第39話 僕らだけの特権……かも?

 

 僕らに報酬をあげ終わったからか、エバノラがすぐに帰還のための魔法陣を出現させた。

 なのでその魔法陣で早速僕らは元の場所に戻ろうとした時、ふと気になり確認しなければいけないことを思いついた。


「そう言えばさっきエバノラから聞いた話は、他の人に伝えても問題ないですか?」


 信じてもらえるかは分からないけど、【典正装備】や手に入れたスキルに関しては報告しないと後々問題になるだろうし、どういう経緯で手に入れたかも冒険者組合に伝えないといけないからね。


『別に構わないけど、国の政治家連中ならさっき言った事の大半はすでに知ってるわよ。随分前にだけど私達魔女の事情やダンジョンの操作技術も伝えたりしたもの』

「あ、それじゃあ僕らが手に入れた[ダンジョン操作権限(1/4)]のスキルも、そんな珍しいものじゃないんですね」


 僕ら以外にもこの力を手に入れている人がいるんだね。


『そんな事ないわ。ダンジョン内に安全地帯を創り出せるのはあなた達だけのはずよ』

「「「「えっ?」」」」


 ダンジョンの操作技術を伝えたって言いましたよね?


『“色欲”に適性のある人間、つまり試練に耐えられる人間にしかその力は与えられないから、私が他の人に伝えたダンジョンの操作技術では安全地帯は作れないし、他にもできることは結構限られてるはずよ』

「そうなんですね」


 でも言われてみればそうかもしれない。

 ダンジョンの操作技術がダンジョンを完全に制御できていたら、死人が出る様な事はあまり起きないだろうし、ダンジョンの外に魔物があふれ出る迷宮氾濫デスパレードも起きないか。


『どのくらい前か忘れちゃったけど、伝えたのは結構昔だから、ダンジョンの操作技術が上がって安全地帯を作れるようになってるかもしれないけどね』


 僕らだけの特権じゃないかもしれない事に残念がるべきか、この特権のせいで面倒くさい事にならなくてホッとするべきか。

 まあそれは冒険者組合に伝えないことには分からないか。


「それじゃあ僕らは帰りますね」

『ええ。またいつでも来ていいわよ~』

「来たくて来たわけじゃないんですけど!?」


 強制的にここに引っ張り込んだのそっちじゃん!


『条件に当てはまる人間はここに転移するよう設定してたからね。あなた達なら施設のどこでもいいから私を呼んでくれれば、ここにまた転移させてあげるわ』

「それは御免こうむる」

『クスンッ。そんな酷い事言うのなら、今日の映像は後で施設中に流しておいてあげるわ』

「脅すの止めてくれません?!」


 さっきまでの痴態が他の人達にまで見られるとか、羞恥で死ねそうだ……。


「またレジャー迷宮に来る機会があれば、顔を見せるくらいはするんで勘弁してください」

『少なくとも年に1回は遊びに来なさいね。暇だから』

「人を暇つぶしの道具にしないでくれませんか? 次来た時、試練とかもう受ける気はありませんからね」


 命の危険がないからといって、軽々しく受けるんじゃなかったと思うレベルだったからね。

 下手したらボスタイプの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】の方がマシなくらいだったよ。


『そっちは受けたかったら受ければいいっていうスタンスだから、好きにすればいいわ』


 まあ確かに最初に試練について聞かされた時も、参加拒否オッケーって言ってたから、自分から参加しにいった僕らの自業自得なんだけど、なんか納得いかないなぁ。


『それじゃあね~。もしも他の魔女の子達に会ったらよろしく伝えておいてね』

「こっちを殺す気満々で【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】になってる人への伝言を、気軽に頼まないでもらえませんか!?」

『全員がSランクダンジョンの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】になってるからお願いね』

「人の話を聞いて! あと、今サラッととんでもない場所で【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】になってるとか言ったけど、そんな場所に行くことなんてまずないから!!」


 エバノラに伝言を頼まれたけど、そのお願いを聞いてあげることは無理だね。

 いくら今回【典正装備】を手に入れたからって、僕らがSランクダンジョンに行くのはレベルが足りなすぎるよ。


『ふふっ、冗談よ冗談。でも、万が一機会があった場合はよろしくね』

「そんな機会はまずないと思いますが分かりました。それじゃあ帰りますね」

『バイバーイ』


 エバノラが軽い感じで魔法陣へと入る僕らに手を振って見送ってくれた。


 ◆


≪エバノラSIDE≫


『行っちゃったわね~』


 面白い子達だったなぁー。

 試練は少しでもダンジョン攻略の手助けになれるよう【典正装備】を与えるためのもので、“色欲”に適性のある人間を探すのは正直オマケだったけど、まさか見つかるとは思わなかったわ。


『主、どちらかと言えばオマケがメインになってる試練でしたよ』

『あ、そんな事言われるのは心外だわ。私が真面目に考えて試練を作ったのに!』

『攻略されるのに50年かかった時点で、試練に問題があると認めてほしいものです』


 そりゃ性欲が増して大変かもしれないけど、クリアできない内容ではなかったはずなのに、どうして今の今までクリアされなかったのか不思議でたまらないわ。


『試練を受ける条件がハーレム関係にある人間なんだから、性欲が増したら近くのパートナーに手を出すに決まってるじゃないですか』

『近くにパートナーがいる状態で性欲を制御できない人間が、“色欲”の適性なんてあるわけないじゃない!』


 性欲に簡単に流されるようでは、あのスキルを付与する事すらできないわよ。


『あの4人には適性があったと? 正直、少年しか適性がなかったように見受けられましたが』

『その通りよ。だからあの男の子を起点に能力を付与したんですもの』


 4分割したといっても、女の子3人に付与したのはメモリやHDDで男の子の方にはOSを入れたようなものだし。


 試練中、性欲が増加しているにもかかわらず、女の子達にくっ付かれても理性を保ち続けたのだから適性があると言え――そういえば……。


『あ、主? 何故我の尻尾を掴むのですか……?』

『試練中、言いたい放題言ってくれたじゃない……』

『ひっ、わ、忘れてはくれなかったのですか?!』

『当たり前よ! ボコボコにするって言ったんだから、キチンと有言実行してあげるわ!』


 あの力で少しでもあの子達の手助けになるといいわ。

 できれば魔女達を“物語”から解放してくれると嬉しいのだけど、それは高望みしすぎかしらね?


 さて、アンリをボコボコにしながら次の試練の内容でも考えますか。

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