エピローグ2

 

≪蒼汰SIDE≫


 ドッペルマスターを倒した後に黒い渦がいきなり足元に出現し、魔王城みたいな場所から試練を受ける前の場所にいきなり戻された。


「うわっ! せめて一言何か言ってから移動させてよ」

『『1人1人移動してくるのを待つのが嫌だったもの』』


 独り言のつもりだったのに、背後から返答が返ってきた。

 マリとイザベルはもはや僕の近くにいるのが当たり前になってない?


「体中が痛いよ……」

「くっ、まさか敵に操られるとはな……」


 まあソフィアさんとオリヴィアさんも無事に元に戻ったから細かい事は気にしないけど。


「オルガ先輩。いい加減先輩から離れません?」

「……や」


 オルガは操られていた時と後が変わってないんだけど。

 今も僕の腕にくっついたまま離れようとしないし。


「……ダメ?」


 そんな雨に濡れた子犬みたいな目で見ないでください。

 もう試練は終わったから別にいいけど、移動する際は歩き辛いから離れてくれると助かるよ。


「……ん」


 考えている事が伝わったのか、頭をさらに強くこすりつけてきたよ。

 そんなオルガを見たからか、冬乃がため息を吐いてオルガの肩を叩いて振り向かせた。


「オルガさんは蒼汰の事が好きなわけ?」

「……分からない。誰かを好きになった事なんてないし、これが恋なのか見当もつかない。

 ……だけど、ずっと一緒にいたいと思ってる」


 オルガがそう言うと、乃亜達は3人で顔を見合わせて思案顔になっていた。


「う~ん、これは決定でいいんですかね? 冬乃先輩と咲夜先輩はどう思います?」

「試練の時のオルガさんを見る限り蒼汰に好意があるのは間違いないのよね。ドッペルマスターを無視して蒼汰のお願いを聞くくらいだもの。

 もっとも、私としてはあまり増やして欲しくないのだけど」

「オルガさん自身まだハッキリと分かってないみたいだし、急いで結論を出す必要はないと思う、よ?」


 ハーレム入りの相談を僕の意思を無視してしないでくれませんかね?

 そうホイホイ増やすつもりはないんだけどなぁ。


 とりあえず保留という形になり、今後のオルガの様子を見てハーレム入りを許可するかどうかが決定するようだ。

 いや、だから僕の意見……。


 こういう事に関しては女性陣にのみ決定権があるため口を挟めなかった僕は、いつの間にかいなくなっていたマリとイザベルがどこにいるのか探す事にした。


 これでもう僕らは元の場所に戻れるんだよね?


 果たして最初の取り決め通り【ドッペルゲンガー】の試練が終わったら帰ることが出来るのか心配だったけどそれは杞憂だった。

 僕らから一番離れた場所で、マリとイザベルがこの空間に呑み込まれた人達を元の場所に帰すために白い渦に誘導していた。

 この様子だとおそらく僕らが帰還するのは最後になるだろう。


 それなら【ドッペルゲンガー】を倒した際に手に入れた【典正装備】の確認しておこうかな。……はぁ。


「アヤメまともな【典正装備】が手に入れられたよね」

『能力もですが、普段使いするのにもピッタリな代物なので気に入ったのです』


 アヤメはそう言ってクルクルと嬉しそうに回りながら、普段着ている和服の上に羽織った赤いレースの小花柄の羽織を嬉しそうに見ていた。


 〔曖昧な羽織ホロー コート


 一見ただの上着のようだけど、その効果は自分の存在を曖昧にし、自分から相手に干渉できない代わりに相手も干渉できなくなるというものだった。

 僕の[画面の向こう側]に似たような力であり、一度その【典正装備】を使えば12時間効力は続く強力なものだった。

 代わりに能力を解除したら12時間のインターバルがあるので、敵を不意打ちしてすぐにまた隠れるみたいな使い方は出来ない。

 もっとも使用者はアヤメなので元からそんな使い方はしないから問題ないね。


『ご主人さまの手に入れた【典正装備】は面白い能力なのです』

「使いどころがイマイチ分からないけどね」


 〔似ても似つかぬディフォームド影法師セルフ


 自身をデフォルメした分身を創り出すことが出来る能力であり、それだけだ。


 ……これ本当に【典正装備】か? と言いたくなるような能力だったし、創り出せる分身は試練の時に強欲に支配されていた時より小さい2頭身の僕であり、しかもスキルは使えない存在だった。

 影武者や身代わりとしては使えないのだけど、なんとこの創り出した分身と意識を共有でき操る事もできるので、遠隔操作できたり、自動で行動させられたりできるラジコンみたいなものだ。


 便利と言えば便利なんだけど……アヤメの索敵能力があるからわざわざこれを使う機会があるかは怪しいな。

 インターバルはないからいいんだけどさ。




 ………………さて、気にしない様にしていたけどそろそろ向き合おうか。


 〔似ても似つかぬディフォームド影法師セルフ〕を出現させると手のひらにずっしりとしたを感じる。


 はい、文鎮です。しかも僕をデフォルメした人型の文鎮。


 ……わざわざ【典正装備】を習字道具に統一してくるの止めない?

 唯一違うのが〔緊縛こそノーボンデージ我が人生ノーライフ〕で紐だけなのが悲しい。

 それでも紐だから紙を束ねる為の物と言われると微妙にかすってる辺り、習字道具に統一しようという世界の意思を感じずにはいられないんだけど。


「何故に文鎮? あと下敷きと硯で完璧に僕の【典正装備】が習字道具セットなんだけど」

『習字でもやれって世界が囁いてるのです?』

「ダンジョン来てるんだから武器を寄こせと言いたいよ」


 今更だけど〔忌まわしき穢れはブラック逃れられぬ定めイロウシェン〕を使用すると習字道具の【典正装備】が手に入ってる気がする。

 最初に倒した泉の女神の呪いか何かじゃないかな、これは?


 自身の【典正装備】に凄く残念な気分になりながらみんなとその事について話していたら、マリとイザベラが僕らの近くにいつの間にかやって来ていた。


『クシシシ、おかしな【典正装備】を手に入れたわね』

『キシシシ、直接戦うものじゃない辺りあなたらしい気がするわ』


 周囲を見渡すとほとんどの人達は既にこの場にはおらず、僕ら以外の人達も次々と白い渦を潜り抜けて元いた場所へと戻っていってるので、僕らもようやくそこに向かう事にした。


「ようやく外に出られるね」

「そうですね。そんなにこの空間にいたわけではないはずなのですが、凄く長く感じられました」

「それだけ濃い経験をしたってことでしょうね。自分自身との戦いだなんて普通ありえないもの」

「でもそんな相手と戦って勝てたから、前よりもっと強くなれた、かも?」

「ワタシ達は負けちゃったけどね。帰ったらもっと鍛えないとなぁ」

「未熟なこの身が恨めしい……!」

「……どうでもいい」


 喋りながら白い渦へと向かうと、やはりというか一番遠かった僕らが最後のようでみんなが次々と白い渦を潜り抜けていった。


 外に出ると周囲から戦闘音はしておらず迷宮氾濫デスパレードはすでに収まっていたようで、後は目の前の黒い球体をどうするのかという問題が残っているだけのようだ。


「これ、どうするんだろうな~」


 そう呑気に巨大な黒い球体を見上げて呟いていた時、突然その黒い壁から2本の手が僕に向かって伸びてきた。


「えっ!?」

『キシシシ』

『クシシシ』


 にゅっと現れたのは上半身だけ外に飛び出してきたマリとイザベルで、伸ばされた腕は僕の肩を強く掴んでいた。

 一体何の用なのかと驚き2人の顔を見ると、先ほどと同じ不敵な笑みを浮かべていたけれど、その目は先ほどまでとは違っていた。


 濁った沼のような暗い4つの瞳が僕を見つめているのに気づいた瞬間には、体を引っ張られるような感覚が襲ってきた。


『『あなただけは逃がさない』』

「うわあああっ!?」


 引っ張られた衝撃で手に持っていた〔似ても似つかぬディフォームド影法師セルフ〕を手放してしまったけど、そんな事よりもこの状況を何とかしないと!


 しかし2人の力があまりにも強く引きはがす事の出来なかった僕は、抵抗虚しく再び真っ黒な球体の中に取り込まれてしまった。



≪三人称視点≫


 鹿島蒼汰が魔女達によって連れ去られ、蒼汰を慕う少女達は追いかけようとしたものの黒い球体の壁に阻まれてしまう。


 少女達は少年の名を叫びながら黒い壁を叩くもそれはビクともせず不動だった。

 もっとも不動だったのは僅かな時間だけだったが。


 黒い球体はグニャリとその形を変えていき、遠くから見たらあるものに変形したことが分かった。


 丸い球体の下に四角い台座が鎮座しその台座には回転式レバーがついたもの。

 そう。カプセルトイだ。


 その巨大なカプセルトイへの変形に誰もが唖然としている中、突然レバーが回りだす。

 レバーが1回転した後、凱旋門のような巨大なアーチ状の開口部から巨大な黒い玉が転がって出てくると、ゴロゴロと転がったそれはやがて止まり、ピシリと亀裂が入って割れた。

 その中から現れたのは何千個もの人の頭2つ分ほどの黒いカプセルであり、辺り一帯に飛び散っていく。

 

 一体あれは何なのか。

 その疑問の答えは、カプセルが割れて中のモノが出てきても分かる者はいなかった。


『『『『『『ガチャ~』』』』』』


 この日、人類は思い知る事になる。


 現代の闇が生んだ怪物の恐ろしさを。



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・あとがき

9章完結!

他の章に比べると少し長くなってしまいましたね。

もう少し1章あたりの文字数を統一していきたいなと思いつつ、なんだか思ってるだけな気がします。


蒼汰)「いや、そんな事言ってる場合!?」

作者)『え、何が?』

蒼汰)「僕!」

作者)『はぁ。自分を指さしてどうしたんだ?』

蒼汰)「9章完結とか言ってますけど、内容的には完結できてませんよね! 僕、魔女達に連れ去られて終わってるし!」

作者)『完。蒼汰のガチャ人生はここまでだ』

蒼汰)「週刊誌の打ち切りみたいなノリですけど、ここまでって人生終わらせるの止めてくれません!?」

作者)『まあこのまま放置したら間違いなく人生終わるよな』

蒼汰)「いやホントどうするんですかこれ? 自分で言うのもなんですけど、10章主人公不在じゃないですか」

作者)『囚われのお姫様視点だと、檻の中の描写を永遠と垂れ流すようなものだしな。どこぞの寝るのが好きな姫みたいに檻から脱出して好き放題するくらいのバイタリティーは見せて欲しいものだ』

蒼汰)「活力だけで出来る限界はとっくに超えてるんですけど!?」

作者)『じゃあやっぱり10章でお前はいらないな』

蒼汰)「嘘でしょ!?」

作者)『まあ冗談はともかく、多くの読者達は察している方法でいくから問題ないな』

蒼汰)「……でもそれって結局僕が囚われてる事実は変わらないですよね?」

作者)『変える必要ある?』

蒼汰)「お願い変えて! あの中だと電波届かないから明日のデイリーガチャができないんだよ!」

作者)『え、そこなの? 今回新たに増えたハーレムメンバーの事とか、色々あるよね?』

蒼汰)「……まだ、違うし……」

作者)『ふっ。無駄な抵抗だな』

蒼汰)「いや増やそうとしないでくださいよ。僕は別にそういうの求めてないですから!」

作者)『だって、読者が増やせって言ったから……』

蒼汰)「作者の意思ですらない!?」

作者)『増やそうかなどうしようかなーとか思ってたら、増やすよな? 増やすよな?って圧が多数届きまして。まあハーレムものだしいっかなって』

蒼汰)「ノリ軽!?」

作者)『割とノリで書かれているこの作品。9章でマリとイザベルの話を終わらせようと途中まで思ってたけど、話数とんでもない事になると気付いてまた分割しました』

蒼汰)「前にも同じようなことありましたよね! 反省を次に生かしてくださいよ」

作者)『無理だな』

蒼汰)「断言した!?」

作者)『だって作者のプロット、時間かける割にスカスカだし』

蒼汰)「もっとプロット頑張ってよ」

作者)『無理無理。ギチギチに詰め込むと脱線した時に修正きかなくなるし』

蒼汰)「何故に脱線するのか」

作者)『日が経つにつれて、「やっぱりこっちの路線の方が面白いな」と思い直すことが多いから』

蒼汰)「そう言われると何も……いやちょっと待って。最後に僕がマリとイザベルに連れ去られたのって本当に既定路線?」

作者)『……さて、10章頑張るかー』

蒼汰)「嘘だろ、おい!?」


さてさて、次章ですがいつも通り1週間……空けれないですね。

GWともろ被りとか困りました。

幸いにも10章に限ってはマリとイザベルの攻略だけといっても過言ではないので何とかなる、かな~?


頑張って早くプロット考えて続き書きます。

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