第28話 分岐の結果

 

≪蒼汰SIDE≫


 〝鍵〟を使用するために〈ガチャ〉の空間に戻って来た僕らの前にはこの世の地獄が広がっていた。


「課金は食事と同じ! でもここでは食事する必要ないから課金が食事。つまり課金は必須!!」

「HPがあるうちは無課金」

「あなたは息を吸いますよね? そう。つまり課金は生きるのに必要な呼吸」


 狂ってんなぁ。


「なっ、これは課金システム!? もう導入されてしまいましたか」

『あ、これが乃亜が言っていた課金システム?』

「はい。ホーム画面にある〈課金〉の項目をタップすると、最大HP1に対し1ポイント貰えます。

 この世界から出ればHPは元に戻りますが、そんな事は関係ありません。

 このシステムの恐ろしいところはわたし達自身とキャラクターが連動しているため、HPが1の状態で敵と戦えば、交互に攻撃をし合うシステム上一撃で敵を倒さない限り必ず負けます」


 運営側クレイジーテラーが確実にこちらを殺してくるためのえげつないシステムだ。


「なるほどね。〈ガチャ〉を回すことに一心不乱になっていたら、キャラクターと連動している事を忘れてあんな感じで限界まで課金し、最終的にポイントを求めて敵に挑んで死んでしまうわけね」

「その通りです。先輩以外の全員が〈ガチャ〉に夢中になっていました」


 冬乃がスマホに夢中になってる冒険者達を指さし、それに対して乃亜は頷いていた。


 う~ん、あんな風に乃亜達がなるなんて想像もつかないなぁ。

 おや?


 自分達があんな風になっていたかもしれない事に少し恐怖を覚えているような様子の冬乃達に、フラフラとこちらに近づいてくる何人かの冒険者達がいた。


「やあ」


 この人達は他の課金中毒者達と違い、こちらが警告した際きちんと話を聞いてくれた人達だった。


「君達の言う通りだったよ。私は控えめに回していたんだがそれでもこのざまだ。

 ガチャが、ガチャが回したくて仕方がないんだ……!

 少しでも気を抜けばスマホを手に持ち、〈ガチャ〉の画面を開いているんだ。もう回すためのポイントもないというのに。

 これはダメだと出口に向かおうとしてもウサギと猫に邪魔されて出れないし、これはもう課金する――違う! なんとかまだ耐えられている間にここの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を攻略する手立てを見つけないと……」


 耐えられていると言うけれど、もうかなりギリギリのようだ。

 垣間見える課金してでもガチャを回したい衝動に襲われているのが見て取れた。


 代表で喋っているこの人以外にも僕らの忠告を聞いていた人達は同じように課金はしないでいるけど、それもいつまで持つ事やら。


「あの……でしたら協力しませんか?」

「協力?」


 協力とは一体どういう事だろう?

 乃亜の発言に冒険者の人達は僕と同じように疑問に首を傾げていた。


 そんな若干困惑している様子の冒険者達に対し、乃亜は畳みかけるように提案しだす。


「幸いにもガチャはこの空間でしかできません。ですから敵と遭遇しますがこの場所から離れるのはどうでしょうか」


 乃亜の提案に冒険者の人達と一緒に思わず目を見開いてしまう。

 ここがこの世界の中心であるがゆえに戻ってこないといけないと思い込んでいたけれど、よくよく考えれば〈ガチャ〉を回せない環境にいた方がいいのなら、むしろここから離れる方が得策だったか。


「なるほど。そんな簡単な事にも気づけなかったなんて……。しかし協力というのは?」

「はい。わたし達は〈ガチャ〉に頼らずに〝鍵〟を手に入れられました。どうやったかを詳しくお伝えしますので、見返りとしてボスを見つけたらわたし達にもその居場所を一度教えて頂けませんか?」


 なるほど。

 黒い渦はいくつもあり、それが確実にボスのいる場所に繋がっているか分からない以上、人海戦術で居場所を把握するつもりなのか。


 ボス相手に戦闘してはいけないという情報のアドバンテージは失うけれど、代わりにボスがどこにいるのか分かれば挑みやすくなる。


 ただ目の前の冒険者の人達が【典正装備】欲しさにボスを見つけても教えてくれない可能性もあるんだけど、そこは信用するしかないのかな?


「……悪くない提案だ。

 おいお前達。分かっていると思うがボスを見つけた後、その情報を秘匿するような事をするなよ。

 私達にはんだから」

「「「ああ、分かってる」」」


 代表で喋っていた冒険者の人の後ろにいた10人が一斉に頷いていた。

 時間がない?


「時間がないってどういう事なんだい?」


 ソフィアさんも疑問に思ったのかそう尋ねると、冒険者の人は苦し気に自分の手のひらを見ながら恐怖におののいている表情を浮かべた。


「分かるんだ。私達がいくらここから離れようとも、この増幅していくガチャ欲にいずれ抗えなくなる時がくるということを……!」


 字面で見ればシュールでただの課金中毒者みたいだけど、この状況だと割とシャレになってないよね。


「もういつあそこにいる連中の仲間入りを果たして、あそこのカウントの数字になるか分かったものじゃないんだ」


 乃亜から説明を受けていた死亡カウンターにはすでに129とあり、今もその数字が少しずつ増えていっていた。


「だから頼む。全力で協力させて欲しい。

 【典正装備】なんてどうでもいい。誰でもいいから早くこの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を止めて欲しいんだ!」

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