第10章
第431話 小隊
アシッカの問題はなるべくアシッカにいる者で解決する。その方針で伯爵を支援しているのだが、なんかオレ、参謀の位置に立ってないか?
まあ、別に難しい問題はないので場当たり的な対応と食料を買って領民を飢えさせないようにしているだけ。参謀とはちと言いすぎたな。
伯爵の横であれこれ言ってばかりはいられない。新たにやってきた奴隷たちを請負員としてスコーピオンの訓練をしなくちゃならない。
ヨシュアから状況を聞かされているようで、反抗する者はおらず、皆真剣に訓練に励んでいた。
隊長になれそうなヤツを三人選び出し、三つの隊な振り分けして一隊をヨシュアのところへ増援。一隊をマイセンズの砦へ増援。一隊はオレが率いてミラジナ男爵領へ向かった。
ミラジナ男爵領地はミヤマラン公爵領に続く領地であり、エントラント山脈に入る玄関口でもある。
山脈の雪も解けてきたせいか、こちらに巣くうゴブリンが活動してきたと言う報告も上がってきたのだ。ほんと、ゴブリンはどこにでもいる害獣である。
「よくきてくれた。ゴブリンの姿が頻繁に見るようになって領民が恐れている。早めに退治してくれ」
ミラジナ男爵は五十手前の人で、長いことゴブリンや魔物に苦しめられてきた人でもある。
エビル男爵みたいな自ら動いて解決しようとする武闘派ではなく、柵を作ったり冒険者を雇ったりして乗り越えてきた保守的な人だそうだ。
前も会っているので悪い人ではないのはわかっている。どちらかと言えば人格者な人だろう。男爵の中では調整の人と呼ばれていたよ。
「お任せください。春の種蒔きを邪魔されたくありませんからね」
これ以上、食料問題は勘弁して欲しい。ゴブリンどもには死んでもらいます。
「デト。ミーティングをするぞ」
この隊の長としたデトは二十五歳と若く、戦争時は一兵卒だったみたいだが、奴隷時代に覚醒したようで、誰よりも生きることに必死だ。自分一人では無理と理解し、仲間を纏めて生き抜くことを重視していた。
こういうタイプは出世する。なら、早々にリーダーにさせて成長させるべきだ。
地面に地図を描く。
「オレの察知範囲内には約三百匹のゴブリンがいる。気配が動いてないところからして巣だろう。これはメスが子を産んでいるな。オスは二匹から三匹でエサ探し回っている。デトたちは三人一組で動け。オレが指示を出す」
デトたちにはプランデットをつけさせているが、まだなにもわかっていない状態だ。だが、こちらから通信はできる。誘導すれば苦なく駆除できるだろうよ。
「プランデットの通信半径は一キロだ。通信が届かない距離には出ないこと。昼前には戻ること。不測事態のときは後退すること。逃げられなときは笛を吹くこと。安全第一、命大事に行動すること。いいな?」
あまり細かく言っても仕方がない。これだけは絶対に守れということだけを口にした。
「了解です!」
代表してデトが応える。
「装備確認」
スコーピオンの動作を確認させる。
「よし。駆除開始!」
四隊が山に散っていった。
「男爵様。女性たちに炊き出しをしてもらっていいですか。食材は持ってきたので」
パイオニアで牽いてきたトレーラーの幌を外し、村の人たちに降ろしてもらった。
「麦は村でも使ってくれて構いません。パンを焼いてもらってください」
これは食料配布の意味もある。ミラジナ男爵、保守的なだけあって食料を求めてこないのだ。
こちらとしては助かるが、ミヤマランに続く玄関口が滅んでも困る。だから理由をつけて食料を配布したのだ。ゴブリン駆除の協力もしてもらいたいからな。
「わかった。やらせよう」
「ありがとうございます。オレは奴隷たちを指揮してますんで、なにかあれば声をかけてください」
見張り櫓を借りて指揮所とする。
プランデットも障害物があると通信に使う魔力の消費が激しくなるのだ。
ホームから椅子を持ってきてデトたちの気配を探る。
「第二小隊。前方二百メートルに三匹いる。左から右に移動している。背後から襲え」
十分くらいして銃声が鳴り響き、ゴブリンの気配が消えた。
「よくやった。北の方向に移動しろ。第一小隊。前方百メートル。やや左に二匹いる。停止しているから忍び寄って襲え」
銃声に驚いている気配だが、エサを探さなくてはならないので逃げ出すことはない。飢えているときのほうが簡単なのかもしれないな。
他の小隊に指示しながらゴブリンを駆除していたらあっと言う間に十一時半を過ぎていた。
「昼にする。戻ってこい」
三十分かけてデトたちが戻ってきて昼にする。
「午前中だけで四十五匹か。まずまずだな。午後も頼むぞ」
十二人で約十六万円稼げた。その金は奴隷傭兵団が使うことになるが、働いた分は食事で還元。腹いっぱい食べさせる。
「はい! がんばります!」
戦意は高く、食欲も好調。午後は五十匹も駆除できたよ。
「一日で百匹近いゴブリンを狩るか」
「まぁ、初日ですからね。こんなものでしょう」
慣れてきたら二百匹はいくだろうよ。
「よし。夜営の準備だ。今日は褒美にワインを出そう。一人一本だ。飲めないヤツには菓子を出してやる」
なぜか一定数下戸がいて、なぜか甘党だったりする。どうなってんのよ?
あとはデトたちに任せ、オレはパイオニアをホームに戻し、明日の準備を始めた。
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