幕間 力の影響

 

≪エバノラSIDE≫


『はぁ、まさかあなたがあんな事するなんてね』

『んあ~? なに、えっちゃん?』


 ローリーはどこかで手に入れたビーズクッションで仰向けになりながら、視線も向けず声だけ私に反応してきたけど、それはいつもの事だからどうでもいいわ。


『あなたがあの子達、いえ、あの男の子にしたことよ』

『えっちゃんもしてたじゃん』

『確かにそうなんだけど、めんどくさがりなあなたがそれをした事に驚いてるのよ』

『あの時はボクも“怠惰”の力が薄れてたからね~。それに男の子は“怠惰”への抵抗力が類を見ないほど強かったからあげちゃった』

『私が“色欲”の力を与えたのと同じように?』

『うん』


 ローリーが【魔女が紡ぐ物語トライアルシアター】を展開して同化していたのを、あの男の子達が倒してくれたお陰で私の支配するダンジョンに移動し合流する事ができた。

 その時にどうやらローリーは私と同じように“怠惰”の力を与えたようだけど、普段だったらこのめんどくさがり屋は絶対にしないのに。

 それを考えると運がいいのか悪いのか。


『私があげた力がキッカケでレベルに見合わないダンジョンに行かされたみたいだから、ちょっと悪いと思ってたのに、これでさらに面倒な事になりそうね』


 私達にとっては、他の子達がローリーと同じような現状から解放してくれるかもしれないのだから嬉しいのだけど、実力が乖離している場所に行ってしまうのはこちらとしては不本意だわ。

 把握している限りでは、その力を求めて日本の外からわざわざ人が来て接触しているようだし……。


『別に構わないではないですか。あの程度の者達のことを主が気にする必要などありませんよ』

『黙りなさいアンリ。私はそういう考えが嫌いなのよ』


 黒猫の姿しているアンリを睨みつけてそう言うと、頭を下げて謝ってきた。


『それは失礼。しかしローリー殿の力を与えられたからといって、そんなに面倒な事になりますかな?』

『それはどういう意味?』

『ローリー殿が与えた力、“怠惰”は安全地帯同士を繋ぐ転移能力。

 つまり安全地帯を2箇所作る必要があり、他の冒険者はその恩恵を受けるために彼らを必死で守らなければいけない。

 ハッキリ申し上げてそこまで命の危険がありますかな?』

『今回その状況で命の危機は十分あったわよ』

『ですがまではなかったのでしょう?』


 それはそうなのだけど、あの子達が周りの事情に振り回されのも、他の魔女の子達がいないダンジョンに連れ出されるのも嫌なのよ。

 万が一があったら、せっかく力を与えたのに無駄になってしまうわ。


『心配しなくても何とかなるよ~』

『あなたは相変わらずお気楽ね、ローリー』


 私はため息を吐きながら、ローリーと会話するために高めた性欲を静めるために行動を開始することにした。

 まあ私達ができることなんてほとんどないから仕方ないわよね。


 ◆


≪彰人SIDE≫


「協力してくれって?」

「そうさ。お願いできないかな?」


 そう頼み込んできたのは少し前にお互いを知り合った魔法使い、いや、今は魔術師と呼ばれている人間の1人、白石桜だ。

 その彼女がボクに両手を合わせて頭を下げて面倒な依頼をしてきたんだ


「嫌だよ。どうしてボクがわざわざ動かないといけないんだい?」

「でも君、その道のプロフェッショナルじゃないさ」

「別に道を極めたわけじゃなくて、ただの種族特性なんだけど」


 人間が立って歩くのと同じだよ。


 ボクは面白おかしく生きたいのに、なんでボクに何の関係もない人間の所にいかないといけないんだ。


「でも彼が日本からいなくなると、鹿島達が困る事になるよ?

 なんせセットで運用されるならともかく、バラバラで行動されたら本当に死にかねないさね」

「それを言われると考えさせられるものはあるけど、蒼汰達の方はどうするのさ?」

「それは問題ないさね。?」


 ……はぁ~。


「まあね。そっちもキチンと把握しているようで何よりだよ」

「それは当然さ。情報を集めた結果、鹿島達の方を手薄にしてでもを守らないといけない。

 私も向こうに付いていないといけないから、しばらくは学校休まないといけないさ」

「はいはい分かったよ。その分報酬は弾んでもらうからね」

「お任せあれ~」


 しょうがないとはいえ気が進まないね。

 少なくとも拘束期間はそこまで長くないようだから、そこだけは幸いかな。


「それにしても魔術師の君らまでこんな事で動くのは意外だね」

「国に雇われてるからこういう話が持ち込まれることもあるさね。特にダンジョン関連は魔術師にとっても他人事じゃないんだよ」


 魔術師といっても、国に雇われてると公務員とさして変わらないね。


「それじゃあお願いするさ。彼を、矢沢恵をハニトラから守るために力を貸して欲しい」



 ◆


≪矢沢SIDE≫


「しんどい……」

「あら大丈夫なのぉん?」

「どうしてこんな事に……」


 心配してくれているケイにまともに返事もできずに、自分は机にうな垂れていた。


「恵の力が必要だという国が多いんでしょうねぇん。外国からの転校生30人ぐらい来てることを考えると、どんな手段を使ってでもあなたを確保したいんでしょ」


 校長が【魔女が紡ぐ物語ミノタウロス】に囚われた自分達を助けるために、色んなところに借りを作ったせいで転校生を断れなかったとはいえ、もう少し減らしてくれればこんなに気苦労しなくてよかったのに……。


「分かるよ。分かるんだけどさ……」


 死んでも生き返れる能力が自分しか持っていない事を考えると、そりゃ欲しいのは分かるよ。でもね――


「女の子から迫られるのはともかく、どうして男にまで迫られないといけないの!!?」

「望まないハニトラほど悲しいものはないわねぇん」


 外国からきた男女に絡まれててキツイ。

 よく知らない人から無駄にボディータッチされるのは、本当にストレス溜まるよ。


 女の子にならまだいいとして、男が誘う様な感じで触らないで欲しい。

 いくら自分の見た目がこれ女装だからって、男の子は恋愛対象に入らないよ。


「しかも学校内だけでなく、〔ミミックのダンジョン〕へ移動している外でも大人から子供まで迫ってくるんだからもう嫌だ」

「護衛の人が追い払ってくれてるけど、いつまで続くのかしらねぇん?」


 ……誰か、助けて。



ーーーーーーーーーーーーーー

・あとがき

ラーテさんがまたしてもファンアート描いてTwitterにあげてくださいましたよ。

今度は咲夜で、蒼太を殴りに行ってる時の姿です(笑)

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