第17話 模擬戦(6)

 

「「はあああ!!」」


 乃亜と智弘さんが雄たけびを上げながら、互いが持つ武器をぶつけ合う。


 ――ドガガガガガッ!!!


 その轟音は凄まじく、先ほどまでがドラム缶を叩く様な音だとしたら、これは工事現場の騒音レベルだ。

 2人の膂力の凄まじさが音でも十分分かるけど、視覚からの方がよりその凄まじさを実感できる。


 なにせ何をしているのか明確に見えないからだ。


 大楯と剣がブレた瞬間に轟音が僕へと届く。

 金属同士が連続でぶつかった音を感じ、そこでようやく何合も打ち合ったのだと理解する。

 この戦いに僕が入る余地はなく、構えていたスリングショットが左手で虚しく揺れる。


 こういう戦いを見ると、どうして自分には戦う力がないのかと考えてしまう。

 みんなを補助し、強化するのもパーティーには必要な役割で、直接戦う事は出来なくても間接的には戦っているとは言える。


 だけどどうしても思うんだ。

 みんなばかりに戦わせて申し訳ないと。

 自分にも何かしら戦闘手段が欲しいとどうしても思ってしまう。


 ……まあ、ないものは仕方がないから、今はレベル上げを頑張るしかない訳だけど。


 レベルを上げていけばいずれ戦える派生スキルとか、スキルスロットが増えるだろうし、それまでは自分の出来ることをしよう。

 差し当たって今は何とか乃亜の援護をしたいけど、どうしたものか。


 今も2人の動きが速すぎてスリングショットで弾を撃つ隙が無い。

 下手に撃って乃亜に当たったら、むしろ乃亜に隙が出来てそこを突かれるだろう。


「ボクは[速度強化]を発動させる」

「くっ、まだスキルを重ね掛け出来るんですか!」


 互角だったスピードが徐々に押され始めているのか、乃亜のメイド服の損耗が激しくなっていた。


 僕と乃亜の派生スキルを考える限り、これ以上乃亜を強化する方法はない。

 僕のスキルによる強化は戦闘前に全て行うものであり、せいぜいコスプレ衣装を変更するしかない。

 そして乃亜の派生スキルの内、戦闘力を強化するものは[強性増幅ver.2]だけ。


 先ほどの様に戦闘の合間ならともかく、攻撃しあってる時に己を強化する隙なんてないので、実質これ以上の強化は不可能だ。


 それに引き換え、智弘さんは時間が経つごとに浮遊しているカードが増えていて、攻撃や防御をしている最中でも己を強化出来る上に――


「ボクはカードを1枚生贄に捧げ、[かまいたち]を発動させる」

「きゃっ!?」


 直接相手を攻撃できるスキルまで使用できる。


 真空の刃が乃亜を切り裂いたのだろうけど、服が身代わりになったので乃亜自身にダメージはない。

 そして僕が乃亜の服を直せば完全に無傷と言えるんだろうけど、服を治す暇すらない連撃を繰り出してるせいで服を直す暇がない。


 今下手に服を直せば、その間乃亜はメイド服の恩恵、能力10%上昇のバフが無くなり現状なんとか耐えれているのに、一気にやられてしまう可能性が高い。


「これ以上の手札はそちらにはなさそうだね。ならこれで終わりだ」


 智弘さんの近くに浮かんでいるカードは1枚だけ。

 先ほどまでの行動から、他のカードを生贄にするほど強力なスキルが使えるのは分かってるから、それほど強いスキルは使えないはず……。


「ボクは派生スキル[ライフコスト]を発動。カードを生贄に捧げる代わりにHPを50%生贄に捧げ、[ディヴィニティーケルビム]を発動させる!」


 自分のHPを代償にする派生スキル?!

 いや、それよりも発動したスキルの方が問題だ。

 どのくらい強力なスキルか分からないけど、HP50%となるとカード3~4枚分の生贄だと考えると、凄まじい身体能力を得ることが出来る[フィジカルバーサーカー]と同じくらいか、下手すればそれ以上のスキルか?


「乃亜、少しでも妨害を!」

「はい!」


 今、智弘さんは足を止めてスキルを発動させている。


 1枚だけあったカードが砕けて周囲へと散らばるけど、智弘さんの頭上で光が収束し始める。

 効果が出るのに時間がかかるのかその場から動こうとしないけれど、このチャンスを生かさないわけにはいかない。


 僕は即座に乃亜の服を直して攻撃に備え、乃亜は大楯を投げて遠距離から少しでもダメージを与えにいく。

 大楯がぶつかった直後、僕はすぐさま再召喚を行い再び投げつけるを繰り返すけど、智弘さんはまるで効いていないのかピクリとも動かずスキルを発動させていた。


 ようやくスリングショットを使うチャンスが来たので、ここぞとばかりに大楯の再召喚の合間に弾を撃つけど、ほとんど金属の塊と言っていい大楯が効いていないのに、僕の攻撃なんて豆粒をぶつけられてる程度にしか感じないんじゃないだろうか?

 しかし何もしないのももどかしいと思い、僕は休まず手を動かし、乃亜も思いっきり大楯をぶつけにいってるけど、ついに時はきたのか光の収束が完了した。


「顕現しろ智天使! その大いなる力を見せつけろ!」

『■■■』


 声に認識できない音を放ちながら何もない空間から現れたのは、4枚の翼をもつ真っ白な衣服をまとった女性。

 仮面でその容姿は分からないけれど、その圧倒的な存在感は智弘さんの言う通り、天使と言っても過言ではない存在に思えた。


『■■■■■■!』


 天使の前に光で描かれた幾何学模様が現れた次の瞬間、僕も乃亜もまとめて目がくらむほどの光に呑み込まれ――


「やられた?」


 気が付けば舞台の外に立っていた。

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