第18話 模擬戦(7)


 自分達の身に何が起こったのか理解できなかった。

 痛みなんて感じる暇もなく、一瞬で舞台の外に出ていた事に驚きを隠せない。


「……あ、乃亜大丈夫?」


 メイド服から元の服に戻っている乃亜が隣にいたことに気付き、呆然としていたので声をかけながら体を揺らしてみる。


「先輩……。はい、大丈夫です。……大楯を構えていたのに防御が全くの無意味だとは思いもしませんでした」

「そうでしょうね。舞台の外から見ていたけど、さっきの攻撃はまるで咲夜さんの〝神撃〟みたいだったわ」


 いつの間にか冬乃が近くにいて、先ほどの攻撃がどれほどのものだったのか教えてくれたけど、まさか〝神撃〟と似たような攻撃を受けていたとは思わなかった。


「この勝負は私達の負けかしらね。こっちはもう咲夜さん1人しか残っていないのに、向こうは3人も残ってるもの」


 舞台の水蒸気はとっくに晴れててよく見えるようになっており、冬乃が言う通り離れた所にいる1人でいる咲夜を取り囲むように海晴さん、智弘さん、省吾さんが徐々に近づいて行っている。


「そうでござろうな。拙者は残念ながらやられてしまったでござるが、数の上ではこちらが有利でござる。あの者の実力は直接戦った拙者から見るに相当強いのは分かってるでござるが、それでもあの3人を相手取って勝つのは不可能でござろうな」


 雄介さんも意外と近くにいて、腕を組みながら勝ちを確信している表情をしていた。


「そうだよね。だから咲夜に無理して戦わなくていいって伝えたいところだけど、〔絆の指輪〕が使えないんだよな~」

「〔絆の指輪〕は使用するのに色々制約があって微妙に不便でござるからな。あの舞台は同じ空間にあるように見えて、別の空間でござるから1人でも外に出たら使えなかったはずでござるよ?」


 確かに先ほど連絡取ろうとして出来なかったし、別空間なら制約の距離の制限に引っかかって使えなくなってしまったのか。

 それに別空間のせいか僕のスキルの恩恵は咲夜に届いていないようで、髪型はお団子ヘアーから無造作にポニーテールにした髪が左肩に乗っている状態へと戻り、服装も元の姿に戻っている。


「こうなったら咲夜先輩が出てくるまで待つしかないですね。先輩のスキルの強化も無くなってますからあまり無理しないといいんですが……」


 乃亜の言う通りだなと思って舞台を見ていると、咲夜がボソリと何かを呟いた。


「向こうがビームを撃ったなら、咲夜も人に試すのは危ない技を試してもいいよ、ね?」


 なんか不穏な事言ってる……。


 僕らがやられる時には水蒸気が晴れてたのか、ビームでやられたところを見ていたみたいだけど、一体何をする気なんだ?


「咲夜の[鬼神]に派生スキルはないけれど、〝神撃〟のように本能的に使える技はある。でも今からやるのは咲夜が漫画を見て練習した技――〝臨界〟」


 上半身を前に倒して体を脱力させた咲夜の体が徐々に変化していく。


 茶髪だった髪は真っ赤に染まり、白かった肌もそれに追随するかのように褐色へと変わっていく。

 さらに額からは特徴的な大きな2本の角が生え、完全に鬼の姿へと変化した。


 あの姿をマジマジと見たのはスタンピード以来かな?

 いつも一瞬だけ使うから、肌の色が少し変わる程度にしか変わらないし。


「なっ、なんでござるかなあれは?!」


 雄介さんも目を見開いて驚いており、舞台にいる他の3人も同様に驚いているけれど、僕らにとっては見た事のある姿なのでなんとも思わない。


 あれではただ[鬼神]を全力で使用しているだけでは?


 そう思っていたら、そこからさらに変化していた。


「え、咲夜さん!?」

「咲夜先輩!?」


 咲夜の体が青白いオーラで纏われて、有り得ないほどの熱気が体から出ているのか湯気のようなものまで見える。


「な、なんだそのスキルは!?」


 智弘さんが驚き声を上げたからか、咲夜は倒していた体を起き上がらせて正面を見据えていた。


「〝臨界〟は本来の使用限界時間が極端に短くなる代わりに、今までの何倍もの力を発揮できる。時間がないから、もう行く」


 ――ドンッ!


「……は?」


 まばたきはしてないはずだった。

 なのに遠くにいた僕でも到底目が追い付かない速度で移動しており、気が付けば海晴さんが蹴り飛ばされて舞台の外へと追い出されていた。

 しかもよく見たら海晴さんの腕が千切れ跳んでいて、腕だけが少しの間だけ舞台の上で残っており、蹴りの威力の凄まじさを物語っていた。


「省吾!」

「……[城壁生成]!」


 智弘さんの判断が早く、咲夜と省吾さんの間に巨大な城壁が出来て――


「邪魔」


 ――ドガンッ!!


 下からせりあがっている途中の城壁は、咲夜の拳1つであっけなく壊され人一人が余裕で通れる穴が空く。


「……[修ふ――」

「させない」


 穴を通り抜けた咲夜は海晴さんと同じ様に省吾さんを蹴り飛ばし、まるで野球ボールのごとく吹き飛ばす。上半身だけを……。

 威力の調整が上手くいってないのか、人体を引きちぎるほどの攻撃をしてしまう事に可愛らしく首を傾げているけれど、この戦いを見ている他の人はその可愛さなど一切感じていないとでも言うかの様な青ざめた表情をしていた。


「ボクは派生スキル[リチャージ]を発動。……ちっ、さらに派生スキル[リロード]を発動!」


 智弘さんの斜め上に浮かんでいたカードは1枚だけだったけど、[リチャージ]によっていきなり5枚に増え、さらに[リロード]によってカードが一瞬消えたかと思ったら、またすぐに5枚に戻っていた。


 [リチャージ]が手札補充、[リロード]が手札交換のスキルなんだろう。


「よし! ボクはカードを3枚生贄に捧げ、[ヘパイストスの千剣]を発動させる」


 地面から無数の剣先が突き出てくるけれど、咲夜はまるで気にせず剣にぶち当たりながら智弘さんへと接近する。


「これで終わり」

「そんな馬鹿な、ぐふぁっ!!」


 智弘さんが殴られた衝撃で気を失ったのか、舞台の上に倒れてしまった。


「最後は上手くいったけど……疲れた」


 咲夜がスキルを使用してわずか15秒ほどの出来事だった。

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