第211話 責任

 ベネリM4の銃声が轟いた。


 二発三発と、続けて轟く。やったか? なんて死亡フラグを立ててしまうが、四発五発と続いて七発を撃ち尽くした。


 今の感じからして倒し切れてない。山黒とはそれだけの存在なんだろうよ。


 三百メートルくらい離れたが、リンクスを持って山を走るのはキツい。これもこれで十キロ以上はある。その他にVHS−2やプレートキャリアに予備マガジン四本。グロックとそのマガジン二本。三十キロ近い装備で三百メートルも走れば息切れを起こしてしまうわ。


 木の陰に隠れ、ハイドレーションの給水チューブから口に入れて水を吸った。


「やはり倒し切れてないか」


 ゴブリン王のとき弾込めを何度もしたからか込めるスピードが上がっている。


「ったく。山黒、どんだけしぶといんだよ?」


 散弾とは言え、巨大化して一センチになったくらいの玉だ。それを何十発と食らって死なないとか、ロケットランチャーを用意しなくちゃ倒せんだろうが! ゴブリン駆除員が相手する存在じゃないよ!


「リンクスじゃなくRPG−7を買うんだった」


 アレもピンキリだったが、五万円のとか不安で買えないし、新品でも十万円以上もした。ロケット弾だけでも六、七万円だ。躊躇したってしょうがないじゃない。戦うより逃げるほうを選ぶわ。


「うん。ゴルグたちを信じて司令部に戻ろう」


 ここにオレがいたところで役に立たないのなら司令部でゴルグたちが戻ってくるのを待つとしよう。信じて待つことも大切だ。


 そんな邪な考えが悪かったのだろうか? 司令部が見下ろせる場所にきたとき、大きな熊がパイオニアに近付いていくのが見えた。


「──山黒か!?」


 熊ではない。前脚が長く、後脚が短い。少年少女たちが山黒に気づいたら立ち上がり、二足歩行になりやがった。


 考えるより早くリュックサックを下ろし、リュックを土台として地面にうつ伏せとなった。


 山黒までの距離は百メートル以上百五十メートル以下。オレでも当てられる距離だ。


 スコープのピントを合わせ、跳ねる心臓を深呼吸で落ち着かせる。


 大丈夫。落ち着いて撃てば当てられる距離だ。仮に外れても弾は五発ある。ヒグマより大きいサイズだが、一発でも当てれば致命傷となるはずだ。


 山黒の横っ腹に照準を合わせ、一呼吸したら引き金を引いた。衝撃、強っ!


 初発は山黒の背中をかすり、表面の毛皮を裂いた。


 動揺はない。最初の一発が命中するとは思ってなかったから。ただ、弾がどう飛んでいくかを確認しただけだ。だってこれが初めてなんだもの。


 すぐに二発目を撃つと、偶然にもこちらを向いた山黒の腹に命中。捻りながら地面へ倒れた。


 動かないうちに三発目を撃つと、背中に命中──したのに立ち上がりやがった。どんだけだよ!?


「なっ!?」


 逃げるかと思い気や、なぜかこちらに向かってきやがった! それも真っ正面から?! なんでだよ!?


 リンクスからVHS−2に持ち換え、片膝撃ちで連射した。


 顔に当たったにも関わらず山黒の勢いは止まらない。すぐにマガジンを交換。連射ですべてを撃ち尽くした。


 さすがに効いたようで勢いは落ちたが、山黒の目はオレを見ていた。狂戦士か!


 すぐにマガジンを交換。今度は顔ではなく右前脚を狙って撃つ。それでバランスを崩し、前のめりで転んだ。


 山黒までの距離、約三十メートル。


 VHS−2を背中へ回し、腹這いとなりリンクスの銃口を山黒に合わせる。


 残り二発。食らいやがれ!


 ドン! ドン! と弾が撃たれ、山黒の背中へと当たった。


 すぐにマガジンを取り寄せて交換。五発を撃ち込んでやった。クソったれが! 武器を持った人間様をナメんじゃねーぞ!


 リンクスを地面に投げ、VHS−2に持ち換えてマガジンを交換。連射を食らわせてやった。


 悪いが何度も死亡フラグを立ててらんねーんだよ! いっぺんどころかじゅっぺん死にやがれ! 


 撃ち尽くしたらグロックを抜いて全弾を食らわせてやる。


 そこで安心するのは死亡フラグを立てることなので、VHS−2、グロック、リンクスのマガジンを交換してから山黒を蹴り飛ばし、勝利の雄叫びを上げた。


「……オレだってやればできるんだよ……」


 全身の力が抜けそうになるのを必死に堪え、リュックサックを背負いなおして山を下りて司令部へ向かった。


「お前たち、無事か?」


 山黒にビビッたようで、五人とも腰を抜かしていた。


「よくがんばった。偉いぞ」


 五人の頭をわしわしと撫でてやり、褒めてやった。トラウマになられたらロンダリオさんたちに顔向けできないからな。


「……す、すみません。なにもできませんでした……」


 ラズルが謝る。己の不甲斐なさに。


「謝ることはなにもない。お前らは生き残った。それだけで立派なんだ。なに一つ恥じることはない。それに、謝るのはオレのほうだ、お前たちを残していってしまったんだからな。すまん」


 ロンダリオさんから預かった少年少女。無事帰すのがオレの責任だ。


「いえ! タカトさんは悪くないです! 謝らないでください!」


「じゃあ、お互い謝るのはなしだ。さあ、帰るまでが冒険だ。最後まで気を抜くなよ」


 そう、まだ終わってない。気を抜くのは家に帰ってからだ!

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