第302話 金策

「──タカト。アシッカにいくメンバーが決まったわ。シエイラ、ラダリオン、ダイン、ゴルグ、新たに雇った職員五人。冒険者ギルドからも十人くらい送るって。あと、いくつかの商会がアシッカに店を出したいとかで同行するそうよ」


 ダストシュートを使って二十五キロ三千円の小麦粉を外に出していたらミサロが戻ってきた。


「ご苦労さん。商会が同行って、なにか儲け話があったか?」


 今のところ損しかないと思うのだが。


「海までの道を造る話がダインに伝わり、商会に流れたんじゃないかって、サイルスが言ってたわ」


「商人は耳聡いな」


 だがまあ、商人が動いてくれるなら経済も動き出すはず。どんどん送り込んでください、だ。


 ──パンパカパーン!


 ん? ダメ女神のアナウンス、ホームに届くんだ。なら、報酬も加算される仕様にしろや。


 ──二万三千匹突破だよー! 順調でなにより。うんうん。金欠にお困りならアシッカより南東方向約二十キロ。そこにロースランの巣があるよ。数は十八匹。いい具合に育ってまーす。ゴブリンもいるからついでによろしく!


「……女神、確実にタカトを監視してるわね」


「うん。知ってた」


 そんなこと、最初からわかっているさ。


「ロースランか。命の属性なら教会に高く売れそうだな」


 と言うか、アシッカに教会なかったな。それとも見落としているだけか? あとでカナルに訊いておこう。


「狩るの?」


「ああ、狩る。資金不足だからな」


 十八匹もいたら金貨数十枚にはなるはず。なら、すべてを狩るしかないじゃない。


「そういや、ロースランって食えたんだっけな」


 オレは抵抗があって未だに食ってないけど。


「ええ。魔王軍でも人気の魔物だったわよ。うん。あれはカツ丼にいいかもしれないわね」


 ロースラン、豚味なのか? ならトンテキで食いたいな。あぁ、正屋のトンテキ定食、また食いて~。


「狩ったらホームに寄越して。館の食堂にも出すから」


「了解。そんときはトンテキを作ってくれ」


「トンテキ? まあ、調べておくわ」


「よろしく。夜にまたミーティングしよう。ミリエルとラダリオンにも伝えておいてくれ」


 百万円分を買ったら外に出た。


「今のところこれが限界です。あとはモーリスさんに任せますので、買い叩かれない値段で売ってください」


 がんばってくれた使用人たちには酒と菓子を心づけ。メリットがないとがんばれないだろうからな。


「タカト様、ありがとうございます!」


「ありがとうございます!」


「外には内緒ですよ」


 しーとゼスチャーすると使用人たちが笑みを浮かべた。


 もう勝手知ったる他人の家。どこになんの部屋があるか熟知してるし、使用人にも咎められることもなく伯爵の執務室へ。ノックするとすぐに扉が開いた。


 執務室には寄り子たちが四人。当然の如くエビル男爵もいた。


「お取り込み中、申し訳ありません。伯爵様。しばらくアシッカを出ます。なにかありましたら支部に人を使わせてください」


「なにか急用か?」


「はい。ここより南東、約半日のところにロースランの群れがいたとの情報が入りました。資金稼ぎにいってきます」


「なんとう、とはどちらだ?」


 この時代、まだ方位は確立されてなくて、太陽の昇るほうとか、○○山のほう、○○領のほうで識別しているんだってさ。それでやっていけてるのが凄いよな。


「えーと、あちらですね」


 方位磁石を出して南東を指差した。


「エビル男爵領があるほうだな」


「我が領にロースランの群れがいるのか!?」


 驚愕するエビル男爵。そう言えば、ロースランって銀印の冒険者でも手こずる魔物だったっけ。群れがいるとなれば焦りもするわな。


「そのようです。正解な場所まではわかりませんが」


 ビシャかメビのどちらかを連れていくか。メガネだけでは心ともないからな。


「倒せるのか? ロースランの群れだぞ?」


「前に番と子を数匹倒したことがあります。問題ないかと」


 一年前のオレなら聞かなかったことにしているが、今のオレには充実した装備があり、チートタイムがある。仲間も連れていくんだから恐れる必要はない。いや、ウソです。本当は怖いです。虚勢張ってます。人間、そう簡単に強靭な精神は身につかねーんだよ! クソが!


「さっさと倒してゴブリン駆除に移りたいので失礼します」


 一礼して執務室を出た。


 そのまま館を出ると、アリサたちがいた。待ってたのかい。律儀なヤツらだよ。


「少し早いが、マイセンズの砦に帰る」


 パイオニア二号まで戻ると、マグナイが戻っており、ポリタンク二個に水を入れていた。


「ありがとな。お礼だ」


 缶のミルクティーを取り寄せてマグナイに渡した。休憩の度にミルクティーを飲んでいた記憶があるのでな。


「ありがとうございます!」


 なんかすっごいお礼を返された。な、なによ?


「お、おう。じゃあ、帰るぞ」


 太陽が出てきて凍った道も解けてきた。泥が跳ねるが、水の膜を張って視界を確保する。


 オレの水魔法も成長したものだ。二時間近く発動させてても軽い倦怠感があるくらい。剣の稽古はできてないが、魔法は空いている時間にできる。日々精進でブラッドスティール(水分を奪い取るからウォータースティールがいいかな?)を完成してやる。


「アリサ。人を向かわせてミリエルとメビ、ビシャを呼んできてくれ。あと、遠征しても構わないと言う請負員を十人くらい選んでくれ。ロースランを倒しにいく」


「わかりました!」


 頼むと残してホームに入った。

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