挫折する未来しか見えないわ。だったら短時間で成長する部屋を造るよ。


 そんなのより自動整備工場のほうが欲しいな。パイオニアや銃を自動的に整備してくれるとか夢のようだ。数十万数百万のものを買い換えるのは大変だからな。あ、武器製造部屋もいいな。RPG−7はいくらあってもいいし。


「どうやら頭が修復してきたみたいですね。魔石はなるべく集めていたほうがいいですよ。自動整備工場ともなればロースランの特異体八匹分になりますから」


 ロースラン? 特異体? なんだっけ? 


「そう急ぐことはありませんよ。とにかく、一段階アップと謝罪として一千万円をプラスしておきますね。これからも孝人さんの活躍を祈っております」


 パチン! となにかが弾けた。


「──タカト!」


「大丈夫か!?」


 なにやらミシニーとアルズライズが青い顔をしてオレを見下ろしていた。


「……オレは──いっ!」


 起きようとしたら凄まじい頭痛が襲ってきた。な、なんだ、この痛みは!?


「動くな。とりあえずホームにいけ。回復薬じゃどうにもならない事象が起きたみたいだ」


「……め、女神の、ところに、いっていた……」


 あれ? ダメ女神のところにいく前になにか言われたような気がするが、よく思い出せない。いったいなにをしてくれたんだよ、あのクソ女神は……!


「そうか。まずは回復するまで出てくるな。おれたちは大丈夫だから」


「ああ。ゴブリンの報酬もある。気にせず休め」


「……わ、悪い。そうさせてもらう……」


 ダメだ。この痛みに堪えられない。意識を繋いでおくのも辛いわ。


 横になったままホームに入ると、間髪いれずラダリオンに抱えられた。


「しゃべらなくていい。女神の声は聞こえてたから」


 そ、そうか。説明の手間は省けてよかった。しゃべるのも辛いんだよ。


 マットレスに寝かされ、装備を三人がかりで外された。


「……すまん。ウイスキーをくれ……」


 とてもじゃないが素面じゃ眠ることもできないよ。


 ラダリオンが背もたれとなってくれ、ミリエルが蓋を開けて飲ませてくれた。あ、楽しみに取っておいた余市十年じゃん。


 こんなときじゃなく、ゆっくりとしたときに飲みたかったが、この味か頭痛を和らげてくれる。


「ふー。少し寝る」


 頭痛が和らいでくれたお陰で眠気が出てきた。次に目覚めるときは気持ちよく目覚めますように。と、祈りながら眠りについた。

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