第184話 ロッダー商会

「あ、タカトさん! 申し訳ありません! 荷が届かなくて何日か延びるのですが、大丈夫でしょうか?」


 ミレット商会にきたらなにやら大忙し。またあとにしようと回れ右したら馬車に乗ったダインさんが登場。こちらがなにか言う前にそんなことを言われてしまった。


「構いませんよ。そちらに合わせますんで」


「ありがとうございます! この礼はしますので!」


 お構いなく、って言う前に馬車は通りすぎてしまった。


「なにを運ぼうとしてるんだ?」


 まあ、なんでもいっか。オレらはダインさんたちを守ることがお仕事。それまで余暇(今、決めました)を楽しむとしよう。


 ミシェドさんの酒場は誰かに訊けばわかるだろうし、まずは土産でも買いにいくか。


 時刻は十五時前。店が閉まる時間でもない。あれもこれもと望まなければ見て回るのに充分だ。


 領都はそれほど大きくないし、ここは下町的なところ。ライダンドの土産を探すならこちらのほうがいいだろう。


 通りを、って言っても五十メートルもなく、どれにしようかな? なんて迷うほど店もない。十数件って感じだな。


 ミレット商会の隣は……なんだ? 店先に馬が何頭も繋がれてるが?


 気になって開け放たれたドアから中を覗いたら、弓がたくさん飾られていた。武器屋か?


 冒険者やそうじゃない者らもいるので中へ入ってみる。


 へー。弓っていろんな形があるんだな~。


 弓なんてラインサーさんが使ってたのを見たくらいだが、ライダンドでは弓が必需品なんだろうか? 店で置くには多いだろう。


「タカトさん!」


 弓を眺めていたら誰かに声をかけられて振り返ったらバイスたちだった。


「おー。お前たちか。ゴブリン狩り順調か?」


「はい。タカトさんが教えてくれた炙り出し作戦でたくさん狩りました」


 こいつらも一万匹突破に貢献してくれてたのかな? それだったら感謝だよ。


「それはなによりだ」


「はい。でも、そのお陰で矢の消耗が激しくてすぐ買いにこないといけないですよ」


「矢って使い回しなんだ?」


 ラインサーさんは……どうだったっけ? スコップで戦ってた記憶しかないわ。


「壊れなかったら使い回しますけど、狼を狩れば大体折れちゃいますね。そのときは鏃だけ抜いて帰りますね。棒と羽根は安いですから」


 なんでも棒は十本で小銅貨一枚で買えるとか。銅貨一枚百円くらいだから小銅貨は十円、になるのか? てか、小銅貨ってどんなものよ? 


 気になってバイスに見せてもらったら銅の粒だった。貨幣として成り立つのか、それ? 


「タカトさんはなんでうちに?」


 ここ、ライマーのうち、ってか商家の息子だったんだ。


「いや、ダインさんのところにいったら忙しそうだったんでな、ライダンドの土産を、と思って見て回っていたんだよ」


「なら、ライダンドの弓は王都でも有名ですから是非買ってってください!」


「じゃあ、素人が練習用に使う弓を五、いや、十個。矢を……とりあえず百本もらえるか?」


 てか、弓って個でいいのか? 本か? なんだ? ダメ女神よ、タブレットにグーグル先生を搭載してくれ!


「ありがとうございます! すぐに用意します! 兄貴! 上客だ!」


 オレは接客とかよー知らんが、店先で上客とか叫んじゃ不味いんでない? 客を区別してると思われんじゃないの?


「いらっしゃいませ。タカト様ですね。弟が世話になっております。店を任されているマイフ・ロッダーと申します」


 ライマーの兄貴さん──マイフさんが出てきて丁寧に迎えられた。職人ではなく接客メインの人らしい。


「いえ、優秀な弟さんでこちらが教わることばかりですよ」


「アハハ。褒めすぎですよ。職人にも商売人にもなられず遊んでばかりの弟なんですから」 


 まあ、兄の立場からはそうとしか見えんわな。オレは妹だったが、褒められても否定するかもしれんな。


「兄貴! そんなことより弓と矢を用意してくれ!」


 弟として気恥ずかしいのかライマーが間に入ってきた。


「そうでした。しかし、練習用ですか?」


「はい。この度ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットを立ち上げまして、いずれ受け入れる見習い請負員用に欲しいんですよ」


「ゴブリン駆除ギルド、ですか?」


「はい。まあ、冒険者ギルドに間借りさせてもらう組織ですけどね」


「あまりピンときませんが、そう言うことでしたらそれほど質のよいものではなくてもいいですね。まずは小張りのものを用意しましょう」


 小張り? なんだ? 首を傾げてたらライマーが小張りの弓を見せてくれた。


「小張りは鳥とか小さな獲物を狩る弓です」


 ここでは大まかに小張り、中張り、大張りと分けて、一流になると特張りになるんだってさ。


 しばらくして糸を張ってない小張り十個と矢を百本持ってきてくれた。結構な量になるな。


「いくらですか?」


「弟がお世話になってますので、銀貨三枚でどうでしょうか?」


「……そんなに安くていいんですか?」


 銀貨三枚って三万円くらいだろう。破格すぎね? 


「アハハ。さすが銀印の冒険者です。銀貨三枚は安いですか」


 いや、元の世界なら三万円を安いなど言えんが、三万円でこれだけの量を買えるとは思えない。オレの価値観が間違っているのか?


「まあ、ゴブリンの報酬で生きてるんで、ここでの価値観がいまいちピンとこないんですよね」


 こちらの金で生活したら実感するんだろうが、ほぼ円で生きている。わざわざ生活水準を落としてまで学びたいとも思わないよ。まあ、それじゃ不味いな~とは思ってんだけど、なかなかどうしてやる気が起きないんだよ。


「銀貨一枚で何日くらい生活できますか? 男一人だと?」


「そう、ですね~。何日、とははっきり言えませんが、まあ、十日は生活できるんじゃないですかね?」


 それは商人としての暮らしから出た答えだろう。なら、もっと下の者だと二十日は生きられる感じか?


「それでも銀貨三枚は安いですよね?」


「まあ、小張りは素人でも作れるものですし、今回はうちの見習いが練習として作ったもの。ほぼ材料費です。鏃も安鉄を使ってますから、通常でも銀貨四枚が精々でしょう」


 それが本当かどうかわからないのだからその言葉に納得しておくしかないか。


「本格的に使うとしたら一人前の職人が作った、銀貨四枚はするものを買ったほうがいいですね。もちろん、しっかりとした店で買うことが前提ですが」


 つまり、この店はしっかりしてるってことか。


「本格的に使うようになったらまた買いにきますよ」


 銀貨三枚をマイフさんに渡した。

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