エピローグ1
≪彰人SIDE≫
ボクは桜と共に怪しい人物を捜索している中、逃げるでもなくただ魔女の創り上げた黒い球体を観察しているスーツ姿の2人組を発見した。
「やっと見つけたよ」
「おや? これば珍しい。まさかインキュバスに会えるだなんて100年ぶりくらいかな?」
「ボクはあなたのような存在に会うのは初めてだけどね。
魔女達が現れた後、周囲を探索してようやく見つけることができた。
この騒動の原因の主らしき人物――過激派の異界の住人を。
「あなたがこの騒動の原因だよね?」
「そうだ。ちなみに“平穏の翼”という組織を創った張本人であり、その長
「だった?」
「ああ。なにせあの組織はもうお終いだ。危険思想をもった人間はほぼ全員
ハイエルフの男が指さす方向には魔女達の球体。
あの中で何が行われているのかボクも分からないけど、【
それはそれとしてこの人のこの物言い。まるで――
「もう組織なんてどうでもいいみたいな口ぶりだね」
「実際必要ないからな。もう目的は達成された。後はなるようになるだけだ」
「目的ってなんなのさね?」
桜が訝し気な目で見ているけどそれはそうだろう。
“平穏の翼”という組織を創ったにもかかわらず、そんなものはもう要らないとあっさり捨ててしまうような目的が何か気にならないわけではないだろうし。
もっとも、それは桜は確認のために聞いただけで分かっていることだろうけど。
「目的は
それは知っている。
ボクらのような存在は魔素が薄い場所だと息苦しさのようなものを感じるし、体も重くなってしまう。
ボクのクソ先祖どもが魔素の濃いダンジョンのなりそこないの中から出てこようとしないくらいなのだから。
だから地上も魔素を濃くしようとするのは分からなくもないんだけど……。
「2つ? 地上の魔素を濃くすることが目的なんじゃないの?」
「それだけなら最悪ダンジョンの中に引きこもっていればいい。報告で聞いた君の先祖たちのようにな」
こっちの存在は知られていたようだ。
それでも勧誘などしにこなかったのは、この人達の目的があの引きこもり達にはなんの意味もないと悟っていたからだろう。
「じゃあ2つ目はなんなのさ? ユニーク持ちを殺してまで、こんな騒動を起こしてまで成したい大層な目的なんてあるのさね」
桜は少し憤慨した様子でハイエルフに詰問すると、ハイエルフはふっと笑って頷いた。
「もちろんだとも。
ユニーク持ちを殺していたのは、下手に騒動が納まるのが早いと人間の
これが2つ目の理由だな」
間引きだって?
ボクらの異常者を見る様な目を別段気にすることなくハイエルフは淡々と語り始めた。
「そもそもの話、この世界の人間は何の責任も取っていない」
「責任?」
「ああ、我々の世界から魔素を奪った責任だ。
君らが知っているかは知らないが、昔にこの世界の人間が我々のいた世界とこの世界を永久につなげる暴挙を行ったために、我々の世界から魔素が少なくなったのだよ」
最後の方にほんの少しだけ声に怒気が混ざっていた。
ハイエルフは長寿だし、魔素が少なくなった原因を掴んだ時でも思い出しているんだろうか。
「魔素が少なくなった結果、我々の世界は子を育むことはおろか、あと数百年もすれば生きることすら難しい世界へと変わってしまった。
その責任の所在はすでにその原因を創り出した存在がいなくなったとしても消えるものではないよ。
たとえ過去の人間の所業とはいえ、この世界の者が行ったことが原因である以上、その責任は取るべきだ」
「それなら話し合う事は――」
「出来る訳ないだろ?」
桜の声を途中で遮り、不可能だと首を横に振っていた。
「何故なのさね?」
「それは人間が絶対にこちらの要求を呑まないと分かっているからだ」
「そんな事言ってみないと分からないさ」
「ならばこちらの要求を言おう。今ある土地の半分と自然開発の即刻中止だ。
出来るかね?」
「それは……いきなりそんな事言われても……」
一高校生にそんな事言われても出来るだなんて言えるわけないし、普通に考えて自然の開発中止はともかくとして、土地の半分は絶対に無理だろうね。
「だろうな。
お前達は難癖付けて交渉を伸ばし、自然を開発できるだけ開発しようとするのは間違いないし、土地の半分を寄こせと言われて素直に渡すか?」
「だ、だけど土地の半分だなんて横暴じゃないさね?」
「そうでもない。
元いた世界を捨ててこちらの世界に来るならば、同胞を受け入れる土地は必要だ。
お前たちのせいで
ようは世界丸々台無しにされたから、半分で手打ちにしようという話なんだけど、問題はそれがすでに死んだ人間が行った事であり、今を生きる人間に責任を取れと言われても頷き難いことだろう。
「自然開発にしてもそうだ。
私のようなハイエルフ、いやエルフもそうだが彼女のような存在にとって自然開発は致命的だ」
先ほどまでただの秘書風の女性にしか見えなかった彼女の背中に、虹色の蝶の羽のようなものが現れた。
「彼女は妖精だ。正確に言えば妖精女王のティターニア。
妖精の種類にもよるが自然の少ない場所では生息できないものは多い」
エルフだけなら一部の箇所だけ自然の開発中止にすれば繁栄できそうだけど、これがエルフだけの問題ではなく、妖精――だけでもなく、他の多くの自然の存在が重要な種族にとっては、自然開発など堪ったものではないのだろう。
「人間の中には自然は大切にするべきだというものもいるがそれはともかくとして、土地の半分をくれといって頷かないのは君らの戦争の歴史がそれを証明している」
戦争って色々目的があって一概には言えないけど、土地の奪い合いを目的に行ったのは数多いからね。
「長々と話したが、要約すると人間は己の利のためにこれらの条件を間違いなく
それだけのことだよ」
「そんな、話し合いもせずにだなんて……」
「さっきも言ったがしても無駄だし、お前らは絶対に頷かない」
だろうね。それが分かり切ってるから桜もこれ以上強くは言えないだろう。
「交渉がムダだと判断した私達は多くの同胞たちがこの地に住めるようにするために行動することにした。
どうすればいいのか熟考した結果、地上の魔素を濃くし人間を間引くことがその近道だと結論付けた。
それを行うためにやったのが地上への【
「日本でも
桜は【
「いや違う。時期ではなく場所の問題だよ。日本で
本命はこの場所、地上がダンジョン化しているここで行う事が重要なのだ」
本命の場所で必要以上に警戒されないために、あえて別の場所で行ったと。
日本に住んでいる身からすればいい迷惑だ。
「特殊な装置を使えば【
だからまずは未完成品の
2箇所のダンジョンで同時に
いや、そうでもなければ都合よく
「【
そして地上は魔素が濃くなり、ダンジョンから少しずつ魔物が出てくるようになる」
は? つまり常時緩やかな
「【
「それで大勢死んでも構わないのか!?」
桜が激高し今にもとびかかろうとしているのをハイエルフは気にも留めず肩をすくめた。
「お前達の世界のせいで、私達の世界で新たな生命が生まれ辛くなったのだから、つり合いは取れていると思うがね。
……さて、作戦が上手くいったのは見届けられたし我々は行くとするか」
「まて、これからお前達は何をするつもりさ?」
「そこまで答える義務はない。ではな」
「まっ――」
そう言ってハイエルフ達はこの場から姿を消してしまった。
……まっ、ボクには関係なさそうな話だし、地上の魔素が濃くなる弊害に多少の魔物がダンジョンから出てくる程度なら許容範囲だからいいかな。
こんな事一個人には大きすぎる話だし、後は国の上層部が考えることだよね。
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