第10話 大馬鹿野郎
「………」
「………」
何とも言えない空気が僕と穂玖斗さんの間に漂った。
なんせ穂玖斗さんに、僕には乃亜を任せられないって言われていて、仲が良いとは到底言えない間柄なのだ。
乃亜達のお母さんである穂香さんに、穂玖斗さんが説教を受けて以降関わる機会がなかったし、正直どう接すればいいかが分からないよ。
「ふぅ。えっと確か蒼汰だったよな?」
「あ、はい。鹿島蒼汰です」
そう言えばキチンと自己紹介してなかった気がする。
今までおめえとかてめえとか言われてて、名前で呼ばれたことなかったな。
「そうか。俺の事は穂玖斗でいい。とりあえずお互い自分のパーティーと合流出来るまでは、一時的にだがパーティーを組んでおくか」
「え、はいお願いします穂玖斗さん」
ステータス画面でパーティーを組めば、戦っていなくても均等に経験値を分けられるし、パーティーを組むことによって影響のあるスキルもあるから、臨時でパーティーを組めるのはありがたい。
特に僕のスキルはドンピシャでそれに当てはまるからね。
でもまさかパーティーを組んでもらえるとは思わなかった。
毛嫌いされてたから、「じゃああとは1人で頑張りな」って言われてもおかしくないと思ってただけに意外だ。
僕がそんな事を思いながらパーティー申請を受諾していたら、僕のその思考に気付いたのか呆れた表情で穂玖斗さんは僕を見ていた。
「こんな緊急時で見捨てたりしねえよ。それにおめえは乃亜を酷い目に遭わせたり傷つけたりしてねえからな」
……本当に意外だ。
この緊急時だからなのか、それとも乃亜が傍にいないと結構まともな人なのか。
いや、ありがたいからいいんだけどね。
「あとおめえが死ねば乃亜が悲しむからな。別におめえの為じゃねえから勘違いすんじゃねえぞ」
「……えっと、はい。よろしくお願いします」
男のツンデレは誰得なんでしょうか? 少なくとも僕には全く得がありません。
まあツンデレと言うより、乃亜が理由の全てというのが100%なのは誰の目からも明らかなんだけど。
「おう」
ツンデレ発言で脳が一瞬真っ白になりかけたけど、それはともかく早速穂玖斗さんの強化を行おう。
またミノタウロスが出てきた時に強化してからでは遅いから、余ってる〔成長の種〕と〔成長の苗〕穂玖斗さんに使おう。
「穂玖斗さん。今から僕のスキルで穂玖斗さんを強化しますけど構いませんか?」
「今からか? 敵が遭遇してからの方が効果時間切れにならないんじゃないか?」
「いえ、僕のスキルならパーティーを組んでる間なら、ずっと効果が持続するので」
「効果の持続に特化した支援タイプってことか? 分かった。それじゃあ頼む」
「分かりました」
了承を得たので、僕は穂玖斗さんに〔成長の種〕30個と〔成長の苗〕40個使う。
これで穂玖斗さんの身体能力とか、かなり上がったと思うけどどうだろうか?
悲しい事に自分には使えないから、どのくらい強化されるのかをイマイチ把握しきれていないけど。
「ん? ……これは」
穂玖斗さんがその場で軽くジャンプしたり、軽く走ったりして体の感覚を確かめだした。
「普段から乃亜にはこの強化を施してるのか?」
乃亜以外は眼中にないんですか? 冬乃と咲夜もいるんだけどな。
「あ、いえ。模擬戦で見たと思いますけど、特殊なコスプレ衣装を着せる事でさらに強化してますし、他にも色々」
【典正装備】の効果を使用した際のインターバルを無くしたり、乃亜の[損傷衣転]でボロボロになった服を元に戻したりとかもしてるね。
「くそっ! おい、急いで乃亜と合流するぞ!」
「うわっ、急にどうしたんですか?」
「おめえのバフがここまで強力だと思ってなかったんだよ! 模擬戦は見たが、この支援がされているのありきだったなら、おめえがいない状態の乃亜が危険すぎる!」
穂玖斗さんの言わんとすることは分かるけど……。
「でもどうやって乃亜達と合流するんですか?」
この迷宮に大勢の生徒が巻き込まれたはずなのに、死んでいた人と穂玖斗さんの2人にしかまだ遭遇してない事を考えると、この迷宮は相当広いんだろう。
「それは……なにか合流する手立ては持ってたりしないのか?」
何も手段を持ってなかったのに、よく急いで合流しようなんて言えたな。
僕もこの迷宮に1人で放り込まれた時は同じように焦ったから、その気持ちは分かるけど。
「乃亜達がミミックからドロップする謎の石を持ってる人と一緒に行動しているなら、運が良ければ見つけられると思います」
僕はそう言いながら、自身のスキルのスマホに謎の黒い石と白い石を表示させて説明する。
「よし、ナイスだ蒼汰! それならすぐに移動するぞ。安心しろ、おめえの身は俺が守ってやる」
「よろしくお願いします穂玖斗さん」
「おうよ。さてと……どこにいるんだ乃亜ーーーー!!」
「ええっ!?」
こんな場所で大声を上げるとか正気かこの人!?
他の人が来る前に【
「ちょっ、なんで大声なんて出してるんですか!」
「決まってる、乃亜を探すためだ!」
「さっきまでの話し合いは何でしたっけ!?」
僕のスキルのスマホに表示されている矢印の方に進むって話じゃなかったの?
「馬鹿野郎! そんな悠長な事してられっか。だったらいっそのこと大声で敵を引き寄せつつ探した方が乃亜が安全になるし、乃亜にこっちの存在を気付かせる事が出来るだろ」
「あんた実は馬鹿だろ!?」
もう敬語とか使う気にもなれないくらいの大馬鹿野郎だよ!
その行動の結果、僕らの危険度が爆上がりしてるじゃないか!!
乃亜のお父さん、宗司さんと同じように上がった株をすぐに下げないで欲しいよ……。
「何うだうだ言ってやがる。行くぞ蒼汰!」
「さっきまで頼もしいと思ってたのに裏切られた気分だ……」
1人で動いた方がマシだったんじゃないだろうか、と思いながら、仕方なく矢印の方へと案内する事にした。
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