第37話 ダンジョン操作権限

 

 エバノラがあまりにもとんでもない事を言ったせいで、僕らは誰一人として声も出せず、ただただ呆然としてしまっていた。


 ダンジョン操作って、そんなとんでもないスキルがあるの?


『ふむふむ、こっちの2人はちょうどスキルスロットの空きが1つあって問題ないわね』


 呆然とする僕らをエバノラは気にすることなく、1人1人僕らの手を握り、目を瞑って何かを確かめだしていた。

 スキルスロットがどうたら言ってたから、触れただけで相手の持ってるスキルでも分かるのか?


『あ~、あなた達はスキルスロットが空いてないのかー』


 乃亜と僕の前でエバノラがそう呟いた事で、ようやく僕はハッと意識が目の前のエバノラに向いた。


「ダンジョン操作権限のスキルって何ですか?」

『あなたが口にした通りの効果よ。ダンジョンを自由自在に操れるわ』

「嘘でしょ……」


 そんなとんでもスキル、チートやんって叫ばれてもおかしくないレベルだよ。


『って、言いたいところなんだけど、あいにく私が管理するダンジョン以外の場所では制限がかかるわ』

「あ、そうなんですね」


 さすがにそこまで万能なスキルではないか。


『それに魔物を倒してリソースを稼がないといけないから、何でもかんでもできるスキルではないわね』

「リソース、ですか?」

『単純に言えば魔素のなりそこない、いえ魔素になる直前のエネルギー、みたいなものかしら?』

「結構曖昧なんですね」

『別に私は学者じゃないもの。魔素でも魔力でもないもの、ぐらいの認識でいいのよ。ダンジョンでしか使えないエネルギーだからリソースって言ってるくらいだしね。

 さっきのたとえで言えばサトウキビみたいなものよ』

「原材料ですか」


 なんとなく言わんとしている事は分かった。


「それじゃあそのリソースを使って、エバノラが管理するダンジョン以外ではどんな事ができるんですか?」

『単純に安全地帯を創ることができるくらいね。一定の範囲内に魔物が侵入してこれなくなるわ』

「「「「マジで!!?」」」」


 僕ら4人が思わず声を張り上げてしまうほど凄いスキルだった。

 そのスキルがあれば誰も見張りをしないで、全員が魔物の襲来を気にすることなく心身ともに休息をとれるのだから。


『私の特性が“色欲”だから、休息場所――ご休憩のための場所を創ることが出来るんでしょうね』

「その一言で全てが台無しだ!」


 わざわざご休憩なんて言い方しなくてもいいのに、せっかくの凄いスキルが一気にしょうもないスキルのように感じられてしまうよ。

 いや、十分便利なスキルだから貰えるのであれば貰っておくべきなんだろうけど――


「僕と乃亜はスキルが手に入らないって事ですか」

『そんな事ないわよ』

「「え?」」


 でもスキルスロットの空きが無いなら新しいスキルは身につかないのでは?


『そっちの子は派生スキルのどれか1つ、いらないものを指定してくれたら、それと差し替えてあげられるわね』


 エバノラはそう言って乃亜の方を指すけど、それじゃあ僕は?


「あの、先輩はどうなるんですか?」


 乃亜も僕のことが気になったのかすぐに尋ねると、エバノラは手を顔の横に当て、珍しいものを見たわ~とでも言いたげな表情で僕を見てきた。


『男の子の方はちょっと特殊なのよね~』

「はい? 特殊って何ですか?」

『たとえるならそっちの女の子が天然物だとしたら、あなたの方は言わば人工物的な感じなのよ』


 言ってる意味が分からない。

 スキルにそんな違いがあるの?


「えっと、人工物だとどうなるんですか?」

『スキルの機能としては基本的に普通のスキルとそんな変わらないんだけど、強いて言えば手を加えやすい状態なのよ』


 手が加えやすいってどういう事なんだろうか?


『女の子の方は下手にスキルを弄ったら、弄った派生スキルそのものが使えなくなるから、派生スキル1つを丸々別の物に交換する必要があるの。

 スマホのアプリゲーでガチャ機能だけ残して、それ以外の機能だけをアンストできないのと一緒よ』


 エバノラ、スマホまで使ってるのか、って、今はそんな事はどうでもいいか。


『それに対してあなたのはスキルがパズルのようになっていて、調整しやすい状態なの。

 だから派生スキルの中でいらない機能だけ抜き取って、スキルスロットの空き1つ分確保しちゃえばオッケーってこと。分かった?』

「なるほど分からん」


 派生スキルの中でいらない機能だけ抜き取るって、どうするんだよ?


『ま、実際にやってみるのが手っ取り早いでしょうね。とりあえず女の子の方から』


 ちょいちょいとエバノラが冬乃と咲夜を手招きしたので、2人はエバノラに近づいていく。

 エバノラは2人が手が届く範囲まで来たら、そのまま手をギュッと握ってきた。


「「わぁ」」


 エバノラに握られた手は淡い光を放ったと思ったら、すぐに光が収まってしまう。


『はい、終わり。確認してみなさい』


 エバノラにそう言われ冬乃と咲夜がステータスを確認したところ、空きのあった箇所が、あるスキルで埋まっていた。


 ・[ダンジョン操作権限(1/4)]


「「1/4?」」

『1人がこのスキルを抱え込むには、スキルスロットの空きが足りないから4人で分割する形で付与しているわ。

 だからこのスキルは4人が揃っていないと使えないわよ』


 その辺は問題ないかな。

 この4人が別々でダンジョンに潜る機会なんてそうないだろうし。


『それじゃあ次に女の子の方なんだけど、いらない派生スキルは決めた?』

「そうですね……それじゃあこの[シーン回想]で。基本的にダンジョンの探索ではそこまで役に立つものでもないですから」

『分かったわ』


 エバノラは冬乃と咲夜にしたように乃亜の手を掴むと、あっさりとスキルを与えていた。


「あ、派生スキルが1つ消えて、[ダンジョン操作権限(1/4)]が増えましたね」


 意外と簡単にスキルを交換することができるんだな。

 それじゃあ僕も。


 そう思いエバノラに向かって手を伸ばしたら、手を掴まれた後、何故か急に引っ張られてエバノラが腰かけていたベッドに寝転ばされてしまった。


『さて、問題はあなたね』


 な、何する気なんですか?

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