第29話 悲しき生物

 

 他の冒険者達の協力を得てから僕たちの動きは早かった。


 特にいてもいなくても変わらない僕(悲しい)が〈ガチャ〉の空間で待機し、誰かがボスの居場所を見つけたら僕の所へと報告、案内をして、残り4体全てのボスの居場所の把握をした。


 ……もっともそれには多大な時間がかかり、乃亜達が自身のキャラクターを強化するのに十分な時間であり、そして――


「もう……ダメだ。ガチャだ、ガチャだ!!」

「ヒャッハー! この想いはもう誰にも止められねえぜ!!」


 協力者の内、2人の犠牲者が出るだけの時間でもあった。

 それに加え、死亡カウンターも3050とほとんどの人間が死んでしまったことを指し示していた。


「もうこの世界に残っているのは私達だけってことなのね」

『ですが冬乃さん。ゆっくりしている時間はないのです。外から人が入ってきてこれ以上被害が増える前にこの試練を突破しないといけません』


 割と冗談みたいな死に方で大量の死人が出ているのだけど、到底笑える事ではなかった。

 ボスの居場所が分かるまでにすでに丸一日費やしており、【Sくん】の被害は広範囲になっていることだろう。


 これだけの時間を使って未だに解決できていない上に、僕ら以外既に死んでいるから定期連絡などない以上、また人が送り込まれてもおかしくはない。

 だから急いで解決しないといけないのだけど――


「でも肝心の【アリス】がまだ見つかっていないのが問題ですね」


 そこが一番の問題だった。


 こんな大規模な空間であるにもかかわらずボスはすんなり見つかったのに、何故か【アリス】だけは影も形も見当たらないのだ。


「どうするべきか。【アリス鹿島先輩】を見つけられなければ、ボスからいくら〝鍵〟を手に入れてもムダなのだろ?」

「でもこれ以上探したところで時間がかかるだけなら、先にボスから〝鍵〟だけでも手に入れた方がいいと思う。

 それに協力してくれたこの人達も、もうこの通りだし」

「「「ガチャーーー!!」」」


 ソフィアさんの視線の先にはロープでグルグル巻きにして身動きできなくした協力者達。

 徐々に酷くなるガチャ欲のせいで目を離した隙に2人の犠牲者が出たことで、身動きできなくすることを提案。

 それを受け入れた彼らは縛られた後、時間が経つにつれてまともに会話も出来なくなっていき、最終的に『ガチャ』と叫びながらビチビチと魚のように跳ね回る悲しき生物にジョブチェンジしてしまったんだ。


「そうよね。このままじゃ何も進展しないままだし、もしかしたら〝鍵〟を手に入れる過程でヒントが手に入るかもしれないものね」


 冬乃がそう言って賛同したのを皮切りに、全員がまず〝鍵〟を手に入れる事に賛成した。


『では2チームに分かれて〝鍵〟を手に入れるのはどうなのです?

 まだ4つもあるのですし、全員がまとまって動くよりも効率よく二手に分かれて手に入れるために動いた方がいいと思うのです』

「確かにそうだね。ワタシ達はガチャを回さない以上ポイントが十分あるし、万が一やられても復活できるからその方がよさそうだ」


 アヤメの提案にソフィアさんがのってきた。

 危険じゃないかと言おうとしたけど、ソフィアさんの言う通り復活できるからそこまで心配する必要はないかな。


 そんな訳でバランスを考えた結果、乃亜、ソフィアさん、冬乃の3人、咲夜、オリヴィアさん、アヤメ、オルガの4人でボスへと挑戦することになった。

 ……僕は?


「蒼汰はここで連絡係ね」

「万が一、他の人がこの世界に入ってきた時には〈ガチャ〉を回さないよう警告してあげてください」

『あ~うん。まあそれも大事だよね』


 一緒に行ってもほぼほぼ戦力外なのは分かるし、誰か1人はここにいて入ってきてしまった人と遭遇した場合、警告しないといけないのも分かる。

 それに二手に分かれる以上、乃亜達の方か咲夜達の方のどちらかが〝鍵〟を取得したりした場合など、僕がここにいれば言伝を残せるのだから、そういう点で考えてもここに残った方がいいのは分かる。けど――


『僕がここに残っても【Sくん】と思われるだけなんじゃないかな?』


 僕の見た目は【Sくん】そっくりなので、そんな存在に警告されても不審がられるだけな気がするよ。


「警告に関しては出来ればでいいんじゃないかな? 主な役割としてはワタシ達を繋ぐ役目だし」

「ソフィアさんの言う通り。だから蒼汰君は気にしなくていい、よ」

『ぶっちゃけご主人さまは試練にほとんど関われないのですから、どうしても困った場合の相談役ぐらいしか役目がないのです』


 アヤメ酷くね?

 いや、確かにこの試練が始まってからほとんど賑やかし要員にしかなってない気もするけれど、もうちょっと言葉を選んで欲しかった。

 ご主人さまと呼ぶ相手に対して投げかける言葉じゃないんだよ。


「それではボスから〝鍵〟を手に入れてくるので待っていてください先輩!」

『ああ、うん。人が来るか分からないけど、来たら一応忠告だけしとくよ』

「はい。お願いしますね」


 乃亜達は二手に分かれてボスのいる場所へ向かうために黒い渦へと潜っていった。


「「「ガチャーーー!!」」」


 …………え、この悲しき生物達と一緒にいないといけないの?

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