第306話 共生関係
男爵が用意している間に、男爵夫人から紅茶を出してもらった。
「貴重なものでしょうに、ありがとうございます」
この世界で紅茶(味が似てるだけで違うものかもしれないけど)は高価だ。コラウスでもなかなか出せるものじゃない。それを出せると言うことは大切なときに出すために取っていたんだろう。
「いえ、タカト様のことは主人より聞いております。アシッカを救っていただいたとか。こんなものでは恩は返せませんが、遠慮なく飲んでください」
男爵夫人ってよりはいいところの奥様って感じだ。
「ご主人をお借りする礼としてお受けください」
ラダリオン用に買ったクッキー缶を取り寄せ、子供たちの前に置いた。
「湿気が入らないようしっかりと封をしているので開け難いでしょうが、おやつに食べてください」
テープが巻かれて戸惑うかもしれないが、まあ、なんとか開けられんだろう。ラダリオンは二秒で見抜いてテープを外したよ。
「ありがとうございます」
「いえ。ただ、わたしが出すものはわたしの手から離れたら十五日で消える魔法がかかっております。開けたら早めに食べてください」
請負員が出したものは今でも触らないと十日で消えると教えている。請負員が利用されないためにな。
「──またせた」
これから戦にでもいきそうな格好をして戻ってきた。それ、冬の装備じゃないよね? 雪の中歩けんの?
まあ、地元民なんだし、本人がその装備にしてきたんなら大丈夫なんだろうよ。
「美味しい紅茶をありがとうございました。では、しばらくご主人をお借りします」
夫人に礼を言って家──じゃなくて館を出た。
さすがに男爵一人で、と言うことにはならないようで、防寒着を着た兵士が四人いた。てか、これで全兵力ってわけじゃないよな?
「仲間と合流します」
気配を辿っていき、村の前で落ち合った。
パイオニア二号とスノーモービルをホームに戻し、軽くミサロとミーティング。終われば肉まんあんまんカレーまんを大量に持たされて外に出た。オレ、ピザまんが好きなんだけどな~。
「……美味いな……」
男爵たちも気に入ったようで、皿に盛られた肉まんあんまんカレーまんがあっと言う間になくなってしまった。
熱い緑茶で落ち着いたら出発する。
先頭は兵が立ち、一列でロースランがいるオードブルへ向かった。
雪が深くて進みはゆっくりだが、さすが地元民。交代しながら先頭を交代し、暗くなる前にオードブルの森までこれた。
「あちらに避難小屋がある」
ここにキャンプ地としようかと考えてたら男爵がそんなことを言い、二百メートルほど東に進むと小屋があった。
石組みの小屋で、中は六畳もない。一応、暖炉と薪はあるが、水や食料はなく、トイレも風呂もない。いや、避難小屋にあるほうがおかしいか。
「アリサたちは周辺の雪を溶かしてくれ」
スコップを取り寄せ、ヒートソードと乾電池をナタリーに渡した。こいつは火の魔法が使えないってことなので。
「メビ。周辺にワイヤーを仕掛けるぞ」
「わかった」
周辺にロースランやゴブリンの足跡はないが、匂いを立てたら寄ってくるかもしれない。防備はしっかりしておかないとな。
「タカト、ゴブリンいるの?」
「いるな。たぶん、洞窟に隠れているんだろう。気配が塊っているよ」
雪が降って逃げ込んだんだろう。気配が弱い。これで死なないんだから生命体として優れているんじゃないかと思えてくるぜ。
ワイヤーを仕掛け終わったら風を防ぐためのシートを張り、新たに時計型ストーブを買って火を入れた。
小屋に全員は寝れないので、まずはメビとエルフたちを先に小屋で横になってもらい、ストーブで具たくさんのシチューを作り始めた。
「男爵様たちも体を休めておいてください。明日は朝からロースラン退治を始めますので」
「ロースランの場所はわかるのか?」
「おおよその位置はわかります。あちらの方向、三百歩くらいのところに固まっていると思います」
ロースランもゴブリンはエサとしないのだろう。その周囲にゴブリンの気配が壁のように囲っている。と言うか、ミランド峠にもゴブリンが大量にいたな。
もしかして、ロースランとゴブリンは共生関係なのか? あるとしたらどんな理由だ? まったく想像がつかんわ。
「まあ、一ヶ所に囲っているなら好都合です。纏めて葬ってやります」
いや、魔石を取らないとダメか。四散させないようにしないと。
「男爵様は、ゴブリンを狩ったことは?」
「何度かあるが、十匹は狩っていない。ゴブリンは狩るのが面倒だからな」
身近にこれだけいて脅威とは思わなかったんだろうか? 被害はそれなりに出ているのによ。
「男爵様も請負員となりますか? ギルドに入る必要も義務もありません。小遣い稼ぎにゴブリンを狩ってもらえれば構いません。請負員になれば塩もお茶も買えますよ」
伯爵からも聞いているはず。その利点をな。
「……兵士たちも可能か?」
「老若男女、身分に問わず可能です。まあ、さすがに戦えない女子供を請負員にするのは躊躇われますがね」
そこまで鬼畜にはなれないわ。
「では、なろう」
男爵の承諾に、兵士全員請負員とした。
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