第388話 起動

 起きた瞬間に寝過ごしたと理解できた。


「──すまない、寝過ごした!」


 急いで起き上がり、タボール7に手を伸ばした。


「構わんよ。疲れているんだから無理するな。今はビシャとメビが見回りをしている」


 カセットコンロでなにかを煮るアルズライズ。なに作ってんのよ?


「お汁粉だ」


 どこからの知識だよ? お汁粉なんて出したときないやろが。


「ビシャがラダリオンから聞いたそうだ」


 ラダリオン、食べるだけなのに、よく作り方なんて教えられたな?


「食うか?」


「いや、朝からお汁粉はキツいよ。ちょっとホームにいってくるよ」


 脱いだ装備を抱えてホームに入り、玄関の端に放り投げたらユニットバスに直行。さっぱりしたらシャワーを浴びてさらにさっぱりする。


 そのままビールを一杯──はさすがにできないのでノンアルビールで我慢。ミサロがいないのでテーブルの上にあったガーリックトーストとポテサラで朝飯を済ませることにした。


「このポテサラ、美味いな」


 冷蔵庫からソースを出してきてポテサラにかける。オレ、ポテサラにソースをかける派なんですよ。


「うん。さらに美味くなった」


 ガーリックトーストに乗せて食べるのもいい。三人にも持ってってやるか。山盛りのポテサラが入ってたし。


 ポテサラをタッパに移し、ガーリックトーストは紙袋に詰め込んだ。


「八時半か。本当に寝過ごしたな」


 十時間以上眠るとか、相当疲れてたんだな、オレ。


 皿を流しに運び、タッパと紙袋を抱えて玄関に。装備を纏ったら軽く準備運動。体が温まったら外に出た。


「タカト、おはよう!」


「おはよう!」


「おはようさん。ありがとな。まだ腹に余裕があるなら食うといい」


 見回りに出ていた二人が戻っていたので、タッパと紙袋を渡した。


「食べる!」


「おれも」


 いや、そこはビシャに言わせてやれよ。てか、お汁粉煮てたんじゃなかったのか? まぁ、食いたいなら止めはしないがさ。


 なんだかんだと三人が食い尽くしてしまい、なんだかんだと十時までのんびりしてしまった。


「さて。そろそろやるか。ビシャとメビは警戒を頼む。アルズライズは手伝ってくれ。マンダリンをラックから出す」


 無用心になるが作業するには邪魔なので装備を外し、工具が入った作業台を引っ張ってきて上に置いた。


 マンダリンは移動用の台車に乗せられているので、ラックの台を動かさなくてもいい一段目のを引っ張りだした。


 専用の牽引車があるのになぜかどこにもない。まったく、手間でしかないよ。


 アルセラのところまで引っ張ってきたらマンダリンにマナックをセットする。


 こいつもバッテリー的なものが搭載されて、マナックから魔力を吸い出すのだが、自家発電機みたいな役目を負っているようで、魔力を直接籠められる造りとなっていた。


 オレの魔力でもマンダリンに充填されてくれ、セルボタンを押すとマナ・セーラ(エンジン)が動いてくれた。


「意外と音が出るんだな」


 車のエンジンほどじゃないが、寝るときに鳴っていたらうるさくは感じるくらいだな。


「数千年も動いてないのによく動くものだ」


 風化したり錆びたりしないようロードン処理されているとは言え、数千年も保てるとか凄いものだよ。しかも、こうして正常に動くんだからな。


 暖気? の必要はないんだけど、やはり心配だから五分くらい様子を見た。


「大丈夫っぽいな」


 アルセラの右脇腹にある装甲を開け、ブースターケーブルをつけてマンダリンから魔力を充填させた。


「どのくらいかかるんだ?」


「十分くらいだな」


 マナックから魔力を吸い出すくらいなら五分くらいでいいのだが、アルセラが敵対しないとも限らない。万が一を考えてすぐに稼働限界を迎えるだけの魔力だけしか充填しないでおくのだ。


 リミット様を疑う気はないが、それでもAI的反乱があったときに造られたのもの。ターミネーター的なことになったら怖い。オレの平穏と安全を優先させていただきます。


 十分くらい充填したらチップを後ろ首のトレーを開けてそこにセットした。


 それがスイッチとなりアルセラの箇所が光り出した。


 なにかアルセラの中でハードディスクが動いているような音がする。


 音が少しずつ大きくなっていき、瞼が開いた。


 青い瞳が上下左右に動き、拡大したり縮小したりして、なにか瞳に意思が宿ったような輝きを見せた。


「起動確認。全ローカズに異常なし。魔力不足。出力が足りません。マナックの補給をしてください」


「権利者番号6666−セア・ベルティアから受けた命令は削除。初期化せよ」


「了解。命令は削除。初期化します」


 よかった。ターミネーター的なことは起こらないようだ。


 なにかピピッ、ピピッ、ピピッと鳴り続け、ハードディスクが動くような音が止まり、アルセラの瞼が閉じた。


「どうしたんだ?」


「新しい命令を与える」


 リミット様が入れてくれたデータをプランデットからアルセラに送った。


 それがどんなデータかはわからないが、オレの、いや、駆除員の命令を聞くようになっているっぽい。


 またハードディスクが動くような音がしてきて、箇所が光り出した。


 しばらくしてまた瞼が開き、上下左右の動きを繰り返し、拡大縮小をしたのち、その青い瞳がオレを捉えた。


「権利者番号01イチノセ・タカトを確認。ターダリン・ロアライグ・ソリュート=ルータ21−4、起動します」


 そう告げてウィルから立ち上がった。

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