第38話 ベッドイン

 

『さっきも言ったけど、あなたの場合は派生スキルを丸々1つ交換する必要は無いわ。

 だけどその分ちょっと繊細な作業が必要だから、ここで寝そべって身動きせずに天井のシミでも数えてなさい』

「セリフが不穏でしかないな!」


 え、もしかしてこのまま脱童貞ですか? と、思いかねないセリフ回しは止めてください。


『望むなら卒業させてあげてもいいわよ』

「「「ダメ(です)(よ)!!」」」


 僕が拒否る前に、乃亜達3人がエバノラを強く止めていた。

 僕だって知り合って1日も経ってない人と肉体関係を結ぶ気はさらさら無いよ。


『うふふっ、冗談よ。それよりもあなたの派生スキルを整理するために、いるものといらないものを分けていきましょうか』


 スキルを弄れるって凄いことできるんだな、って、ちょっと待った!!


「それじゃあ僕のスキル、[ソシャゲ・無課金]を消すことはできないんですか?!」


 もしもそれができるのであれば、僕はこの呪い無課金から解放される!


『それは無理ね。あくまで弄れるのは一部だけであって、全体丸ごと除くのは不可能よ』

「マジか……」


 一瞬希望が見えただけにショックが大きい……。


「ところで気になったんですが、さっき人工物って言ってましたけど、誰かが僕にこのスキルを植え付けたってことですか?」

『さあ? あくまでそう感じたってだけで、自然と身についた可能性だって十分あるわよ。

スキルなんて千差万別、色々な形? があるもの』

「あ、そうなんですね……」

『そうよ、っと』


 もしも誰かが意図的にこのスキルを身に着けさせたなら、その人物を殴ってやりたいと僕が思ってる間に、エバノラは寝そべる僕のお腹の上に乗ってきた。


「先輩の上にそうやって乗らないといけないんですか?」


 乃亜が、いや冬乃と咲夜も顔をしかめてエバノラを険しい目で見ていた。


『私の特性上仕方ないわ。正直〇ックスしながらが一番いいのだけど、嫌でしょ?』

「「「「当たり前(だ)(です)(よ)!!」」」」

『シクシク。男の子にそんな風に拒否された経験がないから、普通に傷ついたわ……』


 確かに僕くらいの年ならエバノラに誘われたら、即頷いて身を任せるのが大半かもしれないな。

 少なくとも大樹なら即行で餌食になっていたね。


『ま、とにかく魂に直接干渉することになるから、それを少しでも効率よく行う為には肌が触れている面積が多い方がいいのだから、これは仕方のない事なのよ。

 とりあえず、まずはスキルを見せて頂戴』


 そう言われたので、僕はとりあえず自身のステータスを表示させた。


 ───────────────

 ・[ソシャゲ・無課金]

 →派生スキルⅠ:[ガチャ]

 →派生スキルⅡ:[チーム編成]

 →派生スキルⅢ:[放置農業]

 →派生スキルⅣ:[カジノ]

 →派生スキルⅤ:[ログインボーナス]

 →派生スキルⅥ:[フレンドリスト]

 →派生スキルⅦ:[マンスリーミッション]

 ───────────────


 スキルを見る限り、悲しいくらいほとんどのスキルがダンジョン内で活躍しないのがパッと見で分かるので、逆に笑えてくる。

 もう[ガチャ]と[チーム編成]しかダンジョンで使ってないなぁ。

 あ、でも[放置農業]はクロとシロを呼び出すのに一応使うか?


『……よくこんなので今までダンジョンに潜れていたわね』

「止めて。ダンジョン管理者に哀れまれると、余計に切なくなるから」


 僕を見る目が、まるでFランクダンジョンのゴブリンやコボルトと戦う前の冒険者達の目と同じなんだけど!?


『ま、いいわ。じゃあ早速だけどこの[ガチャ]は――』

「そのままで」

『あ、はい……』


 [ガチャ]に消すところなんて微塵もありはしない!


『[チーム編成]は割と十全に使ってるみたいだからそのままで良さそうだけど、[放置農業]は使用頻度の割に使われていない余計な機能が多くついてるわね』

「僕がどれくらい使っているかも分かるんですか?」

『今私とあなたは疑似的に繋がってる状態だから、ある程度は分かるわ。

 この[放置農業]、アイテムの質を向上させる機能くらいしかまともに使ってないみたいだけど、他にも生き物を育てたり、土地を広げて同時に向上させることのできるアイテム数を増やしたりといった機能がほとんど使われてないわね』

「え、そんな機能があったんですか?」


 [放置菜園]が[放置農業]に名前が変わった時、〔成長の苗〕までしか育てられなかったものが〔成長の果実〕を育てられるようになったくらいだと思ったけど、そんな機能もあったのか。


『この手のタイプは条件を満たさないと開示されない機能だから、分からなかったのも仕方ないわね』


 クロとシロがそれに取り込まれたんだけど、クロとシロでは生き物判定には残念ながらならなかったから、生き物を育てる機能は出てこなかったのか。


『今のままでも不便じゃないなら、不要なのは私の方で消しておくけどどうする?』


 生き物を育てる気はないし、アイテム数を一気に増やさなくても困ってないから消してもいいかな。


「それじゃあお願いします」

『分かったわ。次のスキルなのだけど――』


 そうして[カジノ]から麻雀が消え、[フレンドリスト]の登録人数を10人から5人に変更、さらに[マンスリーミッション]が月に5つのミッションが3つだけになることで、僕に[ダンジョン操作権限(1/4)]が付与されることになった。


『ふぅ。これでスキルの付与は完了したわ』


 そう言ってエバノラは僕のお腹からどいてくれたので、僕は起き上がってベッドから降りた。


『以上で報酬は終わりだけど、何か聞きたいことはあるかしら?』

「えっと、それじゃあ2つ聞きたいんですが、他の魔女って近くにいるんですか?」


 周囲を見回してもエバノラとその使い魔だけで、他の生き物の気配はしないのだけど、遠くから僕らを監視したりしているんだろうか?


『いないわね。というか私達がダンジョンになってからは会ってないわ。私が管理するダンジョンとは別のダンジョンで、自らを【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】にしてるみたいよ』


 人間を殺す気満々じゃないか。

 できればそんな人達には近づきたくないところだ。


 あと1つ聞きたいことだけど、エバノラから過去の話をされた時、どうしても気になる事があった。


「なんでエバノラは人間の味方をしてくれるんですか? 魔女狩りで人間に酷い目にあわされたんだから、憎んでもおかしくないのに」


 わざわざ怒りの感情を抑えてまで耐える理由が分からなかった。

 他の魔女達のように【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】化して人間殺すウーマンになってもおかしくないのに。


『ふふっ、そんなの単純な事よ。だって私は人間が好きなんですもの。魔女狩りを行った時のような醜い心を持つのが人間の全てだなんて思ってないわ。

 悪いところがあれば良いところもある。そんな人間が好きだから私は人間の味方をする。それだけの話よ』


 酷い目にあっただろうに、そんな風に言い切ってしまうエバノラがなんだか眩しく見えた。

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