第19話 やっぱり外野からはそう見えていた


「拙者、早々にやられていて良かったでござる……」


 雄介さんは凄いホッとしたような表情をしながら、舞台から転送されて戻ってきた仲間達の姿を見ていた。

 特に酷い様子で青ざめているのが海晴さんと省吾さんで、片方は腕が千切れ跳んで、片方は上半身と下半身が分かれてしまう目に遭ったのだから当然なのかもしれない。


「模擬戦お疲れ様~。なんか色々凄かったね~」


 勝負が終わって1か所に集まっていた僕らのところに、このみさんを先頭に見学していた全員がやってきた。

 その集団の中で1人飛び出してきたのがいた。


「おいてめえ! ほとんど何もせずに乃亜達だけを戦わせただけじゃねえか!!」


 穂玖斗さんが僕を指さしながら、眉間にしわを寄せて怒鳴ってきた。

 まあ傍から見たら僕の行動はスマホをいじっていただけだから、そりゃ何もしてない様に見えるよね。


「しかも戦闘中にも関わらず乃亜とキスするとか、どういうつもりだコラッ!!」

「穂玖斗兄さん、あれはわたしのスキルが関係してるから。それに妹の恋愛に兄がしゃしゃり出てこないで」

「ぐっ、だ、だがそれはともかく何もしてなかった事には変わりないだろうが」

「先輩は直接戦えない代わりにわたし達を支援してくれているの。ただ立っていただけにしか見えなかったなら口出さないで!」

「だからって、ほぼ突っ立ってるだけだった奴に乃亜を任せられるわけねえだろうが!」

「それ、あたし達のパーティーの在り方を否定するんだけど、覚悟はいいのよねぇん」

「うげっ!?」


 いつの間にか穂玖斗さんの背後にやってきた和泉さんが、鋭い目で穂玖斗さんを見ていて、矢沢さんまで僕をかばう様に穂玖斗の前に出ていた。


「彼の気持ち、自分はよく分かるよ。支援するしか出来ない辛さが穂玖斗君には分かるのかな?

 デメリットスキルである以上レベルが低い間は他にスキルはないし、彼自身も冒険者には3カ月前になったばかりでレベルも低い。

 そんな状態で一定以上の戦闘に直接参加すればあっという間に倒されて終わる。

 彼はそれを分かった上で遠距離武器を用意していたのに、君はそれを否定するの?」


 淡々と言っているように見えて、矢沢さんの言葉の端々には怒気を感じる。

 和泉さんと矢沢さんの発言、今のと模擬戦前の会話から察するに――


「矢沢さんも支援タイプって事ですか?」

「うん、そうだよ。簡潔に言えば味方にバフを与えて、敵にデバフを与えられる感じだね」

「それは羨ましいですね。僕は味方にバフを与えるしか出来ませんから」

「なるほど。それなら今の模擬戦でほとんど対等に戦えた事の説明がつくね。……最後以外」


 最後は咲夜無双だったからな~。

 いつの間にあんな漫画の主人公みたいな技を覚えたの?


「このみ達から聞いたけど、カードを浮かべたり城壁を出したりした彼らは今3年生だけど、ダンジョンに潜り始めたのが結構早かったらしく、レベルも結構高いんだよね?」

「はい~。そう言ってましたね~」

「……ああ。ボクらがパーティーを組むようになったのは冒険者になってから半年以上経ってからだけど、スキルを得た次の月には全員がほぼ毎日ダンジョンに潜ってレベル上げをしている」


 少し茫然自失ぎみだったけど、回復してきたのか座り込んでいた姿勢から智弘さんは立ち上がって頷いている。


「そうなるとレベルも少なく見積もっても200以上は確実にあると言っていい。

 だけど鹿島君達は1人を除いてまだ冒険者になって1年も経っていないことから考えると、全員レベルも100ないんじゃないかな? レベル差があり過ぎると経験値が高い方に多く分配されちゃうし。

 なのに対等に戦えてたのは鹿島君のスキルのお陰だろうね」


 デメリットスキルで課金の出来ない要因だから、これのお陰で色々大変な事態も乗り越えてこれたと思うと何とも言えない気分になるけどね。


「スキルの詳細は知らないけれど、バフの効果がそのレベル差を覆すほど圧倒的に高いんだろうね。味方にバフを与えるしか出来ないなら、なおさらそれに特化しているのかな?」


 間違ってはいないね。

 自分に一切恩恵がない代わりに、乃亜達を強化する事だけに特化してる感はあるし。


「いや、ちょっと待って欲しい。それだけレベル差があったのに模擬戦を仕掛けたのは悪かったが、最後のあれは何だ? 彼が舞台の外に追い出された後、異常な強さで圧倒されたぞ」


 確かに凄かった。

 もしあれに僕の支援がのれば、大抵の敵は倒せるんじゃないかって感じるほどたったよ。

 それはそうと、智弘さんの疑問に答えるかどうかなんだけど、それは咲夜次第か。


 全員が咲夜に視線を向け、ちょっとオロオロしている咲夜に〔絆の指輪〕を使って問いかける。


『ここにいる人に魔素親和症候群である事は話してもいい?』

『あ、うん。大丈夫』

『それとさっきのあれって[鬼神]の応用ってことでいいよね?』

『そう。本来全力で[鬼神]を使用しても3分は持つのに、それを30秒で余力全てを使い切る技』


 ダンジョンでは使う機会がなさそうな大技だ。

 ただそれを使っても今動けるところをみるに、舞台から出れば体力まで元に戻る仕様のようだ。


 それはさておき、彼らに咲夜の事を説明しないといけない。


「えっと、咲夜は魔素親和症候群で普通の人より元々戦闘力があるんです。それに加え特殊なスキルも所持してるのですが、さっきのは30秒くらいしか使用できず、使うと1日は倒れてしまうスキルです」

「魔素親和症候群って、本当なのか!?」

「1000万人に1人の超レアな体質じゃないでござるか!?」

「その体質に加え、反動が大きくても効果の強力なスキルがかみ合ったんじゃ仕方ないでやんす……」

「……むぅん」


 相手パーティーは納得したのだろうけど、先ほどの事もあって精神的に疲れているのかうな垂れていた。

 それにしても省吾さん全然喋らないな。


 一応納得したということで、戦闘直後だし今日はもう休もうと言う事で寮へと移動。

 まだ穂玖斗さんが僕になにか言いたそうにしているけど、矢沢さんや和泉さんが牽制してくれているお陰で就寝するまで何も言われず出くわす事もなくて済んだ。


 こうして僕らの無駄に濃い冒険者学校の1日目が終わった。

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