第46話 勝因は弱すぎること

 

 乃亜達の戦いが激しくなり床がドンドンボロボロになっていくのを見て、さすがにこのままではヤバいと感じ始めた。

 主に乃亜達に倒されて壁際で横たわってるソフィア達が。


 あの2人をこのまま放置してたら巻き添えをくらいそうだな。


「ソフィアさん達を避難させないと」

『壁際にいますけど、いつ流れ弾が飛んできてもおかしくありませんからね。でもご主人さまは今手が離せませんよね?』

「乃亜達の服を直す手を止めるわけにはいかないからね。……オルガ、あそこで倒れてる2人を部屋の外に連れ出してくれないかな?」

『……分かった』


 ダメ元で聞いたのにまさかすんなり頷いてくれるとは思わなかった。


『ちょっ、わたしの命令は拒否したくせに、先輩の命令は聞くとかどういう事ですか!?』

『……行ってくる』

『無視!?』


 ホントにドッペルゲンガーを支配下に置いてるのか疑わしくなるくらい、オルガに対してドッペルマスターはまともに命令できていないせいで可哀想とすら思えてくるなぁ。


『……戻った。撫でて』

『「早っ!?」』


 ちょっと視線をドッペルマスターのいる方向に向けている間に、ソフィア達を部屋の外に移動させてしまったことにアヤメと一緒に驚いてしまった。

 もう連れ出し終わったの?


『……投げれば済む』


 え、投げたの?


『……ぷい。いいから撫でて』


 顔を背けているけど、放り投げて退避させた事は否定しないんだね。

 まあやり方はどうであれすぐに退避させてくれたのだから、望み通り頭くらいは撫でようか。


『……んっ』


 オルガの頭を撫でながら必死にスマホをタップし続けていると、戦闘がさらに激化していき周囲の壁のいくつかは穴だらけになっていて、僕がその巻き添えになっていないのが不思議なくらいだった。


 まぁ乃亜達がこっちに攻撃がいかないように意識しているのはもちろん、攻撃がとんでうっかり殺してしまわないようにドッペルマスターにすら気を付けられているからなのは間違いないね。


『こっちは大量のスキルに加え、全く同じスキル、さらに〔武神ゴッズ毘沙門天プロテクション〕を使ってるのに、1人も倒せないだなんて……!』


 ドッペルマスターは必死に乃亜の姿で戦い続けるも、乃亜達に致命打を与える事ができずに焦っていた。

 あいにくと攻撃されてもダメージは服にいくし、その服は瞬時に僕が直すから一撃で倒すつもりで攻撃しないと無理だよ。

 咲夜が[鬼神]の〝臨界〟まで使って率先して戦ってるから、乃亜達の方に狙いにいけば逆に咲夜にやられることになるし。


『創造主たち! 先輩を殺す許可を!!』


 状況が芳しくないせいか、ドッペルマスターは入口付近でこちらの様子を見ているマリとイザベルに僕の抹殺という物騒な許可を求めだしたよ。


『『ダメに決まってるじゃない』』

『創造主!?』


 しかし2人はにべもなくそれを却下。

 試練してる側なのにマリとイザベルのその発言はいかがなものだろうか?


『そっちの女の子達ならいいけど、その男の子はダメよ』

『私達、その子のこと気に入っちゃったもの』

『『だからその男の子を殺すくらいなら潔く死になさい』』

『創造主たちは試練をなんだと思っているんですか!?』


 試練してる側なのにこっちの味方とか意味わかんないよ。


「隙あり」

『マズッ、こうなったら……!』


 ドッペルマスターが身に着けていた〔閉ざされた視界フォーリン開かれた性癖プロクリヴィティ〕を取り払って、咲夜を視認してきた。


「うっ、体が……」

『せめて効果が切れる前に1人だけでも!』

「させませんよ! きゃっ!?」


 マリとイザベルに抗議している隙を咲夜に突かれそうになったため、逆に咲夜の体の自由を奪って反撃しようとしたものの、乃亜がその攻撃を防ごうとして吹き飛ばされていた。


「ごめん、乃亜ちゃん。大丈夫?」

「問題ありません。それよりもこれでわたしの持ってる【典正装備】を3つとも使い切りさせましたよ!」

「あと数秒で〔武神ゴッズ毘沙門天プロテクション〕の効果が切れるでしょうから、これで仕留められるわね」

『舐めないでください! ――ドッペルマスターの名が伊達じゃないところを見せる、よ』

「今度は咲夜になったか」


 〔武神ゴッズ毘沙門天プロテクション〕の効果切れる直前、咲夜に変身して瞬時に[鬼神]の〝臨界〟を使ってきた。

 乃亜の時は出来なかったみたいだけど、咲夜の姿でならその経験もコピーしているのか派生スキルでもなんでもない、咲夜が努力して身に着けた技も使える様になるんだね。


 まあ意味はないんだけど。


「みんな、下がって! 反転しろ。〔忌まわしき穢れはブラック逃れられぬ定めイロウシェン黒水偽鏡インバージョン〕」

『このタイミング……!?』


 僕の頭上に雲が発生し、そこから黒い雨が降り注いできた。

 僕を中心に黒い水があっという間に床に広がっていく。


『まずいっ。〝神げ――ダメ、死んじゃう』


 僕に向かって咄嗟に〝神撃〟を撃とうとしたけど、そんな手加減から遠く離れた技を撃たれたら即死するよ。いいの?

 ドッペルマスターがマリとイザベルの命令を効いて僕を殺さないようにしていなかったら、こんな無防備に〔忌まわしき穢れはブラック逃れられぬ定めイロウシェン黒水偽鏡インバージョン〕なんて使えなかっただろう。


 ドッペルマスターはなんとか黒い水から逃れようとしたものの室内では逃げる場所も限られる上に、地面に広がる黒い水だけでなく、僕を中心に広がる頭上の雲もある程度広がって黒い雨を降らすせいで避け切れずに当たっていた。


『しまっ……!? 全スキル解除』


 悔しそうに黒い雨に打たれながらこちらを睨みつけるドッペルマスターに対し、僕らもバフ効果のあるスキルは全部解除して改めて武器を構えた。

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