第13話 どちらにせよ地獄

 

「はい、もしもし」

『クシシシ』

『キシシシ』

「笑い声だけで誰か分かってしまう悲しさ」


 “傲慢マリ”と“強欲イザベル”が何の用事か分からないけど電話をかけてきたな。

 前は僕らの前に現れたのに、今度は電話なのか。


『あらあら酷い言い様だわ』

『笑い声だけで分かるくらい親密になったのだと喜べばいいのに』


 あなた達相手に喜べる人はそうそういないのでは?


『フヒッ、最近新しいソシャゲ始めたんだけどあなたも始めない?』

「目の前でドヤ顔見せられて課金と無課金の差に涙する事になるからやらない」


 “嫉妬サラ”までいるのか。

 いや、今まで遭遇してきた魔女達は全員同じ場所にいるのだから、いつも寝ているであろう“怠惰ローリー”と、前に会った時も忙しそうにしていた“色欲エバノラ”だって声はしないけど傍にいるんだろう。


「……エバノラの手伝いしなくていいの?」


 エバノラの事を考えたら、使い魔のアンリと一緒に死にそうな顔でパソコンらしきものに向かっていた事を思い出して思わずそう尋ねていた。


『クシシシ、い・や・よ』

『キシシシ、めんどうだわ』

『フヒッ、少しだけなら手伝うけど、あんなに必死になって人のために動く気にはならないわね』


 エバノラ、泣いていいよ……。


 人類のために頑張ってくれているエバノラ達を不憫に思いつつ、そう言えばどうして唐突に電話をかけてきたのか尋ねることにした。


「急に電話してきてどうしたの?」

『どうしたもこうしたも、あなたがまた魔女に挑もうとしているから気になっただけよ?』

『【玄武】と戦ってる時から見てたけど、随分と面白い事したのねあの娘』

「面白い事?」


 イザベルが面白い事と言うと、今朝見た夢の件か?

 あれがなければイザベルの言う面白い事とは何なのか戦々恐々としていただろう。

 十中八九アメリカ全土で強制的に見せさせられている夢と、宙に浮いてる大きな赤い石の事を言っているのかな?


『フヒッ、ビディお姉さまはわたしと似た事をしたのよ。やり方は随分と異なるけどね』

『サラは【魔女が紡ぐ物語トライアルシアター】のリソースを変換して馬鹿みたいな結界を創り上げたのに対して、ビディは【魔女が紡ぐ物語トライアルシアター】を連鎖させて異常な範囲に効果を及ぼしてるから一緒と言うのはおこがましいわ』

『ええそうね。まさか【魔女が紡ぐ物語トライアルシアター】を無抵抗で倒されることを制約にして、次の【魔女が紡ぐ物語トライアルシアター】の試練領域を何百倍にも広げるだなんて思いつきもしなかったわ』

『酷いです……』


 サラが落ち込んでいるのはともかくとして、今までにない規模の範囲で影響を及ぼしているのはそれが原因か。

 まあ【Sくん】でも国を跨いで広い範囲で影響を及ぼしたけど、あれは【Sくん】自体が徐々に移動してその結果影響が広範囲になっただけで、アメリカ全土という範囲に即効で影響を及ぼしたのだから比べるのは違うかな。


「こんなにも広範囲に影響が出ているのと【玄武】が無抵抗だったのは分かったけど、ビディって誰?」

『『ビディは歳は私達の1つ下の“暴食”の魔女よ』』

『ちなみにわたしとは1歳違いのお姉さまで食べることが好きな人なの』


 やはりというか、“憤怒”でなければ七つの大罪の残りの“暴食”だったか。

 【玄武】の時に大量の謎の果実が出てきたのも、その人物の特性だったのだろう。


「どんな人なの?」

『基本的に無口ね』

『あとご飯を作るのが上手いわ』

『優しいお姉さまね。……この2人と比べたら天と地の差が――』

『『何か言ったかしら?』』

『な、何でもないですぅ!!』


 今から挑む試練の手助けに少しでもなるような情報が欲しかったけど、さすがに役立ちそうな情報ではなさそうだなぁ。


「今から試練に挑むことになるんだけど、何かアドバイスある?」

『クシシシ、言うと思う?』

『キシシシ、あの娘に不利になるような事を私達がするとでも?』


 うん、知ってた。


『フヒッ、アドバイスとか言われても、試練の内容も分からないのに言えるわけないじゃない』


 ごもっともで。

 マリとイザベルが言い渋ってるようにみせているけど、その実サラが言う様に言えることがないだけか。


『あらやだ。懇願して土下座させようとしたのに、ばらしちゃうだなんて酷いわね』

『ええ、ホント。これはもう罰を与えないといけないかしら?』

『ヒィイイ!?』


 サラに訪れる唐突な身の危険。

 思わず悲鳴を上げたくなる気持ちがよく分かるよ。


『サラ、私の手伝いをするかその2人のおもちゃにされたいか好きな方を選びなさい』

『お手伝いさせてくださいエバお姉さま~!』

『『あ、逃げたわね』』


 エバノラの遠くから聞こえた声がまるで天からの蜘蛛の糸かのように、サラはそれに飛びついて声と共に遠ざかっていったようだ。

 そんなサラに対して、マリとイザベルの不満そうな声が伝わってきた。


『まあいいわ。後でたっぷりとお仕置きするから』

『そうね。疲れてクタクタなところにたっぷりと、ね』


 とどまってても地獄、逃げても地獄だったか。

 むしろ逃げた方が手伝いで疲れるところに追い打ちがくるから、よりキツイな。


『それじゃあ私達はあなたの様子を観察してるから、せいぜい楽しませなさいな』

『ええ、滑稽に踊ってくれることを期待してるわ。もちろんこれが終わったらまた遊びましょ』

「今までかけられたエールの中で、こんなにも嬉しくないエールが今までにあっただろうか?」


 まあ死んだりするなという裏返しにも聞こえなくもないから、この2人なりの応援なんだろう。

 ……けしておもちゃが失われることを危惧してるわけではないと思いたいところ。

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