第9話 文化祭前日

 

 月曜に文化祭の準備が始まり、あっという間に金曜日となった。

 明日から2日間、文化祭が行われるからか校内の雰囲気は高揚しており、教室内を見回してもみんなどこか浮足立っている様子だった。


「この5日間で随分と校内の様相が変わったねえ」


 色々な展示物や飾り付けが施されてあったのを思い出し、明日には文化祭が始まる事をより実感させてくれる。


「ソウタの言う通りだね。いや~転校してきたばかりでいきなりこんなお祭りに参加できるなんてラッキーだったよ」

「……そうだね」


 校内案内をしている内にある程度仲良くなったソフィアさんには割と高頻度で声を掛けられるようになった。

 校内を案内する時に、同じ冒険者としてダンジョンという共通の話題から色々と共感を得たりしたのも仲良くなった要因なんだろう。

 ただ――


「距離、近くない?」

「そうかな? アメリカじゃこのくらい普通だよ」


 仲良くなったにしては異様なまでに距離が近い気がする。


 具体的には大樹以上乃亜達未満だ。

 乃亜達の距離感が0であることを考えるとくっついてないだけマシなんだろうけど、時々息のかかるくらい近くにいる時もあるからビックリしてしまう。


 凄いなアメリカ!?

 異性間でただの友人相手にここまで距離感が近いモノなのかと驚いてしまうよ。


 僕がソフィアさんの距離感に驚いていると、黒板前に集結した男子達が何やら話し合いを始め出した。


「最後に鹿島の処刑動画撮ろうぜ。お前らどんな方法でやる?」

「串刺し」

「ファラリスの雄牛」

「腹裂き」

「タイヤネックレス」

「凌遅刑」

「八つ裂き」

「皮剥ぎ」

「鋸挽き」

「釜茹で」


 殺意しかねえ!?


「おいおい馬鹿だなお前ら。それじゃあ蒼汰が死んじまうだろ?」


 おおっ、大樹だけはさすがにそこまでの殺意は――


「死んだらこれ以上苦しみを与えることができねえじゃねえか。でも凌遅刑は中々いい案だな」


 一番殺意高いな。

 何度も苦しませてやるぜって、一思いにやらないあたりやべぇ。


「集団鬼ごっこで捕まったら縛り上げて適当な邪神に生贄動画が無難か」


 無難さの欠片も無ければ、本人の了承も得ずにそんな動画を撮ろうとしないでくれませんかね?

 放課後前のホームルーム前だけど、ここは教室を抜け出して乃亜達3人の内誰かに保護してもらわないといけないか、そう考え始めた時だった。


「お前ら、馬鹿な事は一旦中断して席に着けー」


 大林先生が教室に入ってきてみんなを止めてくれた。

 ふぅ、助かっ……、いや中断じゃなくて中止にしてくれませんかね!?

 これ助かってないよ。

 私刑動画撮影の続きが始まる事になるんだけど、教師ならキッチリ止めさせてよ!


 僕の心の訴えや無言の抗議の視線など一切気にせず、大林先生はいつも通り気だるげにホームルームを始め出した。


「それじゃあ明日から2日間、文化祭が行われるから適当に頑張んな」


 本当に教師かと言いたいくらいやる気のない態度である。いつもの事過ぎて慣れてしまったけど。


「招待状のない外部の人間は入れないから渡した人には注意するよう言っとけよ。

 前に配ったのは君らの家族向けだから、家族以外にも招待したいやつがいたらおじさんに言いに来ること。

 でも家族以外のを用意するの面倒だから絶対来るなよ」


 いやどっちだよ。

 学校側から生徒に伝えるよう言われたから渋々伝えた感丸出しじゃないか。

 まあ学校側としてもこんなにギリギリなのは、できれば家族関係以外の人物は来ないで欲しいとでも思っているからなのかもしれない。


「連絡事項は以上。んじゃ解散、おつかれ~」


 言うべき事を言ったからか大林先生はさっさと教室を出ていき、残されたのは女子生徒と僕と処刑人達だけだ。

 ……あれ、おかしいな?

 いつの間に男子達はそんなコスプレをし始めたんだ?


「「「さあ動画を撮ろう!!」」」

「誰が撮るか馬鹿野郎ども!?」


 ソフィアさんが転校してきてくれてしばらくの間は乃亜達と何してても無風状態だったのに、ソフィアさんと仲良くなったせいか、たまに起こってた度を越した異常な絡みがまた起きるようになっちゃったよ。


「ソウタ、ワタシにチャイナ服を着せて」

「え、はい?」


 何を言っているかは分からないが、既に教室の出口が封じられておりなす術はないので、ソフィアさんの言う通り[チーム編成]のスキルでチャイナ服を着せた。


「「「おおっ!」」」


 チャイナ服はズボンのあるものなので露出が少ないけれど、それでも男子達の視線はそちらに集中してくれた。

 動画撮影の時に散々見ただろうに、それでもそこに視線が向くのは男の性か……。


 さて、警戒度が下がってる内に教室からなんとかして脱出を――


「じゃ、行こうか」

「へっ?」


 どうやって近づいたのかいつの間にか僕の隣にソフィアさんは立っており、呆けた一瞬で気が付けばお姫様抱っこで抱えられていた。


「それじゃあちょっと衝撃来るけど我慢してよ」

「はいっ?!」


 ソフィアさんは僕を抱えたまま、教室の扉の逆、窓の方へと駆けてそのまま飛び降りてしまった。


「いや、ここ3階!?」

「喋ると舌噛むよ?」


 ダンッと着地の音と共に衝撃が身体に伝わって来たけれど、怪我一つなく地面に降り立つことが出来たようだ。


「くっ、逃げられた! 追うぞお前ら!!」

「さてどこかに隠れないとね」


 3階の教室の窓から聞こえてくる声に、ソフィアさんは楽し気にしながら僕を抱えて走り出し始めた。

 ……え、お姫様抱っこで周囲に見られながら逃げるの?!

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