エピローグ1
≪桜SIDE≫
「その話は本当かね?」
「嘘だったことにしてもいいさね」
「……つまりは本当なんだな。ダンジョンは異界側が造りあげたものだというのは」
私は夏休みでありながら、面倒くさいことに2週間ほど前に接触した異界の住人から聞いた話を、なんか白髪が増えて老けたようにみえる土御門課長に報告しなければいけなかった。
疲れ切ってて老けたように見えるのは冒険者学校の件で減給処分になっただけでなく、おそらくその時にかなりこってり絞られでもしたのだろうさ。
「それにしてももっと早く報告できなかったのかね?」
「“彼”はあまりこっちからの不要な干渉を拒むからね。色々話を聞くのに手間取ったのさ」
「……この接待費はなんだね?」
「必要な経費さ(キリッ)」
「………………実際に必要だったと言えるから、文句は……言えんな」
すんごい何かを言いたげな目でこちらを見ているが気にしない。
たとえ高校生どころか社会人ですら二の足を踏むような高級レストランに行ったり、某有名なネズミの遊園地で遊んだりするのにかかったお金であっても、立派な接待である。
「報告が遅れたのは話を聞くのに時間がかかったのもあるけど、それよりも冒険者学校の件の後処理で忙しいようだったから、報告できなかったのさ」
「確かにな。私も数日前までほとんど不在だった。
君以外であればすぐに報告するように私のいる場所に来るよう命じられるが、学生にそんな無理をさせるわけにはいかなかったしな。
重要な案件ではあるが、緊急ではない以上仕方ないか」
わざわざ遠くまで足を運んで報告するのはゴメンだし、かと言ってこの情報をメールで送って済ませるわけにもいかなかったから、課長の言うとおり仕方なかったさね。
「まあいい。それよりもダンジョンについてだが、異界側が造ったのだったな」
「そうさね。きっかけはこっちの世界側みたいだけど」
「だが実際に行ったのは向こう側だったと。“色欲”の魔女の言う通り、魔女達が自分達で何かをしたわけではなかったか。だが一体何のために?」
私が生まれるよりも前に、レジャー迷宮のどこかにいるといわれる“色欲”の魔女がダンジョン関連のことを教えてくれたらしいけど、もっと魔術師に協力してくれたら私がこんなにあくせく働く必要はなかったんじゃないさね?
まあそれはそれとして――
「その辺の話も聞いてるけど聞くさ?」
「そこで聞かない選択肢があるわけないだろ」
「しょうがないさねー。とは言っても彼も詳しく知っているわけではないみたいさ。これ報告書」
「……それを先に渡したまえよ」
口頭で言うよりも書面にする方が伝わりやすいし、一々聞き返されなくていいから楽さね。
課長がその数枚の書類を読み始めると、徐々に険しい表情になっていった。
「ここに書かれている事は本当なのか……?」
「彼が嘘を言っていない限りは本当です」
「君が敬語を使うのなら、本当に本当なのか……」
「その判断基準は止めるさ」
人をなんだと思っているのか。
自覚あるから言わなくていいけど。
「異界側は魔素に満たされていたが、こちら側と繋がったことによって魔素がドンドンこちらに流れてきてしまい魔素が薄くなった。
その結果として子供が生まれにくくなるなどの影響が出たため、世界と世界の間にダンジョンを造ることでそこに魔素を集中させる、ダンジョン創造計画が実施された、か」
「あくまで伝え聞いたことであり、本当かどうかは分からないとは言ってたさ。私達が異界の住人とひとまとめにして呼んでるけど、彼はダンジョン、正確にはダンジョンのなりそこないで生まれたみたいで私と同い年だし」
「それでも十分だ。今まで何故ダンジョンが生まれたのか全く分からなかったのだからな。
ダンジョンのなりそこないについても気になることではあるが、それよりも問題はこれだ」
「地上のあちこちにすでに異界の住人の種族が存在していることさ?」
「それは問題ない。ユニークスキルの[獣人化]ではなく獣人そのものが闊歩していたとか、驚愕の事実を知ってしまったが、それはいい」
まあ今更な話さね。
冬っちみたいなのが街を歩いていても、ちょっと目を引く程度なわけだし。
「それよりも異界の者たちで穏健派と過激派が存在していることだ」
「現状維持派と破滅派さね」
「ダンジョンの魔物をこちらの世界に流出させて魔素を満たす、なんて大掛かりで許しがたい計画、なんとしてでも止めねばならんな」
「そっちは不確定な情報らしいさ。過激派が実際にそれを行うかは不明であり、そんな話を小耳にはさんだだけらしいね」
「だが十分あり得る話である以上、対策を立てねばなるまいよ」
課長が思案顔になって何かを考えていた時、ふと何かを思い出したかのようにこちらを見てきた。
「ああ、そう言えば君の友人だが大変な事になったな」
課長の言う通りだ。
冬っち達、遊びに行ったはずなのに何故“色欲”の魔女と接触しているのかと、声を大にして叫びたいくらいさ。
しかも【典正装備】だけでなく、私達の技術では創れない安全地帯の設置ができる能力まで手に入れてくるとか、誰かしら運命の女神にでも愛されてるんじゃないかな?
そんなものを手に入れてしまったがために――
「まだ決定ではないが、Sランクダンジョンの【
とんでもない事になったものさね。
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