第8話 決まったのは

 

「それではこの企画に決定だ。みな張り切って頑張ろうじゃないか」

「「「おー!!」」」

「おー……」


 大樹のテンション低いな。

 でも仕方がないかもしれない。

 なんせ大樹の意見の〈コスプレ喫茶〉もとい〈コスプレ鑑賞会〉は選ばれなかったのだから。


 男子の何人もがそれを選ぼうとした。

 しかし大樹の発案のせいか女子が警戒して、その票が全く入らなかったのだから仕方ない。


 女子の何人かは膝から崩れていた。

 それも仕方ない。

 なんせ男子の票は一切入らなかった、〈ミュージカル〉【男達の薔薇の園】が選ばれなかったんだから。


 いやホントそれが選ばれなくて良かった。

 ターゲット層がピンポイント過ぎて、これを見たがる人どんだけいるんだよ、ってところは置いとくとして、それを演じる羽目にならなかったのにはホッとした。


 それでは何が選ばれたか。

 男女の票が一定数入ったもの。それは――


「それでは〈動画上映〉の準備について詳しく決めていこうと思う」


【ショー系】の〈動画上映〉


 よくよく考えると飲食店だと当日めんどそうだし、これなら4、5人程度教室に残って順番に回して行けばいいから楽そうだし面白そうだということで選んだのだけど、そう思った人が僕以外にも何人もいたようだ。


「くそう。なんで〈コスプレ鑑賞会〉じゃないんだ……!」


 まだ未練がましく呻いている大樹に委員長は近づいていき、その肩を叩く。


「決まった事だから仕方ないだろ。それに希望を捨てるもんじゃない」

「何だと?」

「〈上映〉だぞ? コスプレ衣装を着てもらって動画を撮ることだって出来るじゃないか」

「その手があったか……!」


 何言ってんの委員長?


「それ、拒否されたら終わりじゃ――」

「よし、そうとなったら気合入れて準備するぜ!」


 どうやら僕のつぶやきは届かなかったようだ。南無三。


 着てもらえるかはともかく、わざわざコスプレ衣装を用意するなら一応言っておかないと。


「委員長、ちょっといいかな?」

「ん? どうした鹿島」

「僕のユニークスキルでコスプレしてもらう事が出来る事を報告しとこうと思って」

「なん、だと……!?」


 何でそんな驚愕の表情をしてるんだよ。


「だ、誰にでもか……?」

「冒険者だけだけど」


 ステータス画面が開けるのはダンジョンでレベル上げした事のある人だけだし。


 このステータス画面、冒険者になる時の講習で教えられるがままに使ってたけど、よくよく考えたら不思議だよなぁ。

 ダンジョンでレベル上げしたらステータス画面が使える様になるとか、なんでそんなシステムになってるんだろ?


 ……もしかしてエバノラがなんかやったのかな?

 ゲームとか好きみたいだし、ほくそ笑みながらそういう設定にしてたとしてもおかしくないね。


「冒険者だけか……。この中で冒険者の人は挙手してくれないか?」


 委員長がクラス全体を見渡しながらそう言うと、手が上がったのは大樹とソフィアさんだけだった。


「よし!!」


 ソフィアさんが手を挙げたのを見て、委員長めっちゃガッツポーズしてるし。

 よく見たらクラスの男子、密かにこぶしを握って喜んでいるか、スタンディングオベーションしてるかのどちらかだった。


「では性能を見たいから、早速ソフィアさんとオマケに森は協力して欲しい」

「いいよ」

「分かったぜ!」


 大樹、オマケ扱いされてるけどソフィアさんのコスプレ姿が見れるからか、全く気にしてないな。


「じゃあまず2人はステータス画面で僕とパーティーを組んでくれない?」

「分かったぜ」

「OK」


 2人とパーティーを組むことが出来た僕は[チーム編成]のスキルを見ると、2人がチームメンバーに登録されているのを確認した。

 服の登録さえしなければ全裸になることはないので問題ない。

 2人の情報が表示されている画面の箇所にあるコスチュームチェンジのボタンを、2人に着せるコスプレを選んでからタップする。


「うおっ」

「わっ」


 2人の全身がキラキラと輝きだし、あたかも日曜朝の魔法少女のごとき変身を遂げた。


「へぇ、ワタシはメイド服か。結構本格的で可愛いね」

「いや、ちょっ、なんでオレはコレなんだよ?!」


 ソフィアさんは上機嫌に、大樹は文句を僕に向かって言ってきた。


「さっきまでと大差ねえじゃねえか!?」

「ゴメン、それ学生服だった」


 初級学生服(メガネ付)は知能100%上昇させるから、ある意味大樹にピッタリだと思っちゃったんだよね。

 というか、男が着れるのってこれかもう1つしかないんだけど。

 僕はそのもう1つを選択して、大樹に再びコスチュームチェンジを行う。


「男が着れる服って学生服かそれしかないんだよ」

「執事服か学生服の2択ってラインナップ少ないな」


 大樹はそう言いながら自身が今着ている執事服の首元を弄りながらそう答えてきた。

 サイズはピッタリなはずだけど、かしこまった恰好で首の辺りを少し窮屈に感じているのかな?


「まあ男の着れる恰好なんてどうでもいいか。それよりもソフィアさんのメイド姿最高じゃねえか!」

「ふふっ、ありがとね。ところでソウタ。このコスプレ衣装、何か効果があるのかな? なんだか体が軽い気がするんだけど」

「よく気が付いたね。そのメイド服だとあらゆる能力が10%上昇する効果があるよ」

「っ!? 全部が10%も上がるの……。(でもこれだけの能力とは思えないし、《アイドル》と同じデメリットスキルであることを考えると、デメリット以上の効果を他に持ってると考えても良さそうね。安全地帯にばかり目がいっていたけど、本人自身の能力もかなり使えるんじゃ……)」


 ソフィアさんが何やらブツブツと呟いて考えだしたけど、どうしたんだろうか?


「蒼汰、他にどんなコスプレをソフィアさんにさせられるんだよ? もうこの際全部見てこうぜ」


 それ、大樹が見たいだけじゃ――


「「「同意する!!」」」


 委員長と他の男子達も声を揃えて賛同してきたよ。

 いや、ソフィアさんにキチンと確認を取るべきでしょ。


 チラリとソフィアさんを見ると、視線が合い頷かれた。


「ワタシは全然構わないよ。ついでにどんな効果があるかも教えてくれると嬉しいな」

「よっしゃー! 蒼汰、ドンドン見せてくれよ!」

「「「うおおぉー!!」」」


 大樹他、クラスメイト男子のテンションが上がりに上がっていた。

 本人がいいならいいけど、まだ見せてないものって言っても3つしかないよ?


 あまりコスプレ衣装を持っていないことを考えると、文化祭に活用するには微妙かなと思いながら残りのコスプレ衣装をソフィアさんに着せていった。

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