第212話 ザマァ味噌漬け
「──そう言えば、ミルディは?」
伝令として女性冒険者が残ったはずだ。存在をすっかり忘れてたよ。
「そうだ! 山黒を引きつけて山に入ったんだった!」
はぁ? もう一匹いたのかよ! 番は番でも子持ちだったんかい!
ホームにある予備のグロックを三丁取り寄せた。
「ゾラさんが使ってる銃だ。使い方はなんとなくわかるな?」
「は、はい。何度か撃たせてもらいました」
さすがゾラさん。いつか持たせようとして撃たせたな。先見の明がある人だよ。
「山黒には効かんだろうが、気を引くことはできるはずだ。迫ってきたらこれを噴きかけるんだ」
熊よけスプレーを二つ、少女二人に渡した。うん。最初から渡しておけって突っ込みはしないでおくれよ。今気がついたんだからさ。
「そろそろ応援がくるだろうからそれまで堪えろ。無理と判断したら逃げても構わない。自分の勘に従え」
さすが二匹も三匹もいたら誰がいたってジ・エンド。そんときは自分の運を信じて逃げろ、だ。
「ミルディはどちらに向かった?」
「あっちです!」
北東か。ちゃんと反対側に逃げるとか冷静だな。伝令に選ばれるだけあって脚に自信があるのか?
北東にはゴブリンの気配があり、北よりに空白がある。大きく迂回してリハルの町に向かっているのかもしれんな。
「応援がきたらミルディはリハルの町に向かってるかもしれんと伝えてくれ」
オレもリハルの町までいくかもしれんからリンクスや荷物をパイオニアに詰め込み、ホームに戻してからミルディのあとを追った。
ここからだとリハルの町まで二十キロは余裕であるが、まだ体力はある。水を飲みながらなら体力回復していけば山の中でも十キロは走れるはずだ。
気合いを入れて山に入り、ゴブリンの空白地帯に向かって走り出した。
「印つけておいてよかったぜ」
ラザニア村周辺には迷わないようラダリオンたちに印をつけてもらっている。まあ、さすがにリハルの町まではつけてはないが、ラダリオンとマルグが通ったところは草木が刈られている。
「この足跡、山黒も通ったな」
山黒が通ったってことはミルディも通ったってことだ。ならと、銃口を上に向けて引き金を引いた。オレが追っているってことを気づいてくれよ。
百メートルくらい進んだら銃声を轟かせ、三キロくらい進んだ頃、笛が鳴った。ミルディか?
オレも笛を取り寄せ、強く吹いた。
「返ってきた!」
笛の音が届くならそう遠くはない。けど、どちらから吹いてくるかまではわからない。反響してんだよ!
「一か八かだ」
ホームに戻って処理肉を十キロ買い、外に出て周辺にばら蒔いた。
少し離れて笛を吹くと、気持ち近くで鳴った感じがした。こっちに向かってる?
交互に吹いていくと、なぜか木の上を伝わってミルディが現れた。忍者か!?
「山黒がくるわ!」
オレの背後に下りたら強制的に向きを変えた──ら、山黒がこちらに迫ってくるのが見えた。数時間前に倒したのよりデカいんですけどっ!
「どうするの?」
「オレの後ろにいろ。山黒を倒す」
熊よけスプレーを取り寄せ、高まる心臓を深呼吸で抑えつける。
ばら蒔いた処理肉に気を引かれるかなと思ったが、山黒はオレをロックオンしている。完全にオレを食おうとしてるよ。ナメくさりやがって。人間様の知恵がどれほどのものか教えてやるよ。
山黒が射程内に入ったら熊よけスプレーを噴射する!
熊よけスプレーは直撃しても効果はあるが、霧状になったところに突っ込んでも効果はあるのだ。
近くまできたら山黒が立ち上がった──そこに噴射してやった。
「フゴォオォォォォッ!!」
顔に直撃──したと信じて振り返り、ミルディに抱きついて山黒の飛びかかりから逃れた。
何度か転がり、すぐに立ち上がってリンクスを取り寄せる。
鼻と目に入ったのだろう、逃げることもできずにのたうち回っている。
「食らいやがれ!」
近距離から撃ち込んでやった。
が、それで倒せないことは先ほど学んだ。撃ち尽くしたリンクスを放り投げたら、VHS−2に持ち換えて連射で撃つ。
撃ち尽くしたらマガジンを交換。さらに連射で撃つ。持っているマガジンを使い切っても山黒は動いており、逃げようとしている。
「どこまでもしぶといヤツだ」
子供でこれとか、大人ならどんだけなんだよ? こんなのが町に現れたら滅ぼされる未来しか見えないぞ。
マガジンを取り寄せて空になったポーチに詰め込む。放り投げたマガジンは余裕があればあとで回収します。
魔法で水を集めてバレルを冷やし、冷めたらまた山黒を撃った。
二百十発撃ってやっと山黒の動きが止まった。
「人間様に挑んだことをあの世で後悔しやがれ」
グロックを抜いて全弾を食らわせてやった。ザマァ味噌漬け!
完全に死んだことを確認したら緊張が解け、膝から地面に崩れた。
「大丈夫っ!?」
「……さすがに大丈夫じゃない。疲れたよ……」
情けないと言いたいのならなんとでも言うがよい。一日で山黒なんて言うバケモノを二匹も相手したんだぞ。疲れないわけないだろうが。気を失わないようにするだけで精一杯だわ!
「……ミルディ、すまないが一人で戻ってくれ。オレは休んでから戻るから……」
崩れたままホームに戻った。
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