第47話 反転するもの

 

 急激にバフがデバフに変わったせいか、咄嗟にスキルは解除したみたいだけどドッペルマスターは身体をよろめかせていた。


『か、体が……。……まだ【典正装備】はいくつかあるのに使って良かった、の?』

「強力なバフ効果のある【典正装備】は知ってる限りじゃ、〔武神ゴッズ毘沙門天プロテクション〕くらいだからね。

 その効果が切れて僕たちの誰かに変身したら、すぐに使うつもりだったんだよ」

『なんで? 蒼汰君の知らない人で強力なバフ効果のある【典正装備】を持ってる人にすぐに変身すればいい』

「え、でも持ってないって聞いたけど」

『っ!? だ、誰に?』


 僕は部屋の入口を指さす。


『……ぷいっ』

『オルガさんは咲夜の配下なのに?!』


 〔忌まわしき穢れはブラック逃れられぬ定めイロウシェン黒水偽鏡インバージョン〕の影響が及ばないように、後で何でも言う事を聞くことを条件に部屋の入口に移動して貰ったオルガの再び顔を背けている姿を、ドッペルマスターは悲し気な目で見ながら絶叫していた。


『この状況を打開できる【典正装備】は――』

「考える隙を与えるわけないよ。冬乃」

「分かってるわ。〈解放パージ〉」


【ヤ=テ=ベオ】と戦った時のように〔忌まわしき穢れはブラック逃れられぬ定めイロウシェン黒水偽鏡インバージョン〕の影響下の中でも〔籠の中に囚われし焔ブレイズ バスケット〕 が容赦なく放たれる。


『くっ、――舐めるんじゃないわよ、〈解放パージ〉!』


 ドッペルマスターが瞬時に冬乃の姿に変身して、同じように〔籠の中に囚われし焔ブレイズ バスケット〕を放った。


『きゃあああっ!!』


 放たれた炎の弾は互いにぶつかり爆発したけれど、ドッペルマスターよりも冬乃の放った方の炎の勢いが強く、ドッペルマスターの炎を呑み込んでドッペルマスターを襲う。


「あいにくとさっき〔業火をスペリオル育む薪炭フューエル〕と〔溶けた雫はバーン オブ素肌を伝うキャンドル〕を発動したばかりだから、〔籠の中に囚われし焔ブレイズ バスケット〕の威力が同じなら私の方が威力が上になるわよ」


 別の人間に変身したばかりのドッペルマスターでは、瞬時に1つ【典正装備】を使うので精一杯だったようだ。

 〔業火を育む薪炭〕を呑み込んで〔溶けた雫は素肌を伝うロウソク〕を垂らしてる間に着弾するだろうから、仕方がないと言えば仕方がないのだけど。


『――ドッペルマスターの特性をほとんど封じられたようなものだから厳しいネ。〔葡萄酒に浸された包帯ラヴザァイネイバー〕』


 中国人女性になったドッペルマスターは紫色に染まった包帯を取り出すと、それは勝手に全身に巻き付いていった。


『……治療系の【典正装備】。でもあの人は【典正装備】を1つしか持ってない』

『心を読む相手は本当に厄介ネ』


 その人物にならなければ【典正装備】が使えない制約があって本当によかった。

 そうでなければあらゆる【典正装備】を駆使して、バフがデバフになるこの状況でも覆されるところだっただろう。


「傷を癒すだけなら――冬乃、もう一度だ」

「分かったわ」


 僕が冬乃の〔籠の中に囚われし焔ブレイズ バスケット〕を再召喚して、インターバル関係なく撃てるようにした。

 僕のスキル[無課金]は反転しても[課金]が出来るようになるだけなので、装備の入れ替えにまでは反転が及んでいないから助かる。

 派生スキルであっても乃亜の[重量装備]のように反転してしまうものもあるけど、僕の[チーム編成]は反転しようがないのか影響されていないのは【ヤ=テ=ベオ】の時に実証済みだ。


「〈解放パージ〉〈解放パージ〉〈解放パージ〉〈解放パージ〉」

『〔金玉を贈るカエルウオール テニス〕、〔返還されし私財フォールス シン〕、〔60粒のそら豆クローズこぼれた1粒コール〕、〔雀に当たらぬ斧ウロング ターゲット〕!』


 ドッペルマスターは瞬時に変身して何らかの【典正装備】を使って少しでも攻撃を相殺しようとしたけれど、どれも相殺しきれずに攻撃を受けるがままになっていた。


『くそっ! こうなったら――〔娼婦の腹を切る者ザ リッパー〕!』


 ロシア人の男性に変身したドッペルマスターが、ナイフを手に異常な早さで冬乃の元へと駆けだしていった。


「冬乃先輩!」


 乃亜がすぐさま身に着けていた〔閉ざされた視界フォーリン開かれた性癖プロクリヴィティ〕を取ってドッペルマスターを視認するも、オリヴィアさん達に使ったばかりのせいでほんの少し体を鈍らせただけで、冬乃に向かって行くのを止められていなかった。


「吹き飛びなさい、〈解放パージ〉!」

『腕の一本くらいもっていけ!』

「嘘っ!?」


 ドッペルマスターはその手に持っているナイフで自分の腕を切り落とすと、冬乃が放った炎にその腕を投げて大分手前で爆発させて凌いでしまった。


「きゃあっ!?」


 しかもその爆発が冬乃に近いところだったせいで冬乃が巻き添えをくらい吹き飛び、頬など見える限り体全体で


 しまった! 乃亜の[損傷衣転]が反転しているせいで服のダメージが自身に移ってしまってる!?


『この少女さえ殺してしまえば!』

「まずい!」


 ナイフが喉に届く直前ですぐに〔忌まわしき穢れはブラック逃れられぬ定めイロウシェン黒水偽鏡インバージョン〕を解除し、ドッペルマスターからのダメージは服へと移ってなんとか致命傷を回避できた。


『くははははっ! [身体強化][思考加速][速度強化][腕力強化][脚力強化][器用強化][強靱強化][精神強化][五感強化][ダメージ削減][フィジカルプロテクト][痛覚遮断][先読み][体術][盾術][ハードコーティング][スタミナアッパー][英雄][一騎当千][万夫不当][オートリジェネレーション]!!』


 しかしドッペルマスターに再び膨大なスキルの使用を許してしまうことになってしまった。


 〔忌まわしき穢れはブラック逃れられぬ定めイロウシェン黒水偽鏡インバージョン、もう使えない。

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