第13話 チートの沙汰も金次第

「……生きてる……」


 死ぬ覚悟してウォッカを飲んだのに、二日酔いになるどころか気持ちよく目が覚めてしまった。


「オレ、こんなに酒に強かったっけ?」


 飲み会のときは結構飲んではいたが、次の日は二日酔いを起こしていた。ウォッカを一瓶飲んで快適起床とかあり得んだろう。


「……もしかして、ダメ女神の力か……?」


 よくよく思えば筋肉痛になったの最初くらいで、今は山を登っても筋肉痛になることはない。二、三キロ歩いた気分だ。


 それに恐怖心もなにか柔らいでいるような気がする。もちろん、レッドなドラゴンを思い出したら震えはするが、大洪水を起こすほどではない。これは、サポートが入っているのかもしれないな。


 ……もしかして、人から見たちょびっとと神から見たちょびっとは違うってことか……?


 それが本当のことかはわからない。が、今は助かったと思っておこう。死ぬそのときまで引きこもりは嫌だし、誰かに会いたい。それに、このまま独り身ってのも寂しい。せめて一夜の恋くらいはしたいぜ。


「起きるか」


 ってか、裸のまま眠っちゃったよ。


「裸で起きるの、なんか凄く侘しいな」


 そのまま風呂に向かい、熱いシャワーで体を起こした。


 新しい下着に着替え、タブレットでコ○ダのモーニングセットとカフェオレを買った。う~ん。優雅~。


 やる気のギアを少しずつ上げていき、サードまで上げたら玄関に放置した大洪水の後始末を始めた。


「なかった。大洪水なんてなかった」


 三十六万円を使って玄関をリフォーム。三倍くらい拡張し、物を置ける棚とオレだけは落ちないダストシュートを設置。落ちた物は外に廃棄するよう設定。そして最後に中からしか見られない窓を取りつけた。


 窓と言っても空中に浮かび、三百六十度動けるようにしているので、遮蔽物がないところなら有効なはずだ。


 ダストシュートを発動させ、大洪水を外に捨てた。十五日後にはこの世から消えてくれるだろう。アーメン。


「新たな装備を新調しようっと」


 これまでの苦労は? とか考えない。装備は嫌な思い出とともにボッシュート。これからオレは生まれ変わるのだ。


 軍隊が着ていそうなシャツとカーゴパンツ、ジャケットを新たに買い、グロック17、マガジン五つ、ホルスター、ベルト、ポーチ3つ、マチェット、折り畳みナイフ、防刃アームカバー、手袋、軍用ブーツ、熊避けスプレーを買った。


 全部で十三万かかったが、手榴弾や弾、細々としたものは買ってある。また巣を探せば充分挽回できるさ。


 午前中いっぱいかけて準備を整える。


「残りは八万円ちょっとか。まっ、振り出しに戻るよりはマシだな」


 強いて言うなら冷蔵庫とビールの買い置きをしておきたかった。酒は冷たいのを買えたからな。買い置きとか考えもつかなかったよ。


 玄関に向かい、窓の前に立つ。


 今はオレを中心に半径四十センチのものしか出せないし、持ってもこれない。だが、セフティーホームは自由度が高い。金さえ出せば玄関はどこまでも広げられるのだ。


「チートの沙汰も金次第、か」


 唯一もらえたチートはセフティーホーム。これを活かして安全に、効率よく、賢くゴブリン駆除をやっていくしかない。


 窓を動かして周囲に危険がないかを確かめる。


「下にも移動させられるようにするんだった」


 目線の高さに設定したから下が見えん。死角に危険なものがいたら命を失いかねんな。


 まあ、改善は後々やっていけだ。とりあえず、周囲に危険な存在はいない。新たな相棒、グロック17をホルスターから抜いた。これは二つある引き金を一緒に引かないとダメなタイプだ。


「大丈夫。使い方は本やDVDで覚えた。今のオレならちゃんと使える」


 タブレットはネットには繋げられないが、本やポータブルDVDは買える。それらを時間があるときに見回していたのだよ。


 相棒をホルスターに戻して外に出る。


「ちょっと寒いな」


 でも、使い捨てカイロを貼るほどではない。動けば気にならなくなるだろう。


「さて。ゴブリンはいるかな?」


 さすがに近くにはいないが、気配を感じる距離内にはいる。


「あっちが多いかな?」


 これまでの感じから探知できるのは二、三キロ。はっきりとわかるのは五百メートル、ってところだな。


 もっと鍛えて姿がわかるくらいにならないとダメだ。木々に隠れて奇襲とかされたくないしな。


 とは言え、ゴブリンばかりに目がいって、他の危険を見落としたらジ・エンド。周囲を警戒できるようにしないとダメだ。


 ニューマチェットを抜き、警戒しながら山を下りた。


 気配をもう一度確認。多いほうへと進んだ。


 しばらく進むと、移動している気配を感じた。数は二。距離はうっすらとだから二キロ以上は離れているな。


 マチェットを近くの木に打ちつけ、相棒をいつでも抜けるか確かめる。


「二匹ならマチェットでもいけるな」


 ゴブリンへの恐怖心はないし、痩せこけて動きが鈍い状態なら今のオレでも相手できる。マチェットでの戦い方も覚えておかないとダメだろうからな。


 気配に向かって進み、三十メートルまで近づいたところで先にゴブリンに気づかれた。


 飢えた状態では嗅覚が増すのか?


 こちらが一人だとわかったようで、ギーギー鳴きながら突っ込んでくる。


 ここでは大振りできないと、戦いやすい場所へと移動し、マチェットを構える。


 大丈夫。オレは落ち着いている。 


「さあ、きやがれ!」


 飛びかかってきたゴブリンを上段から力任せに斬り下ろした。


 クソったれが! お前ら全員オレが駆除してやるよ!

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