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第48話 これがお前の末路だ

『やった。やったぞ！　最後の賭けにオレは勝ったんだ！

　その男は殺せないが女の方は殺してやる！　片腕が無くなっても〔忌まわしき穢れは（ブラック）逃れられぬ定め（イロウシェン）・黒水偽鏡（インバージョン）〕を使われる前までの戦闘を考えれば、長期戦に持ち込めば確実に殺せる！！』

「おしゃべりが過ぎるね」

『は？』

　唖然とした表情で、まるで何故こいつがここにいるんだという表情を浮かべており、そんな思考が止まっている相手に筆（・）で撫でるのは簡単な事だった。

『うっ、な、なんだ？　ぐっ、か、体が……！？

　はっ、まさかお前……！』

「〔太郎坊兼光（ショート　リヴド）・破解（レイン）〕×〔忌まわしき穢れは（ブラック）逃れられぬ定め（イロウシェン）〕って言えば分かる？」

『あ、ああっ！！？』

　僕が手に持つ毛のない筆を見せびらかす様にそう言うと、ドッペルマスターは青い顔をして膝をついてしまった。

「蒼汰君からお願いされた時はビックリした。語気が強かったから」

「時間との勝負だったから荒い言葉で言ってゴメン」

「たまにならあんな風に命令されるのも悪く、ない」

「えっ？」

　〔忌まわしき穢れは（ブラック）逃れられぬ定め（イロウシェン）・黒水偽鏡（インバージョン）〕を解除すると同時に咲夜に急いで戻ってきてもらい、僕をドッペルマスターの元まで運んでもらうよう〔絆の指輪〕で念話してお願いしたんだ。……しかし慌てていたからなんて言ったかよく覚えていないんだけど、今も少し顔を赤らめてる咲夜に対して僕は一体どんな風にお（・）願（・）い（・）したんだろ？

　それはともかく、〔忌まわしき穢れは（ブラック）逃れられぬ定め（イロウシェン）・黒水偽鏡（インバージョン）〕を解除しなければいけないと悟った瞬間、ドッペルマスターがスキルを再使用し直す際の隙を狙おうと頭に過ぎりすぐに動いた。

　もっともドッペルマスターは再度大量のスキルを使用できたためか興奮してて隙だらけだったので、さすがにここまで油断していたらいくら僕でも攻撃が当てられる。

　向こうが下手に僕に対して攻撃できず硬直していたのだから余計にだ。

『くっ、くそう……！』

　悔し気にこちらを睨みつけているドッペルマスターだけどすでにもう遅い。

　〔太郎坊兼光（ショート　リヴド）・破解（レイン）〕は他の【典正装備】の疑似的な〔典外回状〕であるがゆえに、〔忌まわしき穢れは（ブラック）逃れられぬ定め（イロウシェン）〕と組み合わせれば当然先ほどと同じ効果を発揮する。しかも先ほどの無差別と違い1人だけにだ。

『……はぁ』

　再び体が重くなったからか、それとも〔忌まわしき穢れは（ブラック）逃れられぬ定め（イロウシェン）・黒水偽鏡（インバージョン）〕に似た影響が自分だけに効いてしまっている絶望に崩れ落ちてしまったのかは分からないけど、もう戦う気が無いのかドッペルマスターは膝を着いた姿勢のまま動こうとしなかった。

『は、ははっ……。まさか味方がいなければ変身する価値もないやつにやられるなんてな』

「別の人に変身してくれません？　その人だと僕に対する言葉の暴力が酷い」

　目の前のロシア人の男性の性格のせいか、僕への当たりがよりきつく感じられるんだよ。

『――じゃあもう君自身でいいよね？　あ～あ、負けちゃった』

　ドッペルマスターは何故か僕の姿に変身して、大の字になって床に寝転がった。

『創造主たちも酷いよ。僕は人間を殺すために生まれたようなものなのに、結局僕自身には1人たりとも殺させてくれないなんて』

　ドッペルマスターは寝転がりながら恨みがましい目でマリとイザベルを見るけど、2人は意に介さずに独特な笑い声を上げてきた。

『キシシシ。しょうがないじゃない』

『クシシシ。ええ、しょうがないわ』

『『だって所詮遊びだもの』』

　僕以外割とガチ目に死ぬようなキツイ目に遭ったのに遊びといいますか。

「……でも僕以外死んでもいいくらいなこと、ドッペルマスターと話していましたよね？」

『死んでしまえとは思ってないけど』

『死んでもいいか、くらいには思ってたわよ？』

　相変わらずとんでもないこと言う2人だ。

　しかしこの2人でなかったらドッペルマスターに勝てず、真っ先に僕は殺されていただろうから、助かったといえば助かったのだけど。

『それで、いつまでこうしているの？　僕を倒すんじゃないのかな？』

「自分と同じ顔の人物を2度も倒す事になるとは思いもしなかった」

　ドッペルゲンガーはともかくドッペルマスターは誰にでもなれるのにあえて僕の姿になるとか、最後の嫌がらせとしか思えない。

　僕の姿だと乃亜達が躊躇するだろうことも分かっているのか、ニヤニヤした顔で僕を見てきたな。

　自分の顔だけど、普通にムカつくよ。

「はぁ、やりづらいな」

『でもやらなきゃ終わらないよね。一思いにお願い』

「分かったよ。……じゃあね」

『うん。じゃあね』

　僕は〔マジックポーチ〕から取り出した支給品の剣を、寝転がって目を瞑っているドッペルマスターの心臓目掛けて突き刺した。

『ぐふっ！　こ、これがお前の末路だ……、なんてね』

「おいやめろ」

　ドッペルマスターが僕の姿で言うからシャレにならんよ。

　最後の最後まで僕に意趣返しをしてきたドッペルマスターは、体の先から真っ黒に染まっていくと、そのまま崩れて消えてしまった。

　――ポンッ

　――ポンッ

　もう何度か聞いた【魔女が紡ぐ物語（クレイジーテラー）】を倒した際に手に入る【典正装備】が入った宝箱の現れる音がした。

「今回微妙に活躍したと言い切れないのに僕でいいんだろうか？」

　自分の目の前に現れた宝箱に対し、正直いいのかなぁ？　と思わずにはいられないよ。

『最低限の条件を満たしていない人間ばかりだったし、あなた達以外に正当な権利がない以上素直に貰いなさいよ』

『そうよね。それに受け取るのがあなた達なら私達としても異論はないわ』

『えっ、ワタシもなのです？』

「へっ？」

　背後から聞こえたその声に思わず振り向くと、そこには小さな宝箱が目の前に現れていて困惑しているアヤメの姿がそこにあった。