第7話 前段階

  

≪蒼汰SIDE≫


「おい見たか蒼汰。彰人のやつ、しばらく休むってよ」

「えっ、それホント?」


 いつものように校門のところで挨拶運動を終えて教室に来たら、大樹から寝耳に水な話を聞かされて驚いた。


「彰人が僕らみたいにダンジョンに行くわけじゃないだろうから何で休むのか全然想像もつかないんだけど、何か聞いてるの?」

「いや全然。今さっきその連絡が来て驚いたところだ。

 ラ〇ンのグループで連絡来てたから蒼汰も見てみろよ」


 そう言われて僕はスマホを見てみると確かに彰人から『1週間ぐらい学校にいけなくなった~』とメッセージが入っていた。

 いや、もうちょっと詳しい理由を教えてよ。


 大樹もそう思ったようで、その後に『なんでだ?』と送り返しているが『ひ・み・つ』と人を小馬鹿にするスタンプが返って来て詳しい事情が分からない。


「教える気0だよね」

「今度学校に来たら一発しばく」


 なんで学校に来れなくなったかを聞き出そうとするのではなく、スタンプに対してムカつくから殴るってあたり大樹らしい。

 僕が逆の立ち場で話しづらいことだったら、こういう対応は大変ありがたい。

 僕もスタンプにはムカつくのでどつくけど。


「それにしてもタイミングワリいよな。今週末に文化祭だぜ」

「あれ、そうだっけ?」

「おいまじか。今週は午前授業だけで、午後からは文化祭の準備をすることになってただろうが。1年前もそうだっただろ?」


 記憶にございません。

 1年前といえば丁度今年もやってる毎年恒例のヒロインフェスのガチャで、〈全キャラ出るまでガチャを回すのを止めない〉とかやってたかな?

 脳が良い感じに溶けててヤバかったのだけは覚えてるよ。


 授業が午前だけで終わるのは楽でいいけど、冒険者学校といい、Sランクダンジョンの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】といい、授業をまともに受けてないからこれでいいのかと思わなくもない。

 その分補習はしているし、一応授業についていけてるから問題はないのだけど。


「午後から文化祭で何するか決めるらしいが、蒼汰は何かしたいのあるか?」

「ガチャ」

「それはお前だけだ」


 何故? ガチャを回すこと以上に幸福な事はないよ?


 ――キーンコーンカーンコーン


「おっと時間か。1人1つ何するか紙に書いて集計するらしいから、何か考えとけよ」


 そう言われてもな~。

 課金体験? いや、それは僕ができないからダメだな。


 特に何も思いつかないからどうしようかなと思いながら、僕は午前中の授業を受けた。


 ◆


「それじゃあお前らで好きに決めちゃいな。おじさんは寝てるから、決まったら起こしてよ」

「ホントに教師かあんた。はぁ、それじゃあ言ってたように意見集めるから、何がしたいか今から配る紙に書いてくれ」


 やる気なく気だるげに全てをクラス委員に任せてガチで寝始めた大林先生を後目に、委員長の坂下君は諦めたように進行を開始した。


 意見を書いた紙はすぐに回収されていく。

 僕はもうめんどくさくて祭りとかでよくある〈たこ焼き屋〉にしたけど、どんな意見が出たんだろうか?


【飲食】

 ・サーティ〇ンのアイス

 ・タピオカ屋

 ・チュロス

 ・たこ焼き

 ・クレープ

 ・ワッフル

 ・パンケーキ

 ・チョコバナナ

 ・コスプレカフェ

 ・焼きそば

 ・肉巻きおにぎり


【エンタメ系】

 ・お化け屋敷

 ・コーヒーカップ

 ・縁日

 ・謎解き

 ・等身大リアル人生ゲーム


【ショー系】

 ・“男女逆転"ファッションショー

 ・歌うま&歌へた選手権

 ・ミュージカル

 ・動画上映



 さすがにクラス全員が意見を出すから出るわ出るわ。

 ただ【飲食】の中だと〈コスプレカフェ〉は異彩を放ちすぎてると思う。大樹の意見か?

 それに【エンタメ系】の〈コーヒーカップ〉とかどうすんだよって話だけど、どんな意見も全て黒板に記載してるあたり、委員長は真面目だな。


「さて意見がだいぶ出たが、ハッキリ言っていくつか難しいアイディアはある。特にこの〈コスプレカフェ〉は最たるものだ」

「なんでだ!?」


 やっぱりお前か、大樹。


「〈コスプレカフェ〉をやるとなると様々な種類の料理を出さないといけない上に、コスプレ衣装も用意しないといけないからだ。

 その2つを同時にやるのは予算的にも難しく、やれるとするならどちらかだけだな」

「なら〈コスプレ鑑賞会〉で!」

「ならありだ」


 ありなのか?!


「ソフィアさんのコスプレが見たい!」

「同意する」


 大丈夫か、この委員長?


「ははっ、日本の学校は中々愉快だね~」


 ソフィアさんは全く気にしていない様子なので大丈夫か。


「さて後問題があるのは……〈コーヒーカップ〉もか。どうするんだ?

 そんな機材を借りるのは金がかかると思うが」

「男子が人力で回せばよくね?」

「ならありか」


 ホント大丈夫か、この委員長?!

 え、回すの? あれ人の手で回すの?


「他だと〈ミュージカル〉と〈動画上映〉だが、今から台本用意するんじゃ間に合わないぞ」

「〈ミュージカル〉の台本ならちゃんとあるわ。この【男達の薔薇の園】を演じてくれればいいから」


 タイトルが不穏すぎる。

 ねえそれちゃんと全年齢対象作品なの?


「動画も大丈夫っしょ。別に何かを演じるわけじゃなくて、バカカッコいい動画撮って流すとかどうよ?」

「なるほど。なら2つともありだな」


 明らかにヤバそうな〈ミュージカル〉も通っちゃった?!


「よし、なら投票だ。この中で一番得票数の多かったものが、このクラスの出し物になるからな」


 頼むから〈ミュージカル〉にだけはならないでくれ……!

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