第446話 堕落

 職員に稼がせるゴブリン駆除は終了した。


 所々ゴブリンの死体は残るが、それは時間が解決してくれるだろう。って、そういや、この世界でカラスみたいな鳥いないな。いや、鳥自体あまり見たことないな。鳴き声はするからいるとは思うんだが……。


「じゃあ、戻りますか」


 マルセさんが砦はそのままでいいと言うので、荷物だけ片付けて放置することにした。


 何事もなくミントンカの村に到着。報告のために男爵と面会した。


 細かいことは省き、三千ものゴブリンがいたこと、王を倒したこと、ゴブリンの死体を片付けし切れなかったことを伝えた。


「マルセさんたちには本当に助けられました。ありがとうございます」


 残りの謝礼を渡した。


「そうか。今日は村に泊まっていくといい。豚を一頭焼くとしよう」 


 こうなることはマルセさんから聞いていたのでありがたく了承する。


「ありがとうございます。こちらは酒を出しますよ」


 準備ができるまでにラダリオンにワインを出してもらい巨大化する。だって村には五百人くらいいるって言うんだもの。だったら酒が飲めるヤツは少なくとも半分はいるってことだ。出してたら破産するわ。


 段ボールに入った徳用ワインを四箱運んでもらい、三倍以上に巨大化したワインを出して空の樽を借りて移した。


「樽って意外と容量あるんだな」


 一つ五リットルとして九十リットルは入ったはず。それでもまだ満杯にはなってなかった。ドラム缶よりは小さいし、百五十リットルってところか?


 マルセさんによれば祭りでは樽二つは消費すると言っていた。これじゃ足りんな。さらっとした梅酒でも出しておくか。


 梅酒も段ボールで買ってある。それを出しておこう。


 なんだかんだで凄い量となってしまったが、五万円にもなってない。交際費と思えば安いものだ。


「ラダリオンも食っていくか? 豚の丸焼きだってよ」


 豚の丸焼きなんてテレビでしか見たことがない。人生で一回は見ておくのもいい経験だろうよ。


「シエイラ。梅酒を容器に移してくれ」


 百均のピッチャーに移してもらう。ワイン樽に梅酒は入れられないからな。


 酒の用意ができたら豚を丸焼きしている近くに出したテーブルに運んだ。


「タカト殿。これはなんの酒だ?」


 六人の中で一番バーバリアンで一番飲兵衛なラダジさんが近づいてきた。


「梅って木の実を酒に漬け込んだ酒です。女性には人気ですね」


「梅の酒か。甘い匂いがするな」


「砂糖が混ざってますからね。酸味と甘さがいい感じに混ざってますよ。梅酒で調べてみてください。いろんな種類がありますから」


「そうか。嫁に飲ませてやるか」


 あ、嫁いるんだ。バーバリアンな世界では優良物件なんだろうな~。


「マスター」


 シエイラに呼ばれて振り返ったらバーバリアンな男たちに囲まれていた。な、なによ!?


「もう飲んでいいか?」


 まだ豚は焼いているでしょう、とは言えない空気。なので、どうぞと勧めた。


 あの六人が大酒飲みってわけじゃなく、ミントンカの者は全員が大酒飲みのようだ。そりゃ、樽の二つも飲み干されるわけだよ。


「すまぬな。酒など年に何回しか飲めぬのでな」


 浴びるように飲むバーバリアンな男たちに呆れていると、男爵がいつの間にかやってきていた。

 

 この人も見た目はバーバリアンだが、中身はかなり紳士だよ。男爵ってのは伊達じゃないな。


「今回は苦もなく三千匹を駆除できて、マルセさんたちにはお世話になりました。貸していただいたお礼です。それに、男爵にはマレアット様を支えて欲しいですからね。領民を上手く纏める糧となれば幸いです」


「ここでは男爵と言うだけでは治められない。力を示し、気前がよいところも見せなくてはならない。ミントンカで実力者をタカト殿につかせたのもマレアット様に仕える利を教える必要があったのだ」


「人の上に立つと言うのは苦労しかありませんよ」


 オレもマスターとなってゴブリン駆除以外の労力を求められている。男爵の苦労はよくわかるよ。


「マルセさんたちはゴブリン駆除請負員としての利に気づきました。請負員になりたいと言う者も出るでしょう。出るとしたら強い男になり、弱い男は残るでしょう。そのときが変わる好機です。弱い男には学を身につけさせて、アシッカに送り込んでください。ミントンカは縮小するでしょうが、ここで暮らすよりは楽になるはずです」


 年に何回かしか酒が飲めないってことは暮らしが苦しいってこと。アシッカと離れすぎているのが原因だろう。せめて十キロの距離なら流通はよくなる。ここで暮らすよりは豊かになるだろうよ。


「まあ、やるやらないは男爵の判断。人は誰でも現状を変えたくありませんからね」


 オレだって工場作業員でいたかった。給料が安くても正社員として毎月は給料が出て、年に二回はボーナスがもらえた。定年までずっといたかったよ。


「そうだな」


 と、答えるだけだったが、目は遠くを見詰めていた。


 バーバリアンを纏めるのはオレが思う以上に大変なんだろうな。まあ、そんな男爵を纏めなくちゃならない伯爵はもっと大変だろうよ。


 請負員をもうちょっと増やしておくか。強さイコール正義と思っている保守派が村から出れば男爵も動きやすいだろうからな。


「豚が焼けるまでに酒がなくなりそうですね。美味い酒を追加しますか」


 一度覚えた贅沢は忘れられない。請負員と言う堕落に落としてやりましょうかね。

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