第537話 馬車に揺られて

 ニャーダ族の男たちが戻ってこないので、笛を鳴らした。


 ちゃんと笛を鳴らしたら集合って教えておいてよかった。そうでなかったら置いていくところだわ。


 しばらくしてニャーダ族の男たちが戻ってきた。


「食事をしろ。終わったらミーティングをする。ビシャもいってたのか」


 マンタ村に戻ったのかと思ったよ。


「うん。とーちゃんたちにゴブリンの見つけ方を教えていた。ゴブリンなんて狩らないからね」


「ニャーダ族も狩らない生き物か。逆に恵まれた存在だよ」


 天敵がいないって、生物としては勝ちじゃないか。なんでゴブリンを進化させなかったんだ? 一万年どころか十万年でも生きそうな勢いだろう。


 食事を摂らせ、食休みしたら人数を確認する。


 オレ、雷牙、ミシニー、ビシャ、メビ、ニャーダ族八人、エルフ三人、冒険者六人。計二十二人か。結構いたんだ。本当に昨日は頭が死んでたんだなと思うよ。


 疲れすぎて人の把握ができなくなっており、指示もお座なりになっていた。これは、組織改革しないと不味いかもしれんな。


「馬車をマイヤー男爵領に運び金に変える。冒険者の六人は御者を頼めるだろうか? 銀貨一枚を報酬とする」


 いくら出せばわからんが、御者だけなら銀貨一枚は美味しいだろうよ。


「わかった。引き受けよう」


 状況が見える冒険者のようで、こちらの要望に協力的だ。やはりベテランは使いやすいな。


「ニャーダ族で馬車を操れるヤツはいるか?」


「昨日まで馬車を見たこともないヤツばかりだ」


 マーダは見たことがある口振りだな。やはり、若い頃は人の世界に出ていた感じだな。


「では、馬の手綱をつかんで一緒に歩いてくれ。指揮はマーダがしろ。ビシャとメビは補佐だ」


「わかった。任せて」


「了解!」


 ニャーダ族が人の世界に慣れるまで二人をつけておいたほうがいいかもしれんな。


 ミヒャル商会の馬車は八台。馬二頭で牽くサイズの馬車だ。


 そのため御者は二人必要で、交代で操るそうだ。


 冒険者は六人いるので二人ずつにし、オレはミシニーと組むことにする。雷牙は馬車の上で見張りを任せる。


 ニャーダ族も二人組みになり、一頭ずつ手綱をつかんで歩くことになった。


「マイズたちはミロイド砦に向かって偵察をしてくれ。まだドワーフが逃げてきそうな感じなんでな」


 せっかくなのでマイズたちにはマンダリン隊として航空部として組織し、コラウス上空警備や伝令なんかもやってもらうとしよう。今回は、ミロイド砦での偵察をやってもらうとしよう。


「わかりました」


 マイズたちを見送ったら配置決めだ。オレとミシニー組が先頭になり、ニャーダ族、冒険者組、ビシャとメビには護衛を担当してもらう。


 大体のことを決めたら出発する。


 ここからマイヤー男爵領まではすぐ。最初の村まで約五キロで、街までは十五キロくらいだ。


 広場から二、三キロも進めば畑が現れてくる。最近通ったが、車から見た光景と馬車から見る光景は違うものだな。


 御者はミシニーがやってくれているので周りに目を向けられ、なんか穏やかな気持ちになれていた。


「こうして平和に旅ができたら楽しそうだな」


「隊商なんて苦労の連続さ。わたしは隊商の護衛などゴメンだね」


 まあ、舗装されてない道だ。雨が降れば泥濘、凹凸があれば跳ねる。サスペンションもないからモロ衝撃が伝わってくる。強度もそこまであるとも思えない。壊れたら自分らで直すしかない。確かにミシニーが言った通り、苦労しか思い浮かばないわな……。


 最初の村が見えてきた。


「タカト! 前から馬車がくるよ!」


 双眼鏡を出して前方を見ると、隊商らしき馬車の列が見えた。


「コラウスを目指す隊商もいるんだな」


「辺境では外から仕入れないとやっていけないからな、まったくないってことはないさ」


 どちらが譲るのかと見ていると、あちらが道の端へ寄せた。


「こっちは山を越えて、あちらは広場で休む。隊商同士の暗黙の決まりだな」


 へー。そう言うのがあるんだ。無法のようで、争わないよう決まりがあるものなんだな~。


「峠でオーグが出た! 馬車を一台失った! 何匹かは倒したが、気をつけろ!」


 すれ違おうとしたとき、ミシニーがやってきた隊商に声をかけた。


「感謝する! ミッド方面は水不足だ!」


 あちらも慣れたように返してきた。


「そんな情報交換もするんだ」


「お互い助け合わないと移動はできないからな。自分の身を守るためにやるのさ。なにも言わないと他の隊商に伝わってしまうからな」


「ってことは、こちらを見られているってことか。ナンバーは逆に目立つな」


 馬車を把握するためにスプレーでナンバーをつけたんだよ。


「人間、エルフ、獣人が馬車を率いていたら嫌でも目立つさ。気にせず堂々としていればいいさ。どうせコラウスにいけばお前のウワサを耳にするはずだからな」


「変なウワサが広がらないで欲しいよ」


 今さら目立ちたくないとは言わないが、せめて変なウワサが広がらないことを願うよ。


「それは無理だろうな。お前は目立つから。街道整備もすぐに知られることだろうよ」


 ネットも新聞もない世界だからこそウワサは千里を駆けるんだろうな。


「やはり夏になったら海を目指すとしよう」


 大海原を見て心を落ち着かせたいよ……。

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