第6話 習字道具縛りだと思うなよ? でもそっちの方が良かった
「……僕は使う意味なくない?」
魔物相手に効くのかな? というか、出来れば使いたくないんだけど。
「先輩。人間相手には使いましたけど、魔物相手には使っていませんから試してみないといけませんよね」
「いい笑顔で言わなければ、それもそうかと言わなくもないんだけどね」
僕はため息を吐きながら、渋々[画面の向こう側]を解除して異空間から出る。
「それじゃあ咲夜達がミミックを捕まえるから試してみて、ね」
「……任せて」
「ソウタにはさっきまで手を貸してもらったから手伝うよ」
「当然だな」
咲夜だけでなくオルガ、ソフィアさん、オリヴィアさんまで気合を入れてミミックを捕獲してこようとしなくていいんですよ?
というか捕まえてこないで。そうすれば使わなくて済むから。
出来れば使いたくないなぁーとか思ってたら4人はあっさりと甲冑ミミックを捕獲し、動けないように固定した。ちくしょう。
「蒼汰、諦めなさい」
『ご主人さま、
「慰めになってないんだよ」
冬乃にアヤメまで止めることなく使うよう促してきたので、僕は駄々をこねてもしょうがないと諦め仕方なく新しい【典正装備】を取り出す。
「〔
過去一シンプルな読み方の【典正装備】だけど、過去一で僕を複雑な感情にさせた代物だ。
僕はそれを
すると僕が着ていた服が光り輝き、みるみるうちについ最近に身に覚えのある衣装へと変わっていった。
そう。アリスの衣装だ。
僕が【アリス】の【
もうお分かりだろう。
今回の【典正装備】、それはウイッグだ!
……習字道具の方がマシだったと思う日が来るなんてなぁ。
これはあれかな?
アリスの恰好で、毛の無い筆である〔
『う~ん、何度見ても凄いのです。だって完全に女の子になっているのです』
「言わないでよ……」
アヤメにしげしげと上から下、というか胸と股間を見られているのだけど、明らかに
性別までアリスにしなくてもよくない?
「女性になってるのはもういいとして、早速能力の方を試してみるかな」
そう。女性になったのはあくまでも副次的な効果であり、本来の能力ではないのだ。
僕は動けなくされているミミックに触れる。
◆
ミミックに触れた後僕は頭が一瞬真っ白になり、気が付けば何もない空間に立っていた。
「ここがミミックの中?」
[画面の向こう側]のように異空間を作る能力ではない。
〔
うん、使い勝手悪すぎ。
直接触れなければ発揮しない仕様のせいで、戦闘中にはとてもじゃないけど使えるものじゃないよ。
もっとも使用すると現実世界の肉体は消えているので、緊急回避する上では使えなくもない?
いや、[画面の向こう側]あるからやっぱりいらないか。
そんな事を思いながら周囲を見渡すと、先ほど触れたミミックがいたのが見えた。
「ニクイニクイニクイ!」
「こわっ!?」
そのミミックは僕にまるで気が付いていないようで、ただひたすらにニクイと言い続けていた。
「乃亜で試した時には女の子の部屋の中に僕やみんなの写真なんかがあったし、精神体である乃亜は僕を認識していたのに、ここには何も無いし、このミミックはまるでそんな様子を見せないな」
この辺の違いは人間と魔物の違いのせいだろうか?
「それにしてもニクイってどう聞いても〝憎い〟だよね? 人間を問答無用で襲うのは憎しみが植え付けられているからだよね」
なんにせよいつまでもこんな所にいたくないし、さっさとやる事やって戻る事にしよう。
僕は乃亜の大楯、〔
ここが精神世界のせいか、よく目にする物であればこうして手元に出すこともできるんだ。
「さて、よっこいしょっと!」
「ニクッ?!」
全くこちらを認識していない甲冑ミミックに対し思いっきり大楯を叩きつけて気を失わさせると、僕は現実世界へと戻る事にした。
◆
「ただいま」
僕は甲冑ミミックを取り囲んでいる乃亜達に声をかけ、気を失って倒れているミミックをチラリと見る。
精神世界で倒されると、やはり現実世界でも気を失うようだ。
「あ、おかえりなさい先輩。どうでした?」
「なんか怖かった」
「何があったんですか?」
不思議そうに尋ねてきた乃亜に対し、僕は先ほどあった出来事を話した。
「う~ん、それはエバノラさんが言っていましたね。
常時人間を殺したくなる怒りに襲われていると言っていましたから、それが魔物にも同じことが起きているのでしょう」
以前レジャー迷宮に訪れた際に、遭遇した魔女のエバノラからそのような話を聞いていたから間違いないだろう。
「なんか不気味だったから、もう魔物相手に〔
「それはそうよね。まあ無理して使う意味はないからいいんじゃないかしら」
もっともそうなってくるとこの〔
別に率先して使いたいわけではないけど、あれだけ苦労して手に入れた【典正装備】が完全に使い道がないのは勘弁して欲しいんだよ……。
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