第307話 ロースラン

 朝になり、寒さが増してきた。


「……氷点下になったか……」


 さすがに氷点下になるとストーブの効果もない。が、ヒートソードを三百度にすれば汗をかくほど暑い。


 じゃあ、下げろよ。とか言う方もいらっしゃるだろう。でもね、ヒートソードを地面に刺して三百度にしちゃったのよ。うん。熱くて近づけないの。ヒートソードは握らないと温度調整できないの。切れるまでそのままなのよ。


 フフ。罵ってくれて構わないぜ。オレもアホな自分を罵っているところだからさ。あー。暑さと寒さの中間で飲む生ぬるいコーヒーは美味いぜ……。


「タカト。まだやらないの?」


「もうちょっと待ってくれ。ゴブリンの位置をもうちょっと確かにしておきたいからさ」


 オートマップとサーチアイを使って周辺を探り、スケッチブックにゴブリンの位置を描き込んでいる。ロースランが動き出したら他に構っていられないからな。


「メビ、木に登れたっけ?」


「うん、登れるよ。ねーちゃんほど上手くないけど」


 まあ、ビシャは身体能力が凄い。腕力だって敵わないよ。


「登れたら構わないよ。周辺にマチェットと銃を仕掛けておいてくれ。マチェットは赤。銃は白のスプレーで目印をつけてくれ」


「わかった。アリサたちに手伝ってもらってもいい?」


「ああ。午後から仕掛けるから十時くらいには戻ってきてくれ」


 ロースラン退治は今日中に終わらせたい。そのための体力は残しておきたいからな。


 メビたちが出かけたら男爵たちに方位磁石の見方とゴブリンがいる位置を教えた。


 十時くらいにメビたちが帰ってきたら二時間くらい横にならせ、起きたら昼飯を食わせた。


「最終ミーティングをする」


 作戦は昨日のうちに教えたが、確認は何度やっても困らない。これからやることはとても危険なことだからな。


「タカト、無理しないでね」


 ミリエルかビシャに言われたのだろう。度あるごとに念を押してくるメビさん。わかっているよ。


「アリサ隊は東。男爵隊は南。メビは遊撃だ。開始時間は十四時二十分。ロースランは今日中に全滅させます。ゴブリンが出てきたら倒す判断は任せます。だだ、暗くなったら終了です。深追いは禁止です」


 全員の承諾を得たら装備の再確認。皆で集まったら作戦開始を告げた。


 オレは北側にある高い場所へ向かい、場所を固めたらホームに入った。


「ミサロ。これからロースラン退治を始める」


「了解。気をつけてね」


「ああ。安全第一でやるよ」


 ロケットを差しておいたRPG−7を二基を持ち、外に出た。


「……とうとう使う日がきたか……」


 いや、もっと早くに使っておくべきだったのだが、物が物なだけにビビッてました。だって、戦車とかに撃っちゃうものだよ? 普通にビビッるでしょっ! 怖いと思っても仕方がないわ!


 とは言え、いつまでも使わないわけにはいかない。竜がいて山黒がいるファンタジーワールド。対抗手段を持ってないってことのほうが怖いわ!


 バクバクする心臓を深呼吸で押さえつけ、RPG−7を構える。


 大丈夫。撃っているDVDを何度も観た。書物も読んだ。RPG−7の扱い方は単純。ハンマーだかを下ろして、安全装置のボタンをズラす。狙いを定める。そして──。


「──チートタイムスタート!」


 で、引き金を引いた。


 誤爆したときのために発動させたが、反動を少し感じたくらい。ロケット弾はまっすぐロースランが隠れているだろう洞窟に飛んでいった。


 チートタイム発動しているからか、やたらと時間がゆっくり流れ、ロケット弾が洞窟に激突。爆発を起こした。


「……エゲつな……」


 さすが戦車に向けて撃つもの。山黒だって爆散すんじゃね?


 数十秒呆けていたが、すぐに意識を切り替えて発射器を雪の上に放り投げ、もう一つをつかんで構え、同じ手順で発射させた。


 同じところを狙ったのに少し右にズレて爆発した。


 発射器を放り投げてチートタイム停止。撃つだけで五十秒も使ってしまったよ。


 リンクスを取り寄せ、弾を装填して構えた。


 そのまま永眠してしまったのか、なかなかロースランが現れない。それでも油断なく構えたまま待っていると、爆煙の中から負傷したロースランが出てきた。


 すぐに引き金を引いてロースランの腹に弾丸をぶち込んでやった。


 アサルトライフルでも殺せたから対物ライフルでは一発昇天。見かけ倒しか。


 さらにロースランが出てきて、一匹一匹確実に殺していった。


 とは言え、マガジン交換とかして狙い定めていれば逃す者も出てくる。数えられなかったが、倒したのは五匹。ロケット弾に倒れたのがいたとしても十匹は逃したことだろうよ。


 リンクスを投げ捨て、置いていたマチェットをつかむ。


 三メートルはあり、緑色の巨体なのですぐに四匹を確認。体が大きい者を標的と決め、チートタイムスタート!


 木を伝わって距離を縮めてマチェットを振る。首を斬るが、マチェットは折れてしまった。


 すぐに周辺に目を走らせてメビが仕掛けてくれたマチェットを発見。ロースランを踏み台にして向かい、次の標的に移動。次は頭に突き刺してやった。


 残り四十五秒。マチェットはあそこか。


 ロースランに刺したマチェットはそのままに次の標的を目で追いながらマチェットへ向かい、つかんだから猛ダッシュ。背中から突き刺してやった。


 そこでチートタイム停止。残り十五秒か。最初の五十秒を無駄にしたぜ。


 笛を出して強く吹く。各自、仲間に気をつけながらロースラン、ゴブリンを討てとの合図だ。


 オレはグロックを抜いて、ロースランが潜んでいた洞窟に向かう。中にいるロースランの止めを刺すために、な。

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